50 / 87
第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」
第17話「エルフの隠れ里」
しおりを挟む
俺の話を、エリアスは黙って聞いていた。時折、鋭い視線で俺を見つめるだけで、口を挟むことは一切ない。俺が異世界から来たという突拍子もない話も、彼は表情一つ変えずに受け止めていた。
俺が話し終えると、部屋にしばしの沈黙が流れた。
やがて、エリアスはゆっくりと口を開いた。
「……そうか。彼女が、やはり聖女の一族の生き残りだったか」
その声には、驚きよりも、どこか納得したような響きがあった。
「ご存知だったんですか?」
「我ら森のエルフは、古くから聖女の一族と盟約を結んでいる。彼らが危機に陥った時は、力を貸すと。……まさか、これほどまでに追い詰められていたとは、我らも気づかなかった。面目ない」
エリアスは、わずかに悔しさをにじませた。
「エルドラナ……その名も、久しく聞かなかった。そこは、我らが守るこの森の、さらに奥深くにある聖域。女神の血を引く者と、我らの一部の者しか、立ち入ることのできない場所だ」
「じゃあ、俺たちは……」
「ああ。君たちが目指していた場所は、正しかった。そこへ行けば、彼女は確かに守られるだろう」
その言葉に、俺は心の底から安堵した。道は間違っていなかったのだ。
「しかし」と、エリアスは続けた。その目は、再び俺を厳しく射抜く。
「問題は、君だ。異世界人よ」
「……」
「君の使う力……物質の理を捻じ曲げる、あの異質な力。それは、この森の、いや、世界の秩序を乱しかねない危険なものだ。我らは、そのような者を聖域へ案内するわけにはいかない」
やはり、そうきたか。
《概念編集》の力は、この世界の常識からあまりにも逸脱している。彼らが警戒するのも当然だろう。
「俺は、この力をルミナを守るためだけに使うと誓います!」
俺は必死に訴える。
「誓い、か。言葉だけでは、信用できんな」
エリアスは、冷たく言い放った。
どうすれば、信じてもらえるんだ。このままでは、俺だけがここに残され、ルミナと別れることになってしまう。それだけは、絶対に嫌だ。
俺が言い返そうとした、その時。
「……エリアス様」
部屋の入り口から、か細い、しかし凛とした声が聞こえた。
振り返ると、そこにルミナが立っていた。まだ顔色は少し白いが、自分の足でしっかりと立っている。
「ルミナ! もう身体はいいのか?」
「ええ。カイこそ、目が覚めたのね。よかった……」
彼女は俺に優しい笑みを向けると、すぐに真剣な表情に戻り、エリアスに向き直った。
「エリアス様。カイは、危険な人間ではありません。彼の力は、何度も私の命を救ってくれました。彼がいなければ、私はとっくに影の教団に捕まっていたでしょう」
「……しかし、聖女よ」
「彼を聖域へ連れて行けないというのなら、私もエルドラナへは行きません。ここで、彼と共に生きます」
ルミナは、きっぱりと言い切った。その瞳には、揺るぎない決意が宿っている。
「ルミナ……お前……」
俺は、胸が熱くなるのを感じた。彼女が、俺のことをそこまで想ってくれていたなんて。
ルミナの強い言葉に、さすがのエリアスも少し驚いたようだった。彼はしばらく黙って二人を見比べていたが、やがて深いため息をついた。
「……分かった。そこまで言うのなら、一つ、機会をやろう」
「機会、ですか?」
「そうだ。君に、試練を課す。その力が、聖なる森を汚す邪悪なものではないと、我らに証明してみせろ。もし、君がその試練を乗り越えられたなら、エルドラナへの道を案内しよう」
試練。それは、俺にとって唯一のチャンスだった。
「やります。どんな試練でも、受けて立ちます」
俺は、迷わず答えた。
エリアスは、俺の目を見て、静かにうなずいた。
「よかろう。では、体力が完全に回復するまで、ここでゆっくり休むがいい」
そう言うと、エリアスは静かに部屋を出ていった。
残された俺とルミナは、顔を見合わせた。
「……ありがとう、ルミナ。俺のために」
「いいのよ。言ったでしょ、私たちはパートナーだって」
彼女は、少し照れたように笑った。
エルフの里での、束の間の休息。しかし、それは、次なる試練への序章に過ぎなかった。俺は、必ずこの試練を乗り越え、ルミナと共にエルドラナへ行くと、心に強く誓った。
俺が話し終えると、部屋にしばしの沈黙が流れた。
やがて、エリアスはゆっくりと口を開いた。
「……そうか。彼女が、やはり聖女の一族の生き残りだったか」
その声には、驚きよりも、どこか納得したような響きがあった。
「ご存知だったんですか?」
「我ら森のエルフは、古くから聖女の一族と盟約を結んでいる。彼らが危機に陥った時は、力を貸すと。……まさか、これほどまでに追い詰められていたとは、我らも気づかなかった。面目ない」
エリアスは、わずかに悔しさをにじませた。
「エルドラナ……その名も、久しく聞かなかった。そこは、我らが守るこの森の、さらに奥深くにある聖域。女神の血を引く者と、我らの一部の者しか、立ち入ることのできない場所だ」
「じゃあ、俺たちは……」
「ああ。君たちが目指していた場所は、正しかった。そこへ行けば、彼女は確かに守られるだろう」
その言葉に、俺は心の底から安堵した。道は間違っていなかったのだ。
「しかし」と、エリアスは続けた。その目は、再び俺を厳しく射抜く。
「問題は、君だ。異世界人よ」
「……」
「君の使う力……物質の理を捻じ曲げる、あの異質な力。それは、この森の、いや、世界の秩序を乱しかねない危険なものだ。我らは、そのような者を聖域へ案内するわけにはいかない」
やはり、そうきたか。
《概念編集》の力は、この世界の常識からあまりにも逸脱している。彼らが警戒するのも当然だろう。
「俺は、この力をルミナを守るためだけに使うと誓います!」
俺は必死に訴える。
「誓い、か。言葉だけでは、信用できんな」
エリアスは、冷たく言い放った。
どうすれば、信じてもらえるんだ。このままでは、俺だけがここに残され、ルミナと別れることになってしまう。それだけは、絶対に嫌だ。
俺が言い返そうとした、その時。
「……エリアス様」
部屋の入り口から、か細い、しかし凛とした声が聞こえた。
振り返ると、そこにルミナが立っていた。まだ顔色は少し白いが、自分の足でしっかりと立っている。
「ルミナ! もう身体はいいのか?」
「ええ。カイこそ、目が覚めたのね。よかった……」
彼女は俺に優しい笑みを向けると、すぐに真剣な表情に戻り、エリアスに向き直った。
「エリアス様。カイは、危険な人間ではありません。彼の力は、何度も私の命を救ってくれました。彼がいなければ、私はとっくに影の教団に捕まっていたでしょう」
「……しかし、聖女よ」
「彼を聖域へ連れて行けないというのなら、私もエルドラナへは行きません。ここで、彼と共に生きます」
ルミナは、きっぱりと言い切った。その瞳には、揺るぎない決意が宿っている。
「ルミナ……お前……」
俺は、胸が熱くなるのを感じた。彼女が、俺のことをそこまで想ってくれていたなんて。
ルミナの強い言葉に、さすがのエリアスも少し驚いたようだった。彼はしばらく黙って二人を見比べていたが、やがて深いため息をついた。
「……分かった。そこまで言うのなら、一つ、機会をやろう」
「機会、ですか?」
「そうだ。君に、試練を課す。その力が、聖なる森を汚す邪悪なものではないと、我らに証明してみせろ。もし、君がその試練を乗り越えられたなら、エルドラナへの道を案内しよう」
試練。それは、俺にとって唯一のチャンスだった。
「やります。どんな試練でも、受けて立ちます」
俺は、迷わず答えた。
エリアスは、俺の目を見て、静かにうなずいた。
「よかろう。では、体力が完全に回復するまで、ここでゆっくり休むがいい」
そう言うと、エリアスは静かに部屋を出ていった。
残された俺とルミナは、顔を見合わせた。
「……ありがとう、ルミナ。俺のために」
「いいのよ。言ったでしょ、私たちはパートナーだって」
彼女は、少し照れたように笑った。
エルフの里での、束の間の休息。しかし、それは、次なる試練への序章に過ぎなかった。俺は、必ずこの試練を乗り越え、ルミナと共にエルドラナへ行くと、心に強く誓った。
11
あなたにおすすめの小説
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~
御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。
異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。
前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。
神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。
朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。
そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。
究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
転生したら無自覚に世界最強になっていた件。周りは僕を崇めるけど、僕自身は今日も日雇い仕事を探しています。
黒崎隼人
ファンタジー
トラックに轢かれ異世界に転生した元サラリーマンの星野悠。
彼に与えられたのは「異常な魔力」と「無自覚に魔術を使う能力」。
しかし自己評価が低すぎる悠は、自分のチート能力に全く気づかない。
「困っている人を助けたい」――その純粋な善意だけで、魔物を一撃で消滅させ、枯れた大地を蘇らせ、難病を癒してしまう。
周囲が驚愕し、彼を英雄と崇めても、本人は「たまたまです」「運が良かっただけ」と首を傾げるばかり。
これは、お人好しな青年が、無自覚なまま世界を救ってしまう、心温まる勘違いと奇跡の物語。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる