「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人

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第5話「臆病な射手と、必中の弓」

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 リリアという最初の仲間を得てギルド「方舟」は少しだけ賑やかになった。
 彼女はギルドハウスの掃除や料理を進んでやってくれ、その明るい性格はリアムの心にも温かい光を灯してくれた。だが冒険者ギルドとして活動するにはヒーラーだけでは心許ない。前衛か後衛のアタッカーが必要だった。

 リアムは再びバルガスから集めた情報と【真理の瞳】を頼りに、街とその周辺を探索し始めた。
 そしてアークライトの街を囲む森の中で彼は二人目の「原石」を見つけることになる。

 森の奥深く、ひときわ大きな木のうろで一人の少年がうずくまっていた。
 ふわふわとした茶色い髪にぴょこんと生えた獣の耳としっぽ。獣人の少年だった。彼は木彫りの小さな動物を熱心に作っているようだった。その手先の器用さは素人目にも分かるほどだ。

 リアムが鑑定スキルを使うと興味深い情報が浮かび上がった。

【名前:フィン】
【種族:猫獣人】
【職業:狩人見習い】
【スキル:気配遮断(低級)、早足(低級)】
【状態:極度の対人恐怖症、あがり症。才能を発揮できずにいる】
【隠された才能:天賦の狙撃手(デッドアイ)。一度狙いを定めた獲物はどれほど離れていようと、どれほど素早く動こうと必ず射抜くことができる絶対的な命中能力。発動条件は絶対的な信頼を置ける『相棒(武器)』と守るべき『仲間』の存在】

『天賦の狙撃手……必中スキルか。これはすごいな』

 リアムは感心しつつもどう声をかけるか悩んだ。
 鑑定結果にある通り彼は極度の人見知りのようだった。下手に近づけばすぐに逃げられてしまうだろう。

 リアムはゆっくりと距離を詰め相手を刺激しないように、わざと小枝を踏んで音を立てた。
 ビクッとフィンの肩が跳ね、彼は弾かれたように立ち上がるとリアムの姿を見て怯えた目で後ずさる。

「ま、待ってくれ。危害を加えるつもりはないんだ」

 リアムは両手を上げて敵意がないことを示す。だがフィンの警戒心は解けない。
 彼は背負っていた古びた弓を構えるが、その手はガタガタと震え矢をつがえることさえままならないようだった。

「……あ、う……」

 何かを言おうとするが声にならない。その様子を見てリアムは確信した。
 彼は才能を秘めていながら、その臆病な性格のせいで弓をまともに扱うことすらできずにいるのだ。

「君は狩人なんだね。その手先の器用さ……きっと弓の腕も素晴らしいんだろうな」

 リアムがそう言うとフィンは悲しそうに顔を歪め、ぶんぶんと首を横に振った。

「……で、できない……。おれ、だめなんだ……。人に見られると手が震えて……的に当たらない……」

 ようやく絞り出した声は蚊の鳴くようなか細い声だった。

『なるほどな……。プレッシャーに弱いのか』

 リアムは彼の震える弓に目を向けた。
 鑑定すると『粗末な木の弓。耐久性が低く、矢の軌道も安定しない』と表示される。これでは彼の才能を十全に引き出すことはできないだろう。

 リアムは一つの決意を固めた。

「フィン、君にプレゼントしたいものがある。明日またここに来てくれないか」

 そう言うとリアムは森を後にした。フィンはきょとんとした顔でリアムの後ろ姿を見送るだけだった。

 その夜、リアムは再び鍛冶場にこもった。
 満月にはまだ早いが今度は試作品ではない。フィンという使い手を明確にイメージし、彼のためだけに月光鋼を鍛え上げる。

【真理の瞳】はフィンにとって最適な弓の形状、重さ、弦の張りの強さまで完璧にリアムに伝えてくれていた。
 リアムは一晩中槌を振り続け、夜が明ける頃ついに一本の美しい弓を完成させた。

 月光鋼で作られた弓は銀色の流麗なフォルムを持ち淡い光を放っていた。
 軽くしなやかで、それでいて驚異的な強度を誇る。リアムが鑑定すると【名称:月光の長弓】【製作者:リアム・アシュフォード】【特殊効果:持ち主の集中力を高め、精神を安定させる】という情報が追加されていた。

 翌日、リアムが約束の場所へ行くとフィンは木の陰からおそるおそる様子をうかがっていた。
 リアムは微笑みかけると、完成したばかりの弓を彼に差し出した。

「約束のプレゼントだ。君のために作った」

 フィンはその弓の美しさに目を奪われていた。
 おそるおそる手に取るとその軽さと、まるで自分の体の一部であるかのように手に馴染む感覚に驚く。

「すごい……綺麗だ……」

「これは月光鋼っていう特別な金属でできている。君の力をきっと引き出してくれるはずだ」

 リアムはそう言うと森の奥を指さした。
 ちょうどその時、一羽の鳥が目にもとまらぬ速さで木々の間を飛び抜けていくのが見えた。常人なら目で追うことすらできないだろう。

「フィン、あの鳥を射ってみてくれ」

「え……! む、無理だよ! あんなに速いの、おれには……」

「大丈夫。弓を信じるんだ。そして君自身の力を信じろ。君は独りじゃない」

 リアムの力強い言葉にフィンの瞳が揺れる。
 彼はごくりと唾を飲み込み、リアムから受け取った弓を構えた。不思議なことにいつもはガタガタと震える手が今はぴたりと止まっている。弓から伝わる温かい魔力が彼の心を落ち着かせてくれていた。

 フィンは息を吸い矢をつがえ、弦をいっぱいに引き絞る。
 彼の瞳が鋭く鳥の姿を捉えた。時間がまるでスローモーションのように流れる。鳥の動き、風の流れ、木の葉のざわめき、その全てが彼の感覚に流れ込んでくる。

 そして矢は放たれた。

 ヒュッと風を切る音だけを残し、矢は一直線に吸い込まれるように飛んでいき――見事、鳥の羽をかすめて背後の大木に深々と突き刺さった。
 鳥は驚いて飛び去っていく。殺生を好まないリアムの意図をフィンは無意識に汲み取っていたのだ。

「……あた、た……」

 フィンは自分の放った矢の軌跡を信じられないといった表情で見つめていた。リアムは彼の肩を叩く。

「すごいじゃないか、フィン。見たか、あれが君の本当の才能だ」

「おれの……才能……」

 フィンは手の中の弓をぎゅっと握りしめた。
 生まれて初めて感じた確かな手応え。そして自分を信じてくれる存在。

「フィン、俺の仲間にならないか。俺のギルド『方舟』には君と同じように、素晴らしい力を持っているのにそれを発揮できずにいる仲間がいる。君のその弓の腕で俺たちを守ってほしいんだ」

 フィンはしばらく黙ってうつむいていたがやがて顔を上げ、決意を秘めた目でリアムを見つめ力強くうなずいた。

「……うん。おれ、行く。リアムと、一緒に行く……!」

 臆病な射手は最高の相棒と信じてくれる仲間を得て、その一歩を踏み出した。
 ギルド「方舟」に二人目の頼れるクルーが加わった。物語はさらに加速していく。
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