偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人

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第4話「王子様のアプローチはストレートすぎる」

 リオネス王子との奇妙な「賭け」が始まってから、数日が過ぎた。
 リナの日常は、一変した。
 薬草店の奥には常に王子がいて、彼女の一挙手一投足に興味津々な視線を送ってくる。

「リナ、今作っているのは何の薬だい?」

「肩こりに効く塗り薬です」

「へえ、すごいな。僕の肩も凝っているんだが」

「王子様は一日中寝ているだけでしょう!」

 思わず言い返してしまい、リナは慌てて口を押さえた。
 王子に対してなんて口の利き方を。
 しかし、リオネスは気にした様子もなく、楽しそうに笑っている。

「ははは、手厳しいな。でも、君と話していると退屈しなくていい」

 そんな調子で、彼は何かとリナに話しかけてきた。
 彼の存在は、静かだったリナの生活に、穏やかな波紋を広げている。
 そして、リナが最も恐れていた「不幸」は、今のところ起きていなかった。
 いや、正確に言うと、リオネスの身には相変わらず小さな不運が降りかかっていた。
 飲もうとした薬湯に虫が飛び込んできたり、彼のベッドの真上の天井から雨漏りが始まったり(その日だけピンポイントで大雨が降った)、見舞いに来た村長がうっかり彼の足に物を落としたり。
 だが、そのどれもが、リオネスにとっては「通常運転」の範囲内らしい。

「うん、今日も平常運転で平和だな!」

 雨漏りの水を桶で受けながら、彼はなぜか満足げに頷いていた。

 この人の『平常』の基準は、どうなっているのかしら……。

 リナはもはや、ツッコむ気力も失っていた。
 むしろ、奇妙なことに、リナが関わると、その不運が少しだけ良い方向へ転がる現象が起き始めていた。
 薬湯に虫が飛び込んできた時は、リナが作り直したお茶の方が格段に美味しく、結果的にリオネスを喜ばせた。
 雨漏りは、そのおかげで屋根裏に大きな蜂の巣ができていたのが見つかり、大事になる前に駆除できた。
 村長が落としたのはフカフカのクッションだったので、リオネスは全くの無傷だった。

「ほら、やっぱりリナは幸運の女神様だ。君がいると、僕の不運がうまく中和されるみたいだ」

 リオネスは得意げに言ったが、リナは素直に喜べなかった。

 たまたまよ。きっと、偶然が重なっただけ……。

 自分に幸運を呼ぶ力なんてあるはずがない。
 そう思い込もうとする一方で、彼のそばにいる時の、胸がぽかぽかと温かくなるような不思議な感覚を、リナは無視できなくなりつつあった。
 そんなある日、リオネスがとんでもないことを言い出した。

「リナ、僕の恋人になってくれないか」

「ぶっ!?」

 リナは飲んでいた薬草茶を盛大に吹き出した。

「な、ななな、何を、急に……!」

「いや、急ではないよ。君と出会った最初の日から、ずっとそう思っていた」

 あまりにもストレートすぎる告白に、リナの思考は完全に停止した。
 顔が火を噴くように熱い。

「君は優しくて、芯が強くて、とても魅力的だ。僕は君に一目惚れしたんだ」

 青い瞳が、熱を帯びてリナをじっと見つめている。
 冗談を言っているようには見えない。

「む、むむ、無理です! 滅相もございません! 私のような者が、王子様の恋人だなんて、天地がひっくり返ってもありえません!」

 リナは全力で首を横に振った。
 身分の違いももちろんだが、それ以前の問題だ。

「私といたら、王子様がもっと不幸になります! ただでさえ不運なのに、超不運になってしまいます!」

「超不運か。それはそれで、ちょっと面白そうだな」

「面白がらないでください!」

 真剣に言っているのに、彼は全く取り合ってくれない。

「僕は本気だよ、リナ。君のそばにいたいんだ。君が自分のことを呪われていると思っているなら、僕がそばにいて、それが間違いだって証明してあげる」

「で、ですが……」

「返事は今すぐじゃなくていい。でも、僕の気持ちだけは、知っておいてほしかった」

 そう言って優しく微笑むリオネスに、リナは何も言えなくなってしまった。
 彼の言葉は、まるで陽だまりのようだ。
 頑なに閉ざされたリナの心の扉を、優しく叩き続ける。

 その日の夜、リナは一人、眠れずにいた。
 リオネスの言葉が、頭の中で何度も繰り返される。

 恋人……私と、王子様が……。

 ありえない。
 そんなこと、あってはならない。
 でも、もし。
 もしも、本当に彼の言う通り、私に呪いがなくて、彼のそばにいることが許されるなら。
 そう考えただけで、胸の奥がきゅっと甘く痛んだ。
 追放されてから、恋愛なんて自分には一生縁のないものだと思っていた。
 誰かを好きになることも、誰かから好意を寄せられることも、自分には許されないのだと。
 なのに、リオネスは、そんなリナの心の壁をいとも簡単に飛び越えてきた。

「……困った人」

 小さくつぶやいて、リナは枕に顔をうずめた。
 顔の熱が、なかなか冷めてくれない。
 彼の真っ直ぐすぎるアプローチは、リナを戸惑わせ、混乱させ、そして、ほんの少しだけ、期待させてしまう。

 私、どうしたらいいんだろう……。

 答えの出ない問いを抱えたまま、リナの長い夜は更けていった。
 彼女の心に蒔かれた小さな恋の種は、彼女が気づかないうちに、ゆっくりと芽を出し始めていた。

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