3 / 17
第2話「小さな親切と、大きすぎる奇跡」
しおりを挟む
自由都市ヴァルアは、その名の通り活気に満ちた場所だった。
様々な人種が行き交い、城壁に囲まれた街並みは、僕がいた世界のどんなテーマパークよりもファンタジックで、胸が躍る。
商隊のダリオスさんにお礼を言って別れ、僕は当面の生活費を稼ぐため日雇いの仕事を探すことにした。
とはいえ、僕にできることなんて限られている。
肉体労働は苦手だし、特別なスキルもない。
(まずは宿と食事の確保だな……)
そう思って街を歩いていると、僕はふと、賑やかな大通りから外れた一角、いわゆるスラム街に迷い込んでしまった。
そこで、枯れ果てた小さな畑を前に途方に暮れている子供たちを見かけた。
「うぅ……これじゃあ、何も食べられないよ……」
「水ももうないし……」
痩せた体にボロボロの服。その姿は、僕の心を強く締め付けた。
見過ごすなんて、できるわけがない。
「こんにちは。どうしたんだい?」
僕が声をかけると、子供たちはビクッと体を震わせた。
警戒しているのだろう。
僕は怪しい者ではないと、なるべく優しい声で伝えた。
「畑が……枯れちゃって。お腹すいたんだ」
一番年上らしい少年が、ぽつりとつぶやく。
「そっか。大変だったね。……よし、ちょっとお兄さんに手伝わせてくれるかな?」
僕はそう言って、袖をまくった。
何ができるかは分からない。でも、何かせずにはいられなかった。
僕は畑に入り、カチカチに乾いた土に触れた。
(元気になーれ、元気になーれ。美味しい野菜が、たくさんできますように)
子供たちが笑顔になるのを想像しながら、僕は心の中でそう念じ、土にそっと手をかざした。
これも、特に意味のないジェスチャーのつもりだった。
すると、次の瞬間。
僕の手のひらが触れた場所から、柔らかな緑色の光が溢れ出した。
光は波紋のように広がり、あっという間に畑全体を覆い尽くす。
枯れていた作物の芽は見る見るうちに生命力を取り戻し、ぐんぐんと成長を始めた。
土はふかふかと柔らかくなり、地面からは清らかな水が湧き出して小さな泉を作っていた。
数分後、そこには青々とした葉を茂らせた野菜が、たわわに実る豊かな畑が広がっていた。
「「「「「…………え?」」」」」
子供たちは、僕と畑を交互に見て目をぱちくりさせている。
「……すごい! 魔法だ!」
一人の女の子が叫ぶと、子供たちは一斉に歓声を上げた。
「お兄ちゃん、魔法使いなの!?」
「ありがとう、魔法使いのお兄ちゃん!」
子供たちは僕の周りに集まり、目をキラキラさせながら僕を見上げてくる。
(え? 魔法? 僕が? まさか。これは……なんだろう。土がもともと栄養豊富で、たまたまタイミングよく雨でも降ったのかな? いや、雨は降ってないな……。じゃあ、地下水脈が偶然……?)
僕の頭は混乱でいっぱいだった。
でも、子供たちの嬉しそうな顔を見たら、そんなことはどうでもよくなった。
「いやいや、僕は魔法使いじゃないよ。ちょっと手伝っただけ。さ、みんなで収穫しよう」
僕は笑ってそう言った。
子供たちは大喜びで野菜を収穫し始め、その日の晩、僕も彼らと一緒に美味しい野菜スープをご馳走になった。
僕はこの出来事を「不思議な偶然」として片付けたが、この噂は瞬く間にスラム街を駆け巡っていく。
「枯れた畑を蘇らせる謎の男がいるらしい」
「病気の猫に触れたら、一瞬で元気になったそうだ」
「彼が通った後は、なぜか水が綺麗になる」
僕の「小さな親切」は、僕の知らないところで「奇跡」として語られ始めていた。
そしてその噂は、やがて街の有力者――かつて冒険者ギルドを設立した伝説の元冒険者の耳に、届くことになるのだった。
様々な人種が行き交い、城壁に囲まれた街並みは、僕がいた世界のどんなテーマパークよりもファンタジックで、胸が躍る。
商隊のダリオスさんにお礼を言って別れ、僕は当面の生活費を稼ぐため日雇いの仕事を探すことにした。
とはいえ、僕にできることなんて限られている。
肉体労働は苦手だし、特別なスキルもない。
(まずは宿と食事の確保だな……)
そう思って街を歩いていると、僕はふと、賑やかな大通りから外れた一角、いわゆるスラム街に迷い込んでしまった。
そこで、枯れ果てた小さな畑を前に途方に暮れている子供たちを見かけた。
「うぅ……これじゃあ、何も食べられないよ……」
「水ももうないし……」
痩せた体にボロボロの服。その姿は、僕の心を強く締め付けた。
見過ごすなんて、できるわけがない。
「こんにちは。どうしたんだい?」
僕が声をかけると、子供たちはビクッと体を震わせた。
警戒しているのだろう。
僕は怪しい者ではないと、なるべく優しい声で伝えた。
「畑が……枯れちゃって。お腹すいたんだ」
一番年上らしい少年が、ぽつりとつぶやく。
「そっか。大変だったね。……よし、ちょっとお兄さんに手伝わせてくれるかな?」
僕はそう言って、袖をまくった。
何ができるかは分からない。でも、何かせずにはいられなかった。
僕は畑に入り、カチカチに乾いた土に触れた。
(元気になーれ、元気になーれ。美味しい野菜が、たくさんできますように)
子供たちが笑顔になるのを想像しながら、僕は心の中でそう念じ、土にそっと手をかざした。
これも、特に意味のないジェスチャーのつもりだった。
すると、次の瞬間。
僕の手のひらが触れた場所から、柔らかな緑色の光が溢れ出した。
光は波紋のように広がり、あっという間に畑全体を覆い尽くす。
枯れていた作物の芽は見る見るうちに生命力を取り戻し、ぐんぐんと成長を始めた。
土はふかふかと柔らかくなり、地面からは清らかな水が湧き出して小さな泉を作っていた。
数分後、そこには青々とした葉を茂らせた野菜が、たわわに実る豊かな畑が広がっていた。
「「「「「…………え?」」」」」
子供たちは、僕と畑を交互に見て目をぱちくりさせている。
「……すごい! 魔法だ!」
一人の女の子が叫ぶと、子供たちは一斉に歓声を上げた。
「お兄ちゃん、魔法使いなの!?」
「ありがとう、魔法使いのお兄ちゃん!」
子供たちは僕の周りに集まり、目をキラキラさせながら僕を見上げてくる。
(え? 魔法? 僕が? まさか。これは……なんだろう。土がもともと栄養豊富で、たまたまタイミングよく雨でも降ったのかな? いや、雨は降ってないな……。じゃあ、地下水脈が偶然……?)
僕の頭は混乱でいっぱいだった。
でも、子供たちの嬉しそうな顔を見たら、そんなことはどうでもよくなった。
「いやいや、僕は魔法使いじゃないよ。ちょっと手伝っただけ。さ、みんなで収穫しよう」
僕は笑ってそう言った。
子供たちは大喜びで野菜を収穫し始め、その日の晩、僕も彼らと一緒に美味しい野菜スープをご馳走になった。
僕はこの出来事を「不思議な偶然」として片付けたが、この噂は瞬く間にスラム街を駆け巡っていく。
「枯れた畑を蘇らせる謎の男がいるらしい」
「病気の猫に触れたら、一瞬で元気になったそうだ」
「彼が通った後は、なぜか水が綺麗になる」
僕の「小さな親切」は、僕の知らないところで「奇跡」として語られ始めていた。
そしてその噂は、やがて街の有力者――かつて冒険者ギルドを設立した伝説の元冒険者の耳に、届くことになるのだった。
51
あなたにおすすめの小説
ブラック企業勤めで過労死した元社畜、インプに転生して無限体力で魔王軍をブラック企業からホワイト企業に大改革!
黒崎隼人
ファンタジー
「もう、働きたくない……」
三十歳目前、中間管理職として身を粉にして働いた末に過労死した柏木健人(けんと)。彼が次に目覚めたのは、なんと魔王軍の最下級兵士「インプ」のケントになっていた!
与えられたのは「無限の体力」と「タスク管理」というとんでもスキル。これでのんびりスローライフ……とはいかず、目の前の非効率な魔王軍の現状に、元社畜の血が騒いでしまう。
「この在庫管理、杜撰すぎる!」「サプライチェーンが崩壊している!」
気づけば5S、PDCA、ジャストインタイムといったビジネス用語を駆使して、巨大な魔王軍をホワイト企業に大改革!
その異常な手腕は、やがて気まぐれな美少女魔王リリアの目に留まり、彼は「宰相補佐官」に大抜擢されてしまう。
「私のスローライフはどこへ!?」
これは、働きたくないのに有能すぎて休めない元サラリーマンが、その気はなくても世界を救ってしまう、異色の異世界改革ファンタジー!
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
異世界で無自覚に最強だった俺、追放されたけど今さら謝られても遅い
eringi
ファンタジー
「お前なんかいらない」と言われ、勇者パーティーを追放された青年ルーク。だが、彼のスキル【成長限界なし】は、実は世界でも唯一の“神格スキル”だった。
追放された先で気ままに生きようとした彼は、助けた村娘から崇められ、魔王を片手で倒し、知らぬ間に国家を救う。
仲間だった者たちは、彼の偉業を知って唖然とし、後悔と嫉妬に沈んでいく──
無自覚な最強男が歩む、ざまぁと逆転の異世界英雄譚!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる