12 / 16
第11話「災い転じて福となす、勝利の朝」
しおりを挟む
光が収まると、そこには静寂だけが残っていた。
黒い泥流は完全に消滅し、空には雲の切れ間から満天の星空が顔を覗かせていた。
村の北側に広がっていた荒野は、浄化の余波を受けて、一面の白い花畑に変わっていた。
その花畑の中心に、黄金の鎧を解いたセシリアが立っていた。
彼女はゆっくりとこちらを振り向き、ふらりと倒れそうになった。
私は慌てて駆け寄り、彼女を支えた。
「セシリア! 大丈夫か?」
「……腹が、減った」
彼女は私の腕の中で、力なくつぶやいた。
あれだけの巨大恵方巻を食べた直後に、もう空腹とは。あのエネルギー変換効率は燃費が悪すぎる。
「ああ、わかった。すぐに何か作るよ」
村人たちが歓声を上げて駆け寄ってくる。
「勝った! 勝ったぞぉぉ!」
「ハルト様、セシリア様、万歳!」
男たちが私とセシリアを胴上げしようとするが、セシリアは「今は揺らすな」と弱々しく拒否した。
翌朝。
村は祝祭の空気に包まれていた。
大厄を退けたことで、この土地の呪いは完全に解けたらしい。空気は澄み渡り、作物の成長速度はさらに加速していた。
私は約束通り、勝利の宴を用意することにした。
今回の主役は、もちろん大豆だ。
だが、ただの大豆料理ではない。私は、日本が誇る最強の発酵食品、「納豆」を解禁することにした。
実はこっそりと藁づとを作り、煮豆を発酵させていたのだ。
糸を引く、あの独特の香り。
好き嫌いが分かれるのは承知の上だが、この栄養価とスタミナ回復効果は、今の疲弊した村人たちに最適だ。
大広間に集まった村人たちの前に、白米と味噌汁、焼き魚、そして小鉢に入った納豆を並べる。
「なんだこれ? 腐ってるのか?」
誰かが鼻をつまむ。
「腐ってるんじゃない、発酵してるんだ。騙されたと思って、醤油をかけてかき混ぜて、ご飯に乗せて食べてみてくれ」
私が手本を見せる。
箸でかき混ぜると、空気が入り白く粘り気が出てくる。そこに刻みネギとカラシを少し。
熱々のご飯の上にとろりと乗せる。
口へ運ぶ。
……美味い。大豆の旨味が爆発的に増幅されている。
恐る恐る真似をする村人たち。
一口食べた瞬間、彼らの反応は二分された。
「うわっ、なんだこのネバネバは! でも……癖になる!」
「臭い! 無理だ! ……あれ? もう一口食べたくなるぞ?」
セシリアは、最初こそ眉をひそめていたが、一口食べると目を見開いた。
「……濃い。チーズのような、深みがある。このネバネバが、白米と絡み合って喉越しを良くしている……ハルト殿、おかわりだ」
どうやら彼女は何でもいける口らしい。
宴は大盛況だった。納豆論争で盛り上がりながら、誰もが生きている喜びを噛み締めていた。
その最中、村の入り口に見慣れない豪華な馬車が到着した。
紋章がついている。王家の紋章だ。
馬車から降りてきたのは、恰幅の良い初老の男性。王都からの視察官……いや、その威厳のあるたたずまいは、もしかして。
「よい匂いがするのう」
男は護衛を制して、ずかずかと広場に入ってきた。
セシリアが飛び上がり、最敬礼をする。
「こ、国王陛下!?」
村中が凍りついた。
国王自らのお出ましとは。どうやら、昨夜の黄金の光と浄化の波動は、王都にまで届いていたらしい。
国王は私の前に立ち、ニカッと笑った。
「そなたが、この奇跡を起こしたという農夫か?」
「は、はい。ハルトと申します」
「うむ。堅苦しいのはよい。それより、その糸を引く奇妙な豆料理……余にもくれぬか?」
まさかの納豆リクエスト。
私は震える手で、国王陛下に納豆ご飯を差し出した。
陛下は豪快にかき込み、そして唸った。
「見事じゃ! 余の疲れた胃腸に染み渡るわ!」
どうやら、この国のトップもグルメだったようだ。
こうして、私の作る「豆料理」は、国家認定の味となることが決定した。
黒い泥流は完全に消滅し、空には雲の切れ間から満天の星空が顔を覗かせていた。
村の北側に広がっていた荒野は、浄化の余波を受けて、一面の白い花畑に変わっていた。
その花畑の中心に、黄金の鎧を解いたセシリアが立っていた。
彼女はゆっくりとこちらを振り向き、ふらりと倒れそうになった。
私は慌てて駆け寄り、彼女を支えた。
「セシリア! 大丈夫か?」
「……腹が、減った」
彼女は私の腕の中で、力なくつぶやいた。
あれだけの巨大恵方巻を食べた直後に、もう空腹とは。あのエネルギー変換効率は燃費が悪すぎる。
「ああ、わかった。すぐに何か作るよ」
村人たちが歓声を上げて駆け寄ってくる。
「勝った! 勝ったぞぉぉ!」
「ハルト様、セシリア様、万歳!」
男たちが私とセシリアを胴上げしようとするが、セシリアは「今は揺らすな」と弱々しく拒否した。
翌朝。
村は祝祭の空気に包まれていた。
大厄を退けたことで、この土地の呪いは完全に解けたらしい。空気は澄み渡り、作物の成長速度はさらに加速していた。
私は約束通り、勝利の宴を用意することにした。
今回の主役は、もちろん大豆だ。
だが、ただの大豆料理ではない。私は、日本が誇る最強の発酵食品、「納豆」を解禁することにした。
実はこっそりと藁づとを作り、煮豆を発酵させていたのだ。
糸を引く、あの独特の香り。
好き嫌いが分かれるのは承知の上だが、この栄養価とスタミナ回復効果は、今の疲弊した村人たちに最適だ。
大広間に集まった村人たちの前に、白米と味噌汁、焼き魚、そして小鉢に入った納豆を並べる。
「なんだこれ? 腐ってるのか?」
誰かが鼻をつまむ。
「腐ってるんじゃない、発酵してるんだ。騙されたと思って、醤油をかけてかき混ぜて、ご飯に乗せて食べてみてくれ」
私が手本を見せる。
箸でかき混ぜると、空気が入り白く粘り気が出てくる。そこに刻みネギとカラシを少し。
熱々のご飯の上にとろりと乗せる。
口へ運ぶ。
……美味い。大豆の旨味が爆発的に増幅されている。
恐る恐る真似をする村人たち。
一口食べた瞬間、彼らの反応は二分された。
「うわっ、なんだこのネバネバは! でも……癖になる!」
「臭い! 無理だ! ……あれ? もう一口食べたくなるぞ?」
セシリアは、最初こそ眉をひそめていたが、一口食べると目を見開いた。
「……濃い。チーズのような、深みがある。このネバネバが、白米と絡み合って喉越しを良くしている……ハルト殿、おかわりだ」
どうやら彼女は何でもいける口らしい。
宴は大盛況だった。納豆論争で盛り上がりながら、誰もが生きている喜びを噛み締めていた。
その最中、村の入り口に見慣れない豪華な馬車が到着した。
紋章がついている。王家の紋章だ。
馬車から降りてきたのは、恰幅の良い初老の男性。王都からの視察官……いや、その威厳のあるたたずまいは、もしかして。
「よい匂いがするのう」
男は護衛を制して、ずかずかと広場に入ってきた。
セシリアが飛び上がり、最敬礼をする。
「こ、国王陛下!?」
村中が凍りついた。
国王自らのお出ましとは。どうやら、昨夜の黄金の光と浄化の波動は、王都にまで届いていたらしい。
国王は私の前に立ち、ニカッと笑った。
「そなたが、この奇跡を起こしたという農夫か?」
「は、はい。ハルトと申します」
「うむ。堅苦しいのはよい。それより、その糸を引く奇妙な豆料理……余にもくれぬか?」
まさかの納豆リクエスト。
私は震える手で、国王陛下に納豆ご飯を差し出した。
陛下は豪快にかき込み、そして唸った。
「見事じゃ! 余の疲れた胃腸に染み渡るわ!」
どうやら、この国のトップもグルメだったようだ。
こうして、私の作る「豆料理」は、国家認定の味となることが決定した。
0
あなたにおすすめの小説
過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました
黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。
これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
追放悪役令嬢、辺境の荒れ地を楽園に!元夫の求婚?ざまぁ、今更遅いです!
黒崎隼人
ファンタジー
皇太子カイルから「政治的理由」で離婚を宣告され、辺境へ追放された悪役令嬢レイナ。しかし彼女は、前世の農業知識と、偶然出会った神獣フェンリルの力を得て、荒れ地を豊かな楽園へと変えていく。
そんな彼女の元に現れたのは、離婚したはずの元夫。「離婚は君を守るためだった」と告白し、復縁を迫るカイルだが、レイナの答えは「ノー」。
「離婚したからこそ、本当の幸せが見つかった」
これは、悪女のレッテルを貼られた令嬢が、自らの手で未来を切り拓き、元夫と「夫婦ではない」最高のパートナーシップを築く、成り上がりと新しい絆の物語。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
追放令嬢と【神の農地】スキル持ちの俺、辺境の痩せ地を世界一の穀倉地帯に変えたら、いつの間にか建国してました。
黒崎隼人
ファンタジー
日本の農学研究者だった俺は、過労死の末、剣と魔法の異世界へ転生した。貧しい農家の三男アキトとして目覚めた俺には、前世の知識と、触れた土地を瞬時に世界一肥沃にするチートスキル【神の農地】が与えられていた!
「この力があれば、家族を、この村を救える!」
俺が奇跡の作物を育て始めた矢先、村に一人の少女がやってくる。彼女は王太子に婚約破棄され、「悪役令嬢」の汚名を着せられて追放された公爵令嬢セレスティーナ。全てを失い、絶望の淵に立つ彼女だったが、その瞳にはまだ気高い光が宿っていた。
「俺が、この土地を生まれ変わらせてみせます。あなたと共に」
孤独な元・悪役令嬢と、最強スキルを持つ転生農民。
二人の出会いが、辺境の痩せた土地を黄金の穀倉地帯へと変え、やがて一つの国を産み落とす奇跡の物語。
優しくて壮大な、逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
過労死した俺、異世界で最強農業チートに目覚める。神農具で荒野を楽園に変えたら、エルフや獣人が集まって最高の国ができました
黒崎隼人
ファンタジー
「君、死んじゃったから、異世界で国、作らない?」
ブラック企業で過労死した俺、相川大地。
女神様から授かったのは、一振りで大地を耕し、一瞬で作物を育てる**最強の『神農具』**だった!?
右も左もわからない荒野でのサバイバル。
だけど、腹ペコのエルフ美少女を助け、頼れるドワーフ、元気な猫耳娘、モフモフ神狼が仲間になって、開拓生活は一気に賑やかに!
美味しいご飯とチート農具で、荒野はあっという間に**「奇跡の村」**へ。
これは、ただの農民志望だった俺が、最高の仲間たちと世界を救い、種族の壁を越えた理想の国『アグリトピア』を築き上げる物語。
農業は、世界を救う! さあ、今日も元気に、畑、耕しますか!
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる