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第9話「豊穣の裏で、蠢く悪意」
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アースガルド領の豊作の噂は王都にまで届いていた。
それは貧しい辺境の地の快挙として、多くの人々に希望を与えるニュースとなった。
しかし、光が強ければその分、影もまた濃くなる。
俺の成功を苦々しい思いで聞いている男がいた。
バルフォア子爵。アースガルド領の隣の領地を治める貴族だ。彼は昔からアースガルド家をライバル視しており、特に何の取り柄もないと思われていた三男の俺が手柄を立てたことが、気に食わなくて仕方がなかった。
「忌々しい……! アースガルドの小僧めが……!」
バルフォア子爵は自分の領地の貧相な畑と、アースガルド領の豊作を伝える報告書を見比べ、ギリリと歯ぎしりをした。
彼のプライドが、自分より格下だと思っていた相手に先を越されることを許さなかった。
「何としても、あの小僧の鼻を明かしてくれるわ……!」
バルフォア子爵は腹心の部下を呼び寄せ、何やら悪質な計画を授けた。
その数日後。
俺たちの農園に異変が起き始めた。
「カイ様、大変です! 畑の作物の葉が何者かに食い荒らされています!」
若者の一人が血相を変えて俺の元へ駆け込んできた。
俺が畑へ行ってみると、そこには無残な光景が広がっていた。順調に育っていたポポイモやサンティマの葉が、まるでレース編みのように穴だらけになっている。
「これは……害虫か?」
葉の裏を調べてみると、そこには見たこともない黒くて小さな虫がびっしりと付着していた。そいつらは猛烈な勢いで葉を食い荒らしている。
「なんてことだ……! このままでは畑が全滅してしまう!」
セレスティアが青い顔でつぶやく。
俺たちはすぐに虫の駆除に取り掛かった。だがその虫は異常なほど繁殖力が強く、取っても取っても次から次へと湧いてくる。
数日のうちに被害は領地全体へと拡大していった。
領民たちはようやく手に入れた豊かさを奪われまいと、必死に虫と戦った。しかし日に日に作物が枯れていくのを前に、彼らの顔からは再び笑顔が消え、深い絶望の色が浮かんでいた。
「カイ様……どうして、こんなことに……」
リナが涙ながらに訴える。
『何かがおかしい』
俺はこの害虫の発生に強い違和感を覚えていた。
これほど大規模な害虫被害が、これほど突然に発生するのは不自然だ。まるで誰かが意図的に、この虫をばらまいたかのような……。
その時、脳裏に一人の男の顔が浮かんだ。
隣の領地の領主、バルフォア子爵。
俺たちの成功を最も妬んでいたであろう男。
『あいつなら、やりかねん……!』
だが今は犯人捜しよりも、目の前の害虫を駆除するのが先決だ。
このままでは冬を越すための食料が確保できない。領民たちがまた飢えることになる。
「くそっ……! 何か手は無いはずだ……!」
俺は前世の知識を総動員して対策を考えた。
農薬があれば一発だが、この世界にそんな便利なものはない。ならば、それに代わるものを作るしかない。
『そうだ、天敵だ! この虫を食べる生き物を見つけられれば……! あるいは、虫が嫌う匂いを持つ植物は……?』
俺は書斎にこもり、この世界の植物や生物に関する書物を片っ端から読み漁った。
セレスティアも、彼女の国の文献の中に何かヒントがないかと協力してくれた。
「カイ、これを見てくださいまし!」
彼女が見つけてきたのは古代の魔法に関する書物だった。
そこには「特定の匂いを放つ魔法薬で、有益な虫を呼び寄せ害虫を駆除した」という記述があった。
「魔法薬……!」
これだ。これなら農薬の代わりになるかもしれない。
俺はこの世界の植物の知識と、魔法の知識を組み合わせることにした。
虫が嫌うとされる数種類の薬草をすり潰し、そこにセレスティアが微量の魔力を込める。そうすることで薬草の効果を何十倍にも増幅させることができるのだ。
「よし、試作品ができたぞ!」
俺たちは完成した緑色の液体を、被害が最もひどい畑の一角に散布してみた。
すると驚くべきことが起こった。
薬液がかかった葉から、あれだけびっしりいた害虫たちが一斉に逃げ出していくではないか。
「やった……! やったぞ!」
俺たちは思わず手を取り合って喜んだ。
だが、まだ安心はできない。これはあくまで一時しのぎに過ぎない。
領地全体の畑に散布するには、もっと大量の薬液が必要だ。そして黒幕であるバルフォア子爵が、このまま黙っているとは思えなかった。
本当の戦いはまだ始まったばかりだった。
俺は悪意に満ちた隣人との、食料を巡る見えない戦争に、敢然と立ち向かう決意を固めた。
それは貧しい辺境の地の快挙として、多くの人々に希望を与えるニュースとなった。
しかし、光が強ければその分、影もまた濃くなる。
俺の成功を苦々しい思いで聞いている男がいた。
バルフォア子爵。アースガルド領の隣の領地を治める貴族だ。彼は昔からアースガルド家をライバル視しており、特に何の取り柄もないと思われていた三男の俺が手柄を立てたことが、気に食わなくて仕方がなかった。
「忌々しい……! アースガルドの小僧めが……!」
バルフォア子爵は自分の領地の貧相な畑と、アースガルド領の豊作を伝える報告書を見比べ、ギリリと歯ぎしりをした。
彼のプライドが、自分より格下だと思っていた相手に先を越されることを許さなかった。
「何としても、あの小僧の鼻を明かしてくれるわ……!」
バルフォア子爵は腹心の部下を呼び寄せ、何やら悪質な計画を授けた。
その数日後。
俺たちの農園に異変が起き始めた。
「カイ様、大変です! 畑の作物の葉が何者かに食い荒らされています!」
若者の一人が血相を変えて俺の元へ駆け込んできた。
俺が畑へ行ってみると、そこには無残な光景が広がっていた。順調に育っていたポポイモやサンティマの葉が、まるでレース編みのように穴だらけになっている。
「これは……害虫か?」
葉の裏を調べてみると、そこには見たこともない黒くて小さな虫がびっしりと付着していた。そいつらは猛烈な勢いで葉を食い荒らしている。
「なんてことだ……! このままでは畑が全滅してしまう!」
セレスティアが青い顔でつぶやく。
俺たちはすぐに虫の駆除に取り掛かった。だがその虫は異常なほど繁殖力が強く、取っても取っても次から次へと湧いてくる。
数日のうちに被害は領地全体へと拡大していった。
領民たちはようやく手に入れた豊かさを奪われまいと、必死に虫と戦った。しかし日に日に作物が枯れていくのを前に、彼らの顔からは再び笑顔が消え、深い絶望の色が浮かんでいた。
「カイ様……どうして、こんなことに……」
リナが涙ながらに訴える。
『何かがおかしい』
俺はこの害虫の発生に強い違和感を覚えていた。
これほど大規模な害虫被害が、これほど突然に発生するのは不自然だ。まるで誰かが意図的に、この虫をばらまいたかのような……。
その時、脳裏に一人の男の顔が浮かんだ。
隣の領地の領主、バルフォア子爵。
俺たちの成功を最も妬んでいたであろう男。
『あいつなら、やりかねん……!』
だが今は犯人捜しよりも、目の前の害虫を駆除するのが先決だ。
このままでは冬を越すための食料が確保できない。領民たちがまた飢えることになる。
「くそっ……! 何か手は無いはずだ……!」
俺は前世の知識を総動員して対策を考えた。
農薬があれば一発だが、この世界にそんな便利なものはない。ならば、それに代わるものを作るしかない。
『そうだ、天敵だ! この虫を食べる生き物を見つけられれば……! あるいは、虫が嫌う匂いを持つ植物は……?』
俺は書斎にこもり、この世界の植物や生物に関する書物を片っ端から読み漁った。
セレスティアも、彼女の国の文献の中に何かヒントがないかと協力してくれた。
「カイ、これを見てくださいまし!」
彼女が見つけてきたのは古代の魔法に関する書物だった。
そこには「特定の匂いを放つ魔法薬で、有益な虫を呼び寄せ害虫を駆除した」という記述があった。
「魔法薬……!」
これだ。これなら農薬の代わりになるかもしれない。
俺はこの世界の植物の知識と、魔法の知識を組み合わせることにした。
虫が嫌うとされる数種類の薬草をすり潰し、そこにセレスティアが微量の魔力を込める。そうすることで薬草の効果を何十倍にも増幅させることができるのだ。
「よし、試作品ができたぞ!」
俺たちは完成した緑色の液体を、被害が最もひどい畑の一角に散布してみた。
すると驚くべきことが起こった。
薬液がかかった葉から、あれだけびっしりいた害虫たちが一斉に逃げ出していくではないか。
「やった……! やったぞ!」
俺たちは思わず手を取り合って喜んだ。
だが、まだ安心はできない。これはあくまで一時しのぎに過ぎない。
領地全体の畑に散布するには、もっと大量の薬液が必要だ。そして黒幕であるバルフォア子爵が、このまま黙っているとは思えなかった。
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