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11 ゴブリンの煮込み
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グツグツ。
煮えたつ鍋からいい匂いがしている。
煮込み始めてから三日目。そろそろ食べれるようになってきた。
「すごくいい匂いが……」
起きてきたカレンさんが、目をキラキラさせている。
「おはよう、カレンさん。あとは仕上げに味を整えるだけだけど、朝にはちょっと重いかな?」
「この匂いを嗅がされてお預けさせられる方が重いです」
すっかり食いしん坊キャラになってしまったカレンさんに苦笑いしつつ、朝食の準備をする。煮込みをメインに、パンとサラダを整えた。
「いただきます」
まずは皿の中で存在感を放つ煮込み肉を口にする。
ホロホロ。
蕩ける肉に、絡まる芳醇な醤油ベースの煮汁。一緒に煮込んだ大根もどきと人参もどきもいいアクセントになっている。
「美味しいですぅ~」
煮込みに負けないくらいトロトロのカレンさん、メッチャ可愛い。
「この美味しいお肉がゴブリンだなんて、見てなかったら絶対信じられません」
「いい感じに出来たな。これなら売り物にもできるだろ」
「わたしがお客さんだったら、毎日でも通います!」
よかった。元の世界の味つけがこの世界でも受け入れられて。
これなら何とかやっていけそうだと安堵した時、出入口の引戸が叩かれた。
「おーい、カレンちゃん、いるかい?」
「はーい」
カレンさんが引戸を開けると、ご近所さんが何人かいた。
「おはようございます。どうしました?」
「どうしたもこうしたもないよ。この旨そうな匂いはなんだい?」
どうやら煮込みの匂いが周辺に流れてしまったようだ。
「あ、これはですねーー」
カレンさんが説明する。まず食堂を、いずれは宿屋を再開しようと思っていること。今はそのためのメニュー作りをしていること。
「どうせなら皆にも試食してもらうか?」
開店すればこの人たちがお客さんになるわけだから、早い内に嗜好を掴んでおくのは大事なことだ。
「食わせてもらえるのかい?」
「ありがてえ。こんないい匂い嗅がされてお預けはつれえからなぁ」
「それじゃあ」
ということで、煮込みを振る舞うことになった。
「はい、ゴブリンの煮込みです」
「え!?」
おじさんたちが眉をひそめた。
「い、今なんて……?」
「気のせいか、ゴブリンの煮込み、って聞こえたような気が……」
「ええ、ゴブリンの煮込みですよ。ちなみに、モンスター料理の専門店になりますので、よろしくお願いします」
「モンスター料理!?」
「マジか……」
明らかに腰が退けた。無理もないけど。
やっぱりこの心理的障壁をどう乗り越えさせるかが鍵になりそうだな。素材を黙っておくのもひとつの手だが、騙されたと思う人が出たら、話がややこしくなる。味は間違いないのだから、ここは真っ向勝負だ。
「騙されたと思って一口食べてみて。今までこの味を知らなかっただけでもめちゃくちゃ後悔ものなのに、この先も知らないままなんて、人生の損失よ」
「そ、そんなにか……?」
「皆ゲンさんを神と崇めるようになるわ」
カレンさん、煽るの上手いなぁ。
神扱いまでされると、苦笑するしかないでしょ。
「そ、そこまで言うなら……」
一人のおじさんが、決死の表情で煮込みを口に運んだ。
目をぎゅっと閉じて咀嚼する。おじさんには似合わないな……
ピタリ、と動きが止まった。
「お、おい、どうした? 大丈夫か?」
「…う……」
「おい、しっかりしろ」
「うめえええぇーっ!!」
吼えた。
「なんじゃ、こりゃ!?」
「ゴブリンの煮込みよ。美味しいでしょ?」
おじさんは頷いて、残りの煮込みをかっこんだ。
「うめえ、マジでうめえ。こんなうめえもん、食ったことねえよ。おまえらも早く食え。世界が変わるから」
「お、おう……」
残りのおじさんたちも煮込みを食べ、すぐに虜になった。
揃っておかわりを求められたが、ここで食い尽くされたら困る。
「今晩試食会を開きます。ご家族やご友人など誘っていただいて、大勢でお越しください」
「これもまた食えるのか?」
「準備しときますよ」
「わかった。絶対来る。知り合い全部連れてくる」
「お待ちしてます」
「こいつは楽しみだぜ」
「俺、夜まで何にも食わねえで腹減らすぜ」
「俺もだ」
おじさんたちは子供のようにはしゃぎながら帰っていった。
「さて、カレンさん、忙しくなるぞ」
「はい!」
俺たちはさっそく準備にとりかかった。
煮えたつ鍋からいい匂いがしている。
煮込み始めてから三日目。そろそろ食べれるようになってきた。
「すごくいい匂いが……」
起きてきたカレンさんが、目をキラキラさせている。
「おはよう、カレンさん。あとは仕上げに味を整えるだけだけど、朝にはちょっと重いかな?」
「この匂いを嗅がされてお預けさせられる方が重いです」
すっかり食いしん坊キャラになってしまったカレンさんに苦笑いしつつ、朝食の準備をする。煮込みをメインに、パンとサラダを整えた。
「いただきます」
まずは皿の中で存在感を放つ煮込み肉を口にする。
ホロホロ。
蕩ける肉に、絡まる芳醇な醤油ベースの煮汁。一緒に煮込んだ大根もどきと人参もどきもいいアクセントになっている。
「美味しいですぅ~」
煮込みに負けないくらいトロトロのカレンさん、メッチャ可愛い。
「この美味しいお肉がゴブリンだなんて、見てなかったら絶対信じられません」
「いい感じに出来たな。これなら売り物にもできるだろ」
「わたしがお客さんだったら、毎日でも通います!」
よかった。元の世界の味つけがこの世界でも受け入れられて。
これなら何とかやっていけそうだと安堵した時、出入口の引戸が叩かれた。
「おーい、カレンちゃん、いるかい?」
「はーい」
カレンさんが引戸を開けると、ご近所さんが何人かいた。
「おはようございます。どうしました?」
「どうしたもこうしたもないよ。この旨そうな匂いはなんだい?」
どうやら煮込みの匂いが周辺に流れてしまったようだ。
「あ、これはですねーー」
カレンさんが説明する。まず食堂を、いずれは宿屋を再開しようと思っていること。今はそのためのメニュー作りをしていること。
「どうせなら皆にも試食してもらうか?」
開店すればこの人たちがお客さんになるわけだから、早い内に嗜好を掴んでおくのは大事なことだ。
「食わせてもらえるのかい?」
「ありがてえ。こんないい匂い嗅がされてお預けはつれえからなぁ」
「それじゃあ」
ということで、煮込みを振る舞うことになった。
「はい、ゴブリンの煮込みです」
「え!?」
おじさんたちが眉をひそめた。
「い、今なんて……?」
「気のせいか、ゴブリンの煮込み、って聞こえたような気が……」
「ええ、ゴブリンの煮込みですよ。ちなみに、モンスター料理の専門店になりますので、よろしくお願いします」
「モンスター料理!?」
「マジか……」
明らかに腰が退けた。無理もないけど。
やっぱりこの心理的障壁をどう乗り越えさせるかが鍵になりそうだな。素材を黙っておくのもひとつの手だが、騙されたと思う人が出たら、話がややこしくなる。味は間違いないのだから、ここは真っ向勝負だ。
「騙されたと思って一口食べてみて。今までこの味を知らなかっただけでもめちゃくちゃ後悔ものなのに、この先も知らないままなんて、人生の損失よ」
「そ、そんなにか……?」
「皆ゲンさんを神と崇めるようになるわ」
カレンさん、煽るの上手いなぁ。
神扱いまでされると、苦笑するしかないでしょ。
「そ、そこまで言うなら……」
一人のおじさんが、決死の表情で煮込みを口に運んだ。
目をぎゅっと閉じて咀嚼する。おじさんには似合わないな……
ピタリ、と動きが止まった。
「お、おい、どうした? 大丈夫か?」
「…う……」
「おい、しっかりしろ」
「うめえええぇーっ!!」
吼えた。
「なんじゃ、こりゃ!?」
「ゴブリンの煮込みよ。美味しいでしょ?」
おじさんは頷いて、残りの煮込みをかっこんだ。
「うめえ、マジでうめえ。こんなうめえもん、食ったことねえよ。おまえらも早く食え。世界が変わるから」
「お、おう……」
残りのおじさんたちも煮込みを食べ、すぐに虜になった。
揃っておかわりを求められたが、ここで食い尽くされたら困る。
「今晩試食会を開きます。ご家族やご友人など誘っていただいて、大勢でお越しください」
「これもまた食えるのか?」
「準備しときますよ」
「わかった。絶対来る。知り合い全部連れてくる」
「お待ちしてます」
「こいつは楽しみだぜ」
「俺、夜まで何にも食わねえで腹減らすぜ」
「俺もだ」
おじさんたちは子供のようにはしゃぎながら帰っていった。
「さて、カレンさん、忙しくなるぞ」
「はい!」
俺たちはさっそく準備にとりかかった。
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