異世界肉人 ~モンスターの肉、UMEEEE~

オフィス景

文字の大きさ
11 / 44

11 ゴブリンの煮込み

しおりを挟む
 グツグツ。

 煮えたつ鍋からいい匂いがしている。

 煮込み始めてから三日目。そろそろ食べれるようになってきた。

「すごくいい匂いが……」

 起きてきたカレンさんが、目をキラキラさせている。

「おはよう、カレンさん。あとは仕上げに味を整えるだけだけど、朝にはちょっと重いかな?」

「この匂いを嗅がされてお預けさせられる方が重いです」

 すっかり食いしん坊キャラになってしまったカレンさんに苦笑いしつつ、朝食の準備をする。煮込みをメインに、パンとサラダを整えた。

「いただきます」

 まずは皿の中で存在感を放つ煮込み肉を口にする。

 ホロホロ。

 蕩ける肉に、絡まる芳醇な醤油ベースの煮汁。一緒に煮込んだ大根もどきと人参もどきもいいアクセントになっている。

「美味しいですぅ~」

 煮込みに負けないくらいトロトロのカレンさん、メッチャ可愛い。

「この美味しいお肉がゴブリンだなんて、見てなかったら絶対信じられません」

「いい感じに出来たな。これなら売り物にもできるだろ」

「わたしがお客さんだったら、毎日でも通います!」

 よかった。元の世界の味つけがこの世界でも受け入れられて。

 これなら何とかやっていけそうだと安堵した時、出入口の引戸が叩かれた。

「おーい、カレンちゃん、いるかい?」

「はーい」

 カレンさんが引戸を開けると、ご近所さんが何人かいた。

「おはようございます。どうしました?」

「どうしたもこうしたもないよ。この旨そうな匂いはなんだい?」

 どうやら煮込みの匂いが周辺に流れてしまったようだ。

「あ、これはですねーー」

 カレンさんが説明する。まず食堂を、いずれは宿屋を再開しようと思っていること。今はそのためのメニュー作りをしていること。

「どうせなら皆にも試食してもらうか?」

 開店すればこの人たちがお客さんになるわけだから、早い内に嗜好を掴んでおくのは大事なことだ。

「食わせてもらえるのかい?」

「ありがてえ。こんないい匂い嗅がされてお預けはつれえからなぁ」

「それじゃあ」

 ということで、煮込みを振る舞うことになった。

「はい、ゴブリンの煮込みです」

「え!?」

 おじさんたちが眉をひそめた。

「い、今なんて……?」

「気のせいか、ゴブリンの煮込み、って聞こえたような気が……」

「ええ、ゴブリンの煮込みですよ。ちなみに、モンスター料理の専門店になりますので、よろしくお願いします」

「モンスター料理!?」

「マジか……」

 明らかに腰が退けた。無理もないけど。

 やっぱりこの心理的障壁をどう乗り越えさせるかが鍵になりそうだな。素材を黙っておくのもひとつの手だが、騙されたと思う人が出たら、話がややこしくなる。味は間違いないのだから、ここは真っ向勝負だ。

「騙されたと思って一口食べてみて。今までこの味を知らなかっただけでもめちゃくちゃ後悔ものなのに、この先も知らないままなんて、人生の損失よ」

「そ、そんなにか……?」

「皆ゲンさんを神と崇めるようになるわ」

 カレンさん、煽るの上手いなぁ。

 神扱いまでされると、苦笑するしかないでしょ。

「そ、そこまで言うなら……」

 一人のおじさんが、決死の表情で煮込みを口に運んだ。

 目をぎゅっと閉じて咀嚼する。おじさんには似合わないな……

 ピタリ、と動きが止まった。

「お、おい、どうした?   大丈夫か?」

「…う……」

「おい、しっかりしろ」

「うめえええぇーっ!!」

 吼えた。

「なんじゃ、こりゃ!?」

「ゴブリンの煮込みよ。美味しいでしょ?」

 おじさんは頷いて、残りの煮込みをかっこんだ。

「うめえ、マジでうめえ。こんなうめえもん、食ったことねえよ。おまえらも早く食え。世界が変わるから」

「お、おう……」

 残りのおじさんたちも煮込みを食べ、すぐに虜になった。

 揃っておかわりを求められたが、ここで食い尽くされたら困る。

「今晩試食会を開きます。ご家族やご友人など誘っていただいて、大勢でお越しください」

「これもまた食えるのか?」

「準備しときますよ」

「わかった。絶対来る。知り合い全部連れてくる」

「お待ちしてます」

「こいつは楽しみだぜ」

「俺、夜まで何にも食わねえで腹減らすぜ」

「俺もだ」

 おじさんたちは子供のようにはしゃぎながら帰っていった。

「さて、カレンさん、忙しくなるぞ」

「はい!」

 俺たちはさっそく準備にとりかかった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

R・P・G ~女神に不死の身体にされたけど、使命が最低最悪なので全力で拒否して俺が天下統一します~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の現地調査のために訪れた山の中で異世界の大地の女神と接触する。 半ば強制的に異世界へと転生させられた凛人。しかしその世界は、欲と争いにまみれた戦乱の世だった。 凛人はその惑星の化身となり、星の防人として、人間から不死の絶対的な存在へとクラスチェンジを果たす。 だが、不死となった代償として女神から与えられた使命はとんでもないものであった…… 同じく地球から勇者として転生した異国の者たちも巻き込み、女神の使命を「絶対拒否」し続ける凛人の人生は、果たして!? 一見頼りない、ただのおっさんだった男が織りなす最強一味の異世界治世ドラマ、ここに開幕!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

処理中です...