「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人

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第一章「無自覚チート《概念編集》と訳あり聖女の逃避行」

第43話「国境の町と不穏な噂」

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 聖樹の都エルドラナを後にしてから、一週間が過ぎた。

 俺とルミナは、大森林を抜けアルストリア王国の東に位置する国境の町、クロスロードに到着していた。
 その名の通りいくつかの街道が交差する交通の要衝であり、様々な人種や文化が入り混じる活気にあふれた町だった。

「わあ……! すごい人……!」

 ルミナは初めて見る人間の町の雑踏に、目を丸くしてキョロキョロと周囲を見回している。
 石畳の道には露店がずらりと並び、威勢のいい商人の呼び込みの声や荷馬車を引く馬のいななき、子供たちのはしゃぐ声が渾然一体となって耳に飛び込んでくる。
 森の静寂に慣れていた彼女にとって、この喧騒は驚きだったのだろう。
 その無邪気な反応が微笑ましくて、俺は思わず笑みをこぼした。

「これが人間の町だよ。俺がいた世界ももっとすごかったけどな」

「カイの世界……。いつか話を聞かせてほしいわ」

「ああ、もちろんだ。……さて、まずは今日の宿を探さないとな。それから情報収集だ」

 俺たちは冒険者ギルドへ向かうことにした。
 ギルドは旅人や情報が集まる中心地だ。
 影の教団の残党や、各地の異変に関する手がかりが何か見つかるかもしれない。
 クロスロードの冒険者ギルドはリムベルのそれよりも規模が大きく、屈強な冒険者たちでごった返していた。
 俺たちはカウンターへ向かい、まずは宿の手配を済ませる。

「さてと。何か気になる依頼はあるか?」

 壁一面に貼られた依頼書を、二人で眺める。
 薬草採集、ゴブリン討伐、隊商の護衛……。
 ありふれた依頼が並ぶ中、一枚の古びた羊皮紙が俺の目に留まった。

『緊急依頼:北のラスク鉱山における原因不明の魔力汚染、及び魔物の凶暴化に関する調査。危険度B。高額報酬』

「鉱山の、魔力汚染……?」

「ラスク鉱山……。この町で採れる鉄鉱石のほとんどを産出している重要な場所のはずよ。そこで問題が?」

 ルミナが眉をひそめる。
 俺たちがその依頼書を読んでいると、後ろから嗄れた声が聞こえてきた。

「……やめとけ、若いの。その依頼は死にに行くようなもんだ」

 振り返るとそこに立っていたのは、片目に眼帯をした歴戦の古兵といった風情のドワーフの冒険者だった。

「どういうことですか?」

 俺が尋ねるとドワーフは大きなため息をついた。

「わしらも一週間前にその依頼を受けて、仲間と調査に向かったんだ。だが鉱山の中はひどいもんだった。空気が淀み、呼吸をしているだけで気分が悪くなる。そして普段はおとなしいはずの鉱石トカゲどもが、まるで狂ったように襲いかかってきやがった」

 彼は仲間の一人をそこで失ったのだと、悔しそうに語った。

「あれはただの魔物の凶暴化じゃねえ。もっと根源的な……何か邪悪なもんが鉱山の奥深くに巣食ってる。ギルドもこれ以上犠牲者を出すわけにはいかんと、今は調査を中断している状態だ」

 その話は俺たちの興味を強く引いた。
 邪悪な何か。
 魔力汚染。
 それは嘆きの沼で経験した、あの瘴気とよく似ている。

「……カイ」

 ルミナが俺の顔を窺うように見上げる。
 彼女も同じことを考えているのだろう。

「その依頼、俺たちが引き受けます」

 俺がカウンターの受付嬢にそう告げると、ギルドの中が一瞬だけざわついた。

「正気かい、兄ちゃん!」

 さっきのドワーフが驚きの声を上げる。

「ええ。俺たちならなんとかできるかもしれない」

 根拠のない自信ではない。
 嘆きの沼を浄化した実績がある。
 そして今の俺たちには、あの頃以上の力がある。
 受付嬢は俺とルミナのランク――エルドラナでの功績をエリアスがギルド本部に報告してくれたおかげで、特例でAランクに昇格していた――を確認すると、驚きながらも手続きを進めてくれた。

「分かりました。ですがくれぐれもご無理はなさらないでください。何かあればすぐに引き返すように」

 こうして俺たちは新たな旅での最初の任務に、挑むことになった。
 それは世界の歪みを正すという、俺たちの使命の第一歩でもあった。
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