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第9話「領地の大発展」
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セリーナによる卑劣な妨害工作は、皮肉にもグレンドール村をさらなる高みへと押し上げる結果となった。アレクサンダー王子の迅速かつ的確な支援により危機を乗り越えた私たちの物語は、一種の英雄譚のように周辺地域に広まったのだ。
「悪しき聖女の陰謀を、賢女と翠の王子が打ち破った」
そんな噂と共に、グレンドール村の農産物は「困難に打ち勝った幸運の作物」として、以前にも増して人気を博すようになった。ベルガリア王国との貿易量は倍増し、他の領地や国からも、取引を求める使者がひっきりなしに訪れるようになった。
村の財政は、もはや「潤った」というレベルを遥かに超えていた。有り余るほどの資金を、私は村の未来のために投資することにした。
まず着手したのは、インフラの整備だ。アレクサンダー王子が紹介してくれたベルガリア王国の技術者の協力のもと、大規模な灌漑水路を建設した。これにより、天候に左右されることなく、安定して畑に水を供給できるようになった。もう、日照りを恐れる必要はない。
次に、農業技術のさらなる革新だ。私は、前世の記憶を頼りに「温室栽培」の導入を計画した。ガラスは高価だったが、今の村の財政なら問題ない。木材とガラスで建てられた大きな温室は、冬でも暖かい環境を保つことができ、トマトやキュウリといった夏野菜の年間を通した栽培を可能にした。これは、この世界において画期的なことだった。
さらに、品種改良にも本格的に取り組んだ。より病気に強く、収穫量の多い小麦。より糖度の高いトウモロコシ。様々な種類のジャガイモ。私はエルヴィンや村の若者たちに交配の技術を教え、皆で試行錯誤を重ねた。その結果、グレンドール村でしか栽培されていない、独自のブランド作物が次々と誕生した。
加工品の開発も、ユリアを中心にますます活発になった。トマトを使ったソースやケチャップ、長期保存可能な瓶詰めのピクルス、様々なハーブをブレンドした香辛料など、商品のラインナップは驚くほど多様化した。ユリアが立ち上げた「グレンドール商会」は、今や大陸でも有数の商会へと成長していた。
村の姿も一変した。傾きかけていた古い家は、レンガ造りの丈夫で美しい家へと建て替えられた。石畳の道が整備され、夜にはガス灯が優しく灯る。村の中心には、立派な役場と学校、そして診療所が建てられた。かつて若者たちが捨てていった村は、今や大陸中から人が集まる、活気に満ちた豊かな町へと変貌を遂げていた。
そして、グレンドール村の最も価値ある輸出品は、農産物そのものではなく、「農業技術」そのものになっていた。
「リセラ様、どうか我々の領地にも、その進んだ農業技術をご指導いただけないでしょうか」
近隣の領主たちが、頭を下げて教えを乞いにやってくるようになったのだ。彼らは、痩せた土地で苦しむ自らの領民を救いたいと、真剣な眼差しで私に訴えかけた。
私は、それを断る理由はなかった。知識は、独占するものではなく、分かち合うものだ。私は視察団を快く受け入れ、エルヴィンを責任者として、土壌改良の方法から輪作システム、堆肥作りのノウハウまで、惜しみなく伝授した。もちろん、無償ではない。指導料として、正当な対価はいただいた。これもまた、村の新たな収入源となった。
グレンドール村は、単なる豊かな村から、大陸の農業をリードする「農業技術センター」としての役割を担うようになったのだ。
私は、領主として多忙な日々を送っていた。だが、その毎日は充実感に満ち溢れていた。王宮で過ごした二年間が、色褪せた夢のように感じられた。
「君は、本当にすごいな」
ある日、執務室で書類の山と格闘している私の元に、いつものようにふらりとアレクサンダー王子がやってきた。彼は、感心したように室内の様子と、窓の外に広がる町の景色を見比べている。
「ここに来るたびに、町が成長している。まるで生きているようだ」
「ふふ、嬉しいことを言ってくださいますね。ですが、まだまだやることは山積みです」
「そうだろうな。君の夢は、この程度の成功で終わるはずがない」
彼は私の隣に座ると、私の手からペンをそっと取り、自分の大きな手で優しく包み込んだ。
「リセラ。君は、この領地を、大陸一の楽園にした。君が成し遂げたことは、誰にも真似のできない偉業だ」
彼の真剣な眼差しに、私の胸が熱くなる。
「君は、一人の領主として、これ以上ないほどの成功を収めた。もう、誰にも遠慮する必要はないはずだ。君自身の幸せを、考えてもいい頃ではないか?」
彼の言わんとすることは、痛いほどにわかった。私の心は、もうずっと前から決まっている。
私は、彼の手をそっと握り返した。それが、私の答えだった。
「悪しき聖女の陰謀を、賢女と翠の王子が打ち破った」
そんな噂と共に、グレンドール村の農産物は「困難に打ち勝った幸運の作物」として、以前にも増して人気を博すようになった。ベルガリア王国との貿易量は倍増し、他の領地や国からも、取引を求める使者がひっきりなしに訪れるようになった。
村の財政は、もはや「潤った」というレベルを遥かに超えていた。有り余るほどの資金を、私は村の未来のために投資することにした。
まず着手したのは、インフラの整備だ。アレクサンダー王子が紹介してくれたベルガリア王国の技術者の協力のもと、大規模な灌漑水路を建設した。これにより、天候に左右されることなく、安定して畑に水を供給できるようになった。もう、日照りを恐れる必要はない。
次に、農業技術のさらなる革新だ。私は、前世の記憶を頼りに「温室栽培」の導入を計画した。ガラスは高価だったが、今の村の財政なら問題ない。木材とガラスで建てられた大きな温室は、冬でも暖かい環境を保つことができ、トマトやキュウリといった夏野菜の年間を通した栽培を可能にした。これは、この世界において画期的なことだった。
さらに、品種改良にも本格的に取り組んだ。より病気に強く、収穫量の多い小麦。より糖度の高いトウモロコシ。様々な種類のジャガイモ。私はエルヴィンや村の若者たちに交配の技術を教え、皆で試行錯誤を重ねた。その結果、グレンドール村でしか栽培されていない、独自のブランド作物が次々と誕生した。
加工品の開発も、ユリアを中心にますます活発になった。トマトを使ったソースやケチャップ、長期保存可能な瓶詰めのピクルス、様々なハーブをブレンドした香辛料など、商品のラインナップは驚くほど多様化した。ユリアが立ち上げた「グレンドール商会」は、今や大陸でも有数の商会へと成長していた。
村の姿も一変した。傾きかけていた古い家は、レンガ造りの丈夫で美しい家へと建て替えられた。石畳の道が整備され、夜にはガス灯が優しく灯る。村の中心には、立派な役場と学校、そして診療所が建てられた。かつて若者たちが捨てていった村は、今や大陸中から人が集まる、活気に満ちた豊かな町へと変貌を遂げていた。
そして、グレンドール村の最も価値ある輸出品は、農産物そのものではなく、「農業技術」そのものになっていた。
「リセラ様、どうか我々の領地にも、その進んだ農業技術をご指導いただけないでしょうか」
近隣の領主たちが、頭を下げて教えを乞いにやってくるようになったのだ。彼らは、痩せた土地で苦しむ自らの領民を救いたいと、真剣な眼差しで私に訴えかけた。
私は、それを断る理由はなかった。知識は、独占するものではなく、分かち合うものだ。私は視察団を快く受け入れ、エルヴィンを責任者として、土壌改良の方法から輪作システム、堆肥作りのノウハウまで、惜しみなく伝授した。もちろん、無償ではない。指導料として、正当な対価はいただいた。これもまた、村の新たな収入源となった。
グレンドール村は、単なる豊かな村から、大陸の農業をリードする「農業技術センター」としての役割を担うようになったのだ。
私は、領主として多忙な日々を送っていた。だが、その毎日は充実感に満ち溢れていた。王宮で過ごした二年間が、色褪せた夢のように感じられた。
「君は、本当にすごいな」
ある日、執務室で書類の山と格闘している私の元に、いつものようにふらりとアレクサンダー王子がやってきた。彼は、感心したように室内の様子と、窓の外に広がる町の景色を見比べている。
「ここに来るたびに、町が成長している。まるで生きているようだ」
「ふふ、嬉しいことを言ってくださいますね。ですが、まだまだやることは山積みです」
「そうだろうな。君の夢は、この程度の成功で終わるはずがない」
彼は私の隣に座ると、私の手からペンをそっと取り、自分の大きな手で優しく包み込んだ。
「リセラ。君は、この領地を、大陸一の楽園にした。君が成し遂げたことは、誰にも真似のできない偉業だ」
彼の真剣な眼差しに、私の胸が熱くなる。
「君は、一人の領主として、これ以上ないほどの成功を収めた。もう、誰にも遠慮する必要はないはずだ。君自身の幸せを、考えてもいい頃ではないか?」
彼の言わんとすることは、痛いほどにわかった。私の心は、もうずっと前から決まっている。
私は、彼の手をそっと握り返した。それが、私の答えだった。
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