過労死転生したので怠惰に生きたいと言ったら、神様が寝てるだけで最強になれるスキルをくれました

黒崎隼人

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第7話「史上最低の動機」

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「リア、セラフィーナ。ちょっと外がうるさい。静かにさせてくれ」
 ユウマがベッドの中から発した、いつになく低い声。その言葉を聞いた瞬間、寝室にいた二人の空気が凍り付いた。
 リアは、はっと顔を上げた。その瞳には、驚きと期待の光が宿る。
(ユウマ様が……ついに……! 世界の危機を救うために、その御力を解放なさるんだわ!)
 長年ユウマを精霊様と信じてきた彼女にとって、それは待ち望んだ瞬間だった。世界の悲痛な叫びに、ついに慈悲深き主が応えてくださる。その感動に、リアは思わず胸の前で手を組んだ。
 一方、セラフィーナはまったく異なる感情を抱いていた。緊張に顔をこわばらせ、背筋に冷たい汗が流れるのを感じる。
(この男が……本気を出す……? いったい、何が起こるんだ……? 安眠のためだけに絶対不可侵領域を作り出す男だぞ。彼が『静かにさせる』と言った時、その規模は我々の想像を遥かに超えるに違いない……!)
 常識を何度も破壊されてきた彼女は、ユウマの力の底知れなさを誰よりも理解していた。そして、彼の行動原理が、世界の平和などという高尚なものではないことも。
 しかし、二人の期待や緊張など、ユウマの知ったことではなかった。彼の動機は、徹頭徹尾、ただ一つ。
「最高の安眠環境を取り戻すこと」
 それ以上でも、それ以下でもない。
「はぁ……」
 ユウマは心底面倒くさそうに、深いため息をついた。そして、ベッドから起き上がることさえ億劫なのか、寝転がったまま、天井に向かって人差し指を一本、すっと突き立てた。その指先に、ありえないほどの密度の魔力が収束していくのが、魔力感知に優れたセラフィーナには見えた。
「まず、あの魔王とかいう騒音と不快な振動の発生源を黙らせる。それから、家の周りでギャーギャー騒いでる連中も追い払う。ああ、面倒くさい……なんで俺がこんなことをしなきゃならないんだ……」
 ぶつぶつと文句を言いながら、彼は【生活自動化(ニート・イズ・ゴッド)】のスキルを、かつてない規模で起動する。
 それは、これまで彼が自身の怠惰な生活を盤石にするために構築してきた、数々の生活魔法の応用・再構築だった。

 一つ。毎日の「部屋の掃除」に使い、塵や埃を魔法的に分解・消去していた【塵芥除去】。
 この魔法の術式を、彼の無限の魔力で超広範囲に拡張・再定義する。
 ――【世界浄化(ワールド・クレンジング)】。世界を覆う魔王の瘴気を、部屋の埃を払うがごとく、根源から浄化せよ。

 二つ。安眠を妨げる蚊や羽虫を自動で撃ち落とすために設定していた【微小魔力撃(インセクト・ザッパー)】。
 この自動迎撃システムのターゲティングを「邪な意思を持つ存在」に、規模を「全世界」に設定し直す。
 ――【自動迎撃魔弾(ホーミング・ジャッジメント)】。魔王軍の兵士だけを正確無比に狙い、無力化せよ。人間に被害を出し、後で文句を言われるのは面倒だからな。

 三つ。家庭菜園の野菜を美味しく育てるために、地面の魔力循環を活性化させていた【地脈活性(ソイル・エンリッチ)】。
 この概念を転用し、魔王城の建つ邪悪な土地そのものに作用させる。
 ――【聖域創造(エリア・サンクチュアリ)】。魔王城の力の源である邪悪な地脈を断ち切り、その土地を強制的に浄化、聖域へと変貌させよ。

 ユウマの指先から放たれる魔力は、もはや奔流という言葉では生ぬるい、銀河の星々を全て集めたかのような圧倒的な光の粒子となって、家の天井を突き抜け、天へと昇っていく。それは、世界そのものを書き換える、神の御業だった。
「な……」
「これが……ユウマ様の……本当の……」
 リアとセラフィーナは、目の前で繰り広げられる光景に、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
 一人の男の安眠を守るためだけに、世界中の生活魔法が、今、軍事転用されようとしていた。それは、史上最も個人的で、最もくだらない動機によって引き起こされる、世界救済の始まりだった。
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