出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人

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第9話「王都での奇跡と嫉妬の炎」

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 聖女セレスティアたちが王都へ帰ってから、五日が過ぎた。
 俺の生活はまた元の穏やかなものに戻っていた。畑を耕し、ルプスと戯れる。時折、テル村へ野菜を売りに行く。
 あの一日がまるで夢だったかのように、静かな時間が流れていた。

『王女様、元気になったかな……』

 ふと、そんなことを考える。
 俺が渡した野菜が、ちゃんと効果を発揮してくれているだろうか。
 少しだけ気になっていた。

 そんなある日の午後。
 俺が畑でカブの収穫をしていると、再び領域の外から複数の気配が近づいてくるのをルプスが察知した。

「ワン!」

 ルプスが嬉しそうに一声鳴いた。
 その反応からして敵ではないらしい。

 俺が森の入り口へと向かうと、そこには見覚えのある顔があった。
 白銀の鎧をまとった騎士団長、エリアナだ。
 彼女は数名の部下だけを連れて、再びこの場所を訪れたのだ。

「カイ殿!」

 俺の姿を認めるとエリアナは馬から飛び降り、満面の笑みで駆け寄ってきた。
 その表情は以前の険しいものではなく、心からの喜びに満ちている。

 その顔を見れば、結果は聞くまでもなかった。

「どうやら、うまくいったみたいですね」

 俺が言うと、エリアナは興奮気味に何度も力強くうなずいた。

「ああ! 君のおかげだ! まさに奇跡だ!」

 エリアナの話によると、こうだ。
 王都に戻った彼女たちは早速俺の野菜を使ってスープを作り、リリアーナ王女に飲ませた。
 すると今までどんな治療も受け付けなかった王女が、スープを飲んだ途端みるみるうちに血色を取り戻し、その日のうちに意識を回復したという。

 そして三日も経つ頃には病に倒れる前よりも元気になり、今ではすっかり全快して公務にも復帰しているらしい。

「王宮の医師たちも聖女様も、皆『神の奇跡だ』と驚愕していた。カイ殿、君は間違いなくこの国の救世主だ!」

 エリアナは俺の手を固く握り、心からの感謝を伝えてきた。
 その熱意に俺は少し気圧されながらも、胸をなでおろした。

「それは、よかった。お役に立てたなら何よりです」

「国王陛下もいたく感激なされていた。是非とも君を王宮に招き、直接礼を言いたいと仰っている。もちろん君の望み通り、素性やこの場所のことはごく一部の者しか知らない極秘事項として扱っている」

「いえ、王宮に伺うのは……」

 俺が断ろうとすると、エリアナは苦笑した。

「分かっている。君がそれを望まないことは承知の上だ。だから陛下からの感謝のしるしを、私が預かってきた」

 そう言ってエリアナが部下に合図すると、大きな木箱が俺の前に運ばれてきた。
 中には金貨がぎっしりと詰まっていた。
 それだけではない。最高級の塩や香辛料、布地など、俺が手に入れたいと思っていた品々も山のように積まれている。

「こ、こんなにたくさん……!?」

「これでも陛下に言わせれば『全く足りない』そうだ。国を救った英雄への礼としては安すぎる、と。だが君の意向を汲み、今回はこれだけにさせてもらった」

 あまりの大金と物資に、俺は目がくらみそうだった。
 これだけあればもう一生遊んで暮らせるだろう。

「あ、ありがとうございます……。ありがたく、頂戴します」

「礼を言うのは、こちらの方だ」

 エリアナは満足そうにうなずいた。

 彼女はしばらく俺の畑で育つ規格外の野菜たちを感心したように眺めた後、一枚の羊皮紙を取り出した。

「それから、セレスティア様からの言伝だ。『カイ様の作るお野菜とパンが、また食べたいです。近いうちに、必ずお伺いします』とのことだ」

『あの人、目的がすり替わってないか……?』

 俺は苦笑するしかなかった。まあ、喜んでくれるならいつでもご馳走するけど。

 エリアナは用件を終えると、すぐに王都へと引き返していった。
 嵐のようにやってきて、嵐のように去っていく人だ。

 一人残された俺は目の前に積まれた金品を眺め、改めて自分がとんでもないことに関わってしまったのだと実感した。

「まあ、これで当分買い物には困らないな」

 俺は気を取り直し、報酬をログハウスへと運び込んだ。
 これで俺のスローライフは、さらに快適で豊かなものになるだろう。

 ――その頃、王都アシュフィールド家では。

 俺の知らないところで、新たな騒動の火種がくすぶり始めていた。

「なんだと!? リリアーナ王女が、全快されただと!?」

 長兄のグレン・アシュフィールドは報告を持ってきた家令を、怒鳴りつけた。
 その顔は嫉妬と憎悪で醜く歪んでいる。

「はい。なんでも『辺境で見つかった奇跡の作物』のおかげだそうで……」

「奇跡の作物だと? 馬鹿馬鹿しい! この私が知らない作物など、あるはずがない!」

 グレンは魔力こそ優秀だが、その性格は傲慢で自己中心的、そして嫉妬深い。
 自分より優れた存在がいることが我慢ならないのだ。
 特に王女の病を治したという『何者か』は、国王から絶大な信頼を得るに違いない。それは、いずれアシュフィールド家の地位を脅かす存在になるかもしれない。

 グレンは面白くない、という感情を隠そうともしなかった。

「……辺境、か」

 グレンの脳裏に、ふと忌々しい記憶が蘇った。
 数ヶ月前、自分たちが追い出した魔力なしの出来損ないの弟。
 彼を追いやった先も確か、西の辺境……『嘆きの荒野』だったはずだ。

「まさかな……。あんな無能に、何かができるはずもない」

 グレンはすぐにその考えを打ち消した。
 だが一度芽生えた疑念と嫉妬の炎は、そう簡単には消えない。

「おい、ダリル」

 グレンは隣に控えていた次兄のダリルに、低い声で命じた。

「は、はい! 兄上!」

「例の『奇跡の作物』とやらについて、詳しく調べてこい。どんな些細な情報でもいい。誰が、どこで、どのようにして手に入れたのか。全てだ」

「承知いたしました!」

 ダリルは兄の命令に、嬉々としてうなずいた。

 グレンは窓の外に広がる王都の景色を眺めながら、にやりと口の端を吊り上げた。
 その瞳にはどす黒い野心が燃え盛っている。

「ふん……どこの馬の骨かは知らんが、王家に取り入るチャンスをみすみす見逃す俺ではないわ。その『奇跡の作物』、この私が手に入れてさらなる栄光を掴んでやる」

 俺の起こした小さな奇跡は、王都で新たな波紋を広げ、俺を追放した兄たちの黒い欲望に火をつけてしまった。
 穏やかな辺境の地に、嫉妬と陰謀の影が静かに忍び寄ろうとしていた。

 もちろんそんなこととは露知らず、俺は手に入れたばかりの高級な塩をトマトにかけて、その格別な味わいに舌鼓を打っていたのだった。
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