「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人

文字の大きさ
2 / 87
第二章「最強になった俺と聖女様、世界の真の黒幕を倒しに行きます。」

第52話「大砂蟲の怒り」

しおりを挟む
 族長の案内で、俺たちはオアシス都市シルティスの中心にある古びた神殿へとやってきた。
 都市の美しい景観とは不釣り合いなほどに風化し、半分砂に埋もれたその神殿が地下遺跡への入り口だという。

「ここから先は我らも未知の領域じゃ。くれぐれも気をつけてくだされ」

 族長は心配そうに俺たちを見送ると、神殿の入り口を固く閉ざした。

 神殿の内部はひんやりとした空気に満ちていた。
 壁には古代の文字や巨大な虫のような生物を描いた壁画がびっしりと刻まれている。

「この壁画……サンドワームかしら」

「ああ。どうやらこの都市の民は、大昔からサンドワームを神として崇めて共存してきたみたいだな」

 壁画に描かれたサンドワームは決して恐ろしい怪物ではなく、人々と共に作物を育て外敵から都市を守る慈愛に満ちた存在として描かれていた。

 そんな守り神が、なぜ。

 俺たちはらせん状に地下へと続く階段を慎重に下りていった。
 進むにつれてラスク鉱山で感じたのと同じ、邪悪な瘴気が濃くなっていくのを感じる。

 階段を下りきるとそこは広大な地下空洞になっていた。
 天井は高く所々に光る苔が群生しており、ぼんやりと周囲を照らしている。
 空洞の中央には巨大な竜の骨が横たわっており、その肋骨の部分がまるで門のように見えた。

 クリスタル・ドレイクが見せてくれたビジョンそのものだ。

 俺たちが竜骨の門へ近づこうとした、その時。

 ザザザザザッ!

 俺たちの足元の砂が突如として激しく盛り上がった。
 そして次の瞬間、巨大な口が砂の中から飛び出してきたのだ。

 その口は円形で、内側には何重にも並んだ剃刀のように鋭い牙がびっしりと生えている。
 体長は数十メートルはありそうだ。
 まるで地獄から現れた巨大なミミズだ。

「大砂蟲(サンドワーム)!」

 ルミナが叫ぶ。
 壁画に描かれていた慈愛に満ちた姿とは似ても似つかない、狂気と憎悪に満ちた瞳が俺たちを睨みつけていた。

「シャアアアアアッ!」

 サンドワームは甲高い叫び声を上げると、その巨大な身体を鞭のようにしならせ俺たちに襲いかかってきた。

「危ない!」

 俺はルミナを突き飛ばし、自分も横へ転がって回避する。
 俺たちがいた場所をサンドワームの巨体が通り過ぎ、竜骨の一部に激突して骨を粉々に砕いた。

「カイ、あいつの口から酸を吐き出すわ! 気をつけて!」

 ルミナの警告通り、サンドワームは口から強酸性の消化液を霧状に噴射してきた。
 酸の霧が触れた岩盤がジュウジュウと音を立てて溶けていく。

 俺たちはサンドワームの猛攻を必死でかわし続ける。
 だが相手は砂の中を自由自在に移動し、どこから現れるか予測がつかない。
 完全に地の利は相手にあった。

「くそっ、このままじゃジリ貧だ!」

 攻撃を仕掛けようにも、その巨体は常に砂の中に隠れており狙いが定められない。

「カイ! 私が動きを止める! あなたはあいつを正気に戻す方法を考えて!」

 ルミナは意を決したように詠唱を始めた。

「聖なる大地よ、我が声にこたえよ! その足枷となりて、邪なる者を縛めたまえ! アース・バインド!」

 彼女が地面に手を触れると地下空洞の床から光る鎖が無数に出現し、砂の中から顔を出したサンドワームの身体に絡みついていった。

「シャアアアアッ!」

 サンドワームは激しく暴れるが、聖なる力で編まれた鎖は簡単にはちぎれない。

「ぐっ……! でも、長くはもたないわ!」

 ルミナの額に大粒の汗が浮かぶ。
 巨大なサンドワームを一体で押さえつけるのは、彼女にとっても相当な負担のようだった。

『正気に戻す方法……!』

 俺はクリスタル・ドレイクの時を思い出す。
 あの時は鉱山そのものと繋がり、守護獣との関係性を再構築することで彼を正気に戻すことができた。

 だが今回はどうだ?
 この遺跡と繋がる?
 いや、この遺跡自体が瘴気の発生源になっている可能性がある。
 下手に繋がれば俺が逆に汚染されかねない。

 何か、別の方法を……。

 その時、俺の目にサンドワームの頭部の一部が不自然に黒く変色し、禍々しいオーラを放っているのが見えた。
 まるで何かの寄生虫に取り憑かれているかのようだ。

『あれだ!』

 瘴気の根源はサンドワーム自身の体内にあるのではない。
 外部から何者かによって植え付けられたものだ。

「ルミナ、あいつの頭を見てくれ! 黒くなっている部分がある!」

「ええ、見えるわ! あれが呪いの本体……!」

「そうだ! あれをあいつの身体から引き剥がす!」

 だがどうやって? あの巨体に近づくだけでも命がけだ。

『いや、直接触る必要はない。《概念編集》はイメージの力。俺の意志が届けば……!』

 俺は剣を構え、意識を集中させた。

『あの「サンドワームに寄生する、邪悪な呪い」と、「サンドワーム本体」との「繋がり」を……断ち切れ!』

 俺が強く念じると剣の切っ先から金色の光の糸が放たれた。
 糸は一直線にサンドワームの頭部、黒く変色した部分へと向かっていく。

 それは物理的な攻撃ではない。
 概念的な「関係性」に直接干渉する俺だけの力。

「シャ……ギ……!?」

 光の糸が触れた瞬間サンドワームの動きがぴたりと止まった。
 そして黒い部分がまるで生き物のように蠢きだし、サンドワームの身体からずるりと剥がれ落ちたのだ。

 地面に落ちた黒い塊は不定形のスライムのような姿に変わり、俺たちに敵意を向けてきた。

「あれが正体……!」

 サンドワームを操っていたのは、邪神の眷属、呪いを植え付けることに特化した魔物の一種だったのだ。

 正気を取り戻したサンドワームは、自らを苦しめていた元凶を怒りに満ちた瞳で睨みつけると、その巨大な口で一瞬のうちにスライム状の魔物を飲み込んでしまった。

「……終わったのか?」

 俺が息をつくとサンドワームは静かに俺たちの方へ向き直った。
 その瞳にはもう狂気の色はない。
 代わりにあったのは深い感謝と敬意の色だった。

 彼は深々と頭を下げると、竜骨の門の奥をその顎で示した。

『……ユケ……勇者タチヨ……我ガ、主ノ眠ル場所ヘ……』

 サンドワームの心の声が聞こえた。

 俺とルミナは顔を見合わせ、うなずき合う。

 守り神の導きを受け、俺たちはついに第三の楔が眠る遺跡の最深部へと足を踏み入れるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

神獣転生のはずが半神半人になれたので世界を歩き回って第二人生を楽しみます~

御峰。
ファンタジー
不遇な職場で働いていた神楽湊はリフレッシュのため山に登ったのだが、石に躓いてしまい転げ落ちて異世界転生を果たす事となった。 異世界転生を果たした神楽湊だったが…………朱雀の卵!? どうやら神獣に生まれ変わったようだ……。 前世で人だった記憶があり、新しい人生も人として行きたいと願った湊は、進化の選択肢から『半神半人(デミゴット)』を選択する。 神獣朱雀エインフェリアの息子として生まれた湊は、名前アルマを与えられ、妹クレアと弟ルークとともに育つ事となる。 朱雀との生活を楽しんでいたアルマだったが、母エインフェリアの死と「世界を見て回ってほしい」という頼みにより、妹弟と共に旅に出る事を決意する。 そうしてアルマは新しい第二の人生を歩き始めたのである。 究極スキル『道しるべ』を使い、地図を埋めつつ、色んな種族の街に行っては美味しいモノを食べたり、時には自然から採れたての素材で料理をしたりと自由を満喫しながらも、色んな事件に巻き込まれていくのであった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

転生したら無自覚に世界最強になっていた件。周りは僕を崇めるけど、僕自身は今日も日雇い仕事を探しています。

黒崎隼人
ファンタジー
トラックに轢かれ異世界に転生した元サラリーマンの星野悠。 彼に与えられたのは「異常な魔力」と「無自覚に魔術を使う能力」。 しかし自己評価が低すぎる悠は、自分のチート能力に全く気づかない。 「困っている人を助けたい」――その純粋な善意だけで、魔物を一撃で消滅させ、枯れた大地を蘇らせ、難病を癒してしまう。 周囲が驚愕し、彼を英雄と崇めても、本人は「たまたまです」「運が良かっただけ」と首を傾げるばかり。 これは、お人好しな青年が、無自覚なまま世界を救ってしまう、心温まる勘違いと奇跡の物語。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...