ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る

黒崎隼人

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第2話:スキルの覚醒

 辺境の森に足を踏み入れてから、どれくらいの時間が経っただろうか。
 雨はとっくに止んでいたが、降り続いた雨でぬかるんだ地面が体力を容赦なく奪っていく。
 空腹と疲労で、もう一歩も動けなかった。

 大きな木の根元にずるずると座り込む。意識がもうろうとしてきた。
 このまま、誰にも知られずにここで死ぬのだろうか。
 勇者パーティでの楽しかった日々が、幻のように脳裏をよぎる。あれも、もう過去の話だ。

「……ここまで、か」

 諦めが口をついて出た。
 まぶたが重くなり、ゆっくりと目を閉じようとした、その時だった。

 ぽとり。

 何かが、俺の膝の上に落ちてきた。
 見ると、それは鮮やかな赤色をした木の実だった。どこから来たのだろうと顔を上げると、すぐ上の枝に、一羽の小さな小鳥がとまっていた。
 青い羽を持つ、見たこともない綺麗な鳥だ。その鳥が、俺をじっと見つめている。

 まさか、この鳥が?

 飢えでかすむ頭で、ぼんやりとそう考えた。
 そして、ほとんど無意識のうちに、俺はパーティにいた頃の癖で、その小鳥にスキルを使った。

【生態鑑定】

 いつも通り、脳内に鑑定結果が浮かび上がる。

『アオハネドリ:歌声が美しい小さな鳥』

 ああ、やっぱりな。こんな情報、何の役にも立たない。
 自嘲の笑みが浮かんだ、その瞬間だった。
 いつもならそこで終わるはずの鑑定結果の下に、新たな文章が浮かび上がってきたのだ。

『心配:この人間、お腹が空いているみたい。ボクのとっておきをあげる』

「……え?」

 思わず声が漏れた。
 今、何が表示された? 心の声?

 俺は信じられない気持ちで、もう一度、膝の上の木の実と枝の上の小鳥を交互に見た。
 小鳥は、こてんと首を傾げている。
 俺は震える手で、もう一度スキルを発動させた。

『アオハネドリ:歌声が美しい小さな鳥』
『疑問:どうして食べないのかな? もっと熟した方が良かった?』

 間違いない。これは、この小鳥の思考そのものだ。

 俺のスキルは、ただ生物の名前を表示するだけじゃなかったのか?
 今まで、魔物に対して使ってもこんなことは一度もなかった。表示されるのは、ただの短い説明文だけ。

 どうしてだろう? 魔物と動物では違うのか? いや、それとも……。

 俺は一つの可能性に行き当たった。
 これまで俺は、鑑定対象を「敵」としてしか見ていなかった。彼らの情報を引き出し、どうすれば効率よく倒せるか、そればかりを考えていた。鑑定対象に対して、何の感情も抱いていなかったのだ。

 だが、今、目の前にいるこの小鳥は違う。俺に木の実をくれた、命の恩人だ。
 俺は純粋な興味と、少しばかりの感謝を抱いて、この鳥を見ている。

 その心の持ちようの違いが、スキルの結果を変えたというのか?

 俺は震える手で、そっと木の実を拾い上げた。
 そして、枝の上のアオハネドリに向かって、できる限りの力で微笑んでみせた。

「ありがとう。……いただくよ」

 アオハネドリの心の声が、また聞こえてくる。

『喜び:よかった、食べてくれた! 元気を出して!』

 小鳥は嬉しそうに一声鳴くと、青い翼を羽ばたかせて森の奥へと飛んでいった。

 俺は、涙が止まらなくなった。
 追放された絶望の中でもたらされた、小さな、しかし温かい善意。それが、どれほど心に染みたことか。
 そして、同時に、とてつもない興奮が体の内側から湧き上がってくるのを感じた。

 ゴミスキル。役立たず。そう罵られ続けた俺の【生態鑑定】は、ただ鑑定するだけの能力なんかじゃなかった。

 これは、動物や、もしかしたら全ての生き物の心と意思疎通ができる、世界でたった一つの、唯一無二のスキルだったのだ。

 俺は木の実をそっと口に含んだ。
 甘酸っぱい味が、乾いた喉を潤していく。それは、生きる希望の味がした。

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