俺のスキルは頭文字C

オフィス景

文字の大きさ
1 / 12

1 神授の儀

しおりを挟む
「はあ……」

 無意識のうちに深いため息をついていた。

「何よ、辛気くさいわね」

 隣に座った幼馴染のナディアが渋面で文句を言ってくる。この辺を治める領主様の娘で、容姿端麗、文武両道というところまではいいのだが、性格にやや難がある。他のヤツにはそんなことはないのだが、どうも俺のことを下僕か何かと思っている節があり、やたらと無理難題をふっかけてくるのだ。

「普通今日ってワクワクする日じゃないの?」

 まあ、普通ならそうなんだろうな。でも、どうしてもそんな気分にはなれなかったんだ。

「…嫌な予感しかしねえ……」

「外れスキルのことか?」

 ナディアを挟んだ反対側に座っていたアーノルドが訊いてきた。こいつも幼馴染だ。腕っぷしの強さは大人にもひけをとらないが、少々猪突猛進気味なところがある。わかりやすく言えば脳筋だ。まあ、悪いヤツではない。

「今から心配してたらハゲるぞ」

 うるせえ。家系的な心配事をつつくんじゃねえ。余計に切なくなるだろうが。

「何だったら〈発毛〉スキルとか大当たりじゃねえの?」

「嫌だぞ、そんなスキル」

 ウチの親父は大喜びしそうだが。

「そうかな。一部熱狂的な信者ができそうじゃん」

「オッサンに崇拝されても嬉しくねえよ」

「それもそうだね」

「あんたたち、何おバカな話してるのよ」

 完全に呆れた表情でナディアが言う。

「確かに生産性はまったくないな」

 苦笑しながら話題を変える。

「…実際どんなスキルを貰えるんだろうな?」

「これで一生が決まるようなもんだからね。気合い入れるわよ」

 気合いでスキルが決まるなら誰も外れは引かない。と思うが、それを口に出したら酷い目に遭うのはわかりきっているので、絶対に言わない。

「スキルが手に入ったら、二人とも冒険者よね。もちろん」

「おう」

 アーノルドは即答したが、俺は咄嗟に頷けなかった。俺の志向は冒険者ではなかったからだ。

「ケイジ?」

「…そのことなんだけどーー俺、冒険者になるつもりはないんだ」

「え?」

 数秒呆けた後、ナディアは眉を吊り上げた。

「ちょっと、何を今更勝手なこと言い出すのよ!?」

「俺は冒険者になるなんて一度も言ってないぞ」

「嘘よ。約束したじゃない」

「してない」

 どうもナディアの頭の中では自分に都合のいい話が組み立てられているらしい。約束などした覚えはないし、そもそも冒険者になるつもりはない。

 自分のことは自分が一番わかっているわけで、俺は自分に冒険者が務まるとは思っていなかった。俺がなりたいのはもっと別のものだ。

「何でよ!?」

 険悪なムードになりかけた時、扉が開いて神父様が部屋に入って来た。さすがにナディアもおとなしくなる。かなりきっつい目でこっちを睨んでいたが。

「さて、今年は君たち三人が対象だね」

 初老の神父様は柔和な笑みを浮かべて言った。

「「「よろしくお願いします!」」」

 三人揃って立ちあがり、一礼する。

 これから始まるのは『神授の儀』ーー俺たちにとって一生に一度の大切な儀式だ。

 これは15歳になると受けられる儀式で、儀式を受けることによって神様からひとつスキルを与えてもらえるというものだ。

 与えられるスキルは完全にランダムで、こちらの希望が反映されることは一切ない。与えられたものをいかに活用するか、全て本人次第というわけだ。スキルが自分の志望と合わない場合、自分の志望を優先する人もいる。

 ただ、何だかんだと言いながらも、九割以上の人がスキルを活かせる職に就いているのが現実だ。

 俺の志望は生産職なんだが、それに合うスキルだといいなぁ。

 神様への感謝を唱える神父様の説法の後、俺たちの前に水晶球が置かれた。

「水晶球に手を当ててください」

 言われた通り、水晶球の上に手を置く。

「神へ感謝の祈りを捧げてください。そうすれば水晶球にスキル名が浮かび上がってきます」

 神様、ありがとうございます。何卒生産職向けのスキルをお願いいたします。

 真摯に祈りを捧げると、水晶球の表面に文字が浮かび上がって来た。

「っしゃ、〈剣豪〉スキルだ!」

 アーノルドがガッツポーズを見せる。脳筋剣士のアーノルドには最高のスキルだ。

「やったー、〈四属性魔法〉!」

 ナディアも歓声をあげた。多分望んだ通りのスキルなんだろう。

 二人ともすげえな。〈剣豪〉も〈四属性魔法〉もとんでもねえレアスキルじゃんか。すぐにでも中央からスカウトが来るんじゃないか?

「ねえねえ、ケイジはどうだったの?」

「いや、それが……」

 絶賛困惑中としか言えない。俺の水晶球に浮かび上がった文字は、はっきり言って訳のわからんものだった。



〈C〉



 ただ一文字が浮かんでいるだけだったのだ……

これだけ?

途方に暮れるという言葉の意味が初めて理解できた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...