婚約破棄 ~ガチでやられると結構キツい~

オフィス景

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17 その頃、帝国では

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 辺境最前線の視察を終えて戻ってきたフローリアは、あてがわれた部屋に入って人目がなくなったところで大きなため息をついた。

「…疲れた……」

「お疲れさまです」

 労いの言葉とともに、侍女のセイラがお茶を出してくれる。

 一口飲むと、フローリアの緊張していた心身がようやく緩んだ。

「はあー、やっぱり魔物の相手は勝手がわからない分疲れるわ。何をやってくるか想像がつかないから、気を抜けないのよ」

「ああ、なるほど。それは大変ですね」

 セイラは同情混じりの労いをする。

「肩でも揉みましょうか?」

「そこまでしなくていいわ」

 苦笑したフローリアは柔らかく断ると、お茶をもう一口すすった。

 元来、帝国では辺境は重視されてはいなかった。最低限の抑えだけ置いて侵攻を防いで、領土の拡大はもっぱら人類世界の隣国を切り取る方向で成長してきたのだ。

 それが一転、辺境に目を向けるようになった大きな理由は、新たな隣国グリーンヒルの躍進である。中でも辺境の街フロントの飛躍的な発展が皇帝の興味を惹いたのだ。

 話を聞いたフローリアも今までなかった斬新な考え方を面白いと思い、父帝からの打診を快諾して最前線に赴任してきたのだ。

 意気揚々と仕事に取りかかったフローリアだったが、ことはそう簡単ではなかった。

 何事もそうだが、ノウハウのないところで物事を円滑に進めるのは困難である。表面の模倣はできても、なぜここがこうなっているのか、なぜここにこれが必要なのか、という肝を押さえていなければ、上手くいくものではない。

「グリーンヒルではどうやってるんだろ?」

「そうですねえ。上手くいっているところがどういうやり方をしているかは、すっごく知りたいですよね」

「そうだな。もし教えてもらえるのならありがたいな……まず無理だろうが」

「どうしてです?」

「普通秘密だろう。新しい成功のノウハウなんて」

「どうですかねえ。ケント王子なら、訊けば案外あっさり教えてくれそうな気もしますけど」

 セイラは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「うん。それはわたしも考えた。確かに彼なら教えてくれるかもしれない。でもーー」

「ああ、図々しい女って思われたら最悪ですものね」

「うう……」

 完璧に見透かされて、フローリアは乙女らしからぬ呻き声をあげた。

 確かにそうなる可能性はあるし、そうなってしまったら目もあてられない。

「それじゃあ手紙を書いてみましょう」

「手紙?」

「お伺いを立ててみたらいいんじゃないですか?   辺境統治についてお訊きしたいことがあります。よろしければお時間をいただけますか、って。OKなら堂々と訪ねて行けばいいですし、ダメでもそれほどダメージを受けることもないと思いますよ」

「なるほど」

 フローリアは納得して頷いた。



「ケント様、お手紙が届いております」

「手紙?」

 反射的に身構えてしまったのは、仕方のないことだろう。

「…ラスティーンから?」

 だとしたらゴミ箱直行、と思いながらケントは訊いた。

「いいえ。帝国のフローリア様からのようですよ」

「フローリア!?」

 意外な名前に、ケントの声が裏返りかける。

「フローリアが手紙を寄越すって…何だ……?」

 まったく心当たりがない上に、手紙というものに不信感を抱かされつつあるケントにはロクでもない想像しかできなかった。

 …まさかフローリアまで呪いの手紙を……?

 フローリアが聞いたら確実に物理的なツッコミを入れるであろうことを考えてしまう。

「いかがいたしますか?」

 侍女の問いかけにやっと我に返ったケントは、手紙を受け取り、封を切った。



親愛なるケント様

 一別以来ですが、いかがお過ごしでしょうか。

 その節は素敵な贈り物をいただき、ありがとうございました。重宝させていただいております。

 さて、本日お手紙を差し上げたのは、ひとつお願いしたいことがあってのお話になります。

 ご存じかも知れませんが、我が国でも辺境開発に力を入れていこうとしているところです。ただ、思い通りにならない部分も多く、悪戦苦闘しているのが現状です。

 ついては、この分野においての先進国である貴国の現況を視察させていただくとともに、可能なようならご教授をいただければ、とのお願いでございます。

 あつかましいお願いだとは重々承知の上ですが、何卒お願い申し上げます。

 突然のお手紙、大変失礼いたしました。

 時節柄、お身体ご自愛ください。

                                 フローリア



 手紙を書き慣れていない感が非常に強い、はっきり言えば拙い文章ではあったが、込めた気持ちは十分に伝わった。

「そうだよな。これが普通だよな」

 まともな手紙というだけで嬉しくなったケントは、早速歓迎と自らが案内する旨の返事をしたためたのであった。

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