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第13話:崩れ始める日常
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吾郎の惨敗は、「紅蓮の剣」の輝かしい名声に初めての影を落とした。
大会後、ギルドや街の酒場では、もっぱらその話題で持ちきりだった。
「おい、聞いたか? あの『紅蓮の剣』の吾郎が、新人の『クロ』って奴に一瞬でやられたらしいぞ」
「ああ。スキルに頼ってるだけの三流だって、大観衆の前で証明されちまったからな」
「それに比べて『アヴァロン』のクロと龍司はすごかった。特にクロの剣技とスキル捌きは、もはや伝説級だ」
人々は新しい英雄の誕生に熱狂し、同時に、絶対だと思われていた「紅蓮の剣」の強さにわずかな疑念を抱き始めていた。
「紅蓮の剣」が拠点にしている高級宿の一室は、重苦しい空気に包まれていた。
「……あの野郎、一体何者なんだ……」
ベッドの上で治療を終えた吾郎が、悔しそうに呻く。彼のプライドは、観衆の前で叩きのめされたことでズタズタになっていた。
「クロ……とか言ったわね。まるで、私たちのスキルを知り尽くしているような戦い方だったわ」
玲奈が、不安げな表情でつぶやく。彼女もまたあの試合を見て、クロという男に得体の知れない不気味さを感じていた。
そして、リーダーである海斗は腕を組んだまま、黙り込んでいた。
彼の脳裏には、クロが最後に言い放った言葉がこびりついて離れなかった。
『奪った力では、本物には勝てない』
(あの男……なぜ、俺のスキルが奪ったものだと知っている? 偶然か? いや、それにしてはタイミングが良すぎる)
海斗は、クロの正体について思考を巡らせる。ギルドに登録されている情報は偽名で、過去の経歴は一切不明。まるで、どこからか突然現れたかのような存在。
(まさか……湊……? いや、ありえない。あいつはあのダンジョンで死んだはずだ。それに、あいつに、あんな力が……)
海斗は、自らの推測を打ち消す。湊は劣化コピーしか使えない、取るに足らない存在だったはずだ。あのクロという男が放つ威圧感や底知れない実力は、湊のイメージとはかけ離れすぎている。
「海斗さん……?」
玲奈が、心配そうに海斗の顔を覗き込む。
海斗はハッと我に返ると、苛立ちを隠せない様子で言い放った。
「吾郎! 情けないぞ、お前! たかが新人に、あんな無様な負け方をしやがって!」
「なっ……! 俺だって、必死に……!」
「言い訳は聞きたくない! お前のせいで、『紅蓮の剣』の名に傷がついたんだぞ!」
海斗の怒声が、部屋に響く。
玲奈は、そんな海斗の姿に今まで感じたことのない違和感を覚えていた。
(海斗さん、最近なんだか焦っているみたい……)
玲奈は海斗に心酔していた。彼のカリスマ性と、英雄になるという大きな夢に惹かれていた。だが、最近の彼は手に入れた名声を守ることに必死で、どこか余裕がないように見えた。
クロという謎の探索者の出現が、確実に「紅蓮の剣」の日常を蝕み始めていた。
盤石だと思われていた彼らのパーティーに、ほんの少しずつ、しかし確実に不協和音が生じ始めていた。
海斗は、苛立ちを鎮めるように窓の外を見つめた。
(クロ……どこの誰だろうと、俺の邪魔をするなら容赦はしない)
彼はまだ、クロの正体が自分が捨てたはずの亡霊だとは気づいていない。だが、その亡霊がもたらした小さな亀裂は、やがて彼らの全てを崩壊させる大きな裂け目へと、確実に広がっていこうとしていた。
大会後、ギルドや街の酒場では、もっぱらその話題で持ちきりだった。
「おい、聞いたか? あの『紅蓮の剣』の吾郎が、新人の『クロ』って奴に一瞬でやられたらしいぞ」
「ああ。スキルに頼ってるだけの三流だって、大観衆の前で証明されちまったからな」
「それに比べて『アヴァロン』のクロと龍司はすごかった。特にクロの剣技とスキル捌きは、もはや伝説級だ」
人々は新しい英雄の誕生に熱狂し、同時に、絶対だと思われていた「紅蓮の剣」の強さにわずかな疑念を抱き始めていた。
「紅蓮の剣」が拠点にしている高級宿の一室は、重苦しい空気に包まれていた。
「……あの野郎、一体何者なんだ……」
ベッドの上で治療を終えた吾郎が、悔しそうに呻く。彼のプライドは、観衆の前で叩きのめされたことでズタズタになっていた。
「クロ……とか言ったわね。まるで、私たちのスキルを知り尽くしているような戦い方だったわ」
玲奈が、不安げな表情でつぶやく。彼女もまたあの試合を見て、クロという男に得体の知れない不気味さを感じていた。
そして、リーダーである海斗は腕を組んだまま、黙り込んでいた。
彼の脳裏には、クロが最後に言い放った言葉がこびりついて離れなかった。
『奪った力では、本物には勝てない』
(あの男……なぜ、俺のスキルが奪ったものだと知っている? 偶然か? いや、それにしてはタイミングが良すぎる)
海斗は、クロの正体について思考を巡らせる。ギルドに登録されている情報は偽名で、過去の経歴は一切不明。まるで、どこからか突然現れたかのような存在。
(まさか……湊……? いや、ありえない。あいつはあのダンジョンで死んだはずだ。それに、あいつに、あんな力が……)
海斗は、自らの推測を打ち消す。湊は劣化コピーしか使えない、取るに足らない存在だったはずだ。あのクロという男が放つ威圧感や底知れない実力は、湊のイメージとはかけ離れすぎている。
「海斗さん……?」
玲奈が、心配そうに海斗の顔を覗き込む。
海斗はハッと我に返ると、苛立ちを隠せない様子で言い放った。
「吾郎! 情けないぞ、お前! たかが新人に、あんな無様な負け方をしやがって!」
「なっ……! 俺だって、必死に……!」
「言い訳は聞きたくない! お前のせいで、『紅蓮の剣』の名に傷がついたんだぞ!」
海斗の怒声が、部屋に響く。
玲奈は、そんな海斗の姿に今まで感じたことのない違和感を覚えていた。
(海斗さん、最近なんだか焦っているみたい……)
玲奈は海斗に心酔していた。彼のカリスマ性と、英雄になるという大きな夢に惹かれていた。だが、最近の彼は手に入れた名声を守ることに必死で、どこか余裕がないように見えた。
クロという謎の探索者の出現が、確実に「紅蓮の剣」の日常を蝕み始めていた。
盤石だと思われていた彼らのパーティーに、ほんの少しずつ、しかし確実に不協和音が生じ始めていた。
海斗は、苛立ちを鎮めるように窓の外を見つめた。
(クロ……どこの誰だろうと、俺の邪魔をするなら容赦はしない)
彼はまだ、クロの正体が自分が捨てたはずの亡霊だとは気づいていない。だが、その亡霊がもたらした小さな亀裂は、やがて彼らの全てを崩壊させる大きな裂け目へと、確実に広がっていこうとしていた。
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