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第1話:役立たずの荷物持ち
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「おい、レオ! ポーションだ! 早くしろ!」
背後から飛んできたのは、勇者アレスの怒声だった。
目の前では、巨大なミノタウロスの振り下ろす戦斧を、アレスが聖剣で辛うじて受け止めている。火花が散り、彼の腕が限界を訴えるように震えていた。
「は、はい! 今!」
俺、レオ・バートンは慌てて背負った巨大なバックパックから、回復薬であるポーションの小瓶を取り出そうともがく。だが、無造作に詰め込まれた大量の装備や食料が邪魔をして、目的の瓶はなかなか見つからない。
「ぐっ……まだか、この役立たずが!」
アレスの焦燥が、刃のように俺の心を突き刺す。
俺は勇者パーティーの一員だ。職業は「荷物持ち」。
生まれつき持っていたスキル【アイテムボックス】。それは、異空間に物を収納できるという、一見すると便利なスキルだった。しかし、俺のスキルは致命的な欠陥を抱えていた。――容量が、絶望的に少ないのだ。
成人男性が背負うバックパック一つ分。それが、俺のスキルの限界だった。
だから、俺はいつもスキルで収納しきれない荷物を、その身で背負って運んでいる。パーティーメンバーの着替え、大量の食料、予備の武具、テント、そして無数のポーション。それら全てを詰め込んだ巨大なバックパックは、鉛のように重かった。
「レオ! アレス様が危ないでしょう!」
後方から援護魔法を放っていた魔術師のリリアナが、ヒステリックに叫ぶ。彼女の視線には、明確な侮蔑がこもっていた。
「本当に、ただの収納袋ね。いない方がマシじゃないかしら」
同じく後方で回復魔法の準備をしていた聖女セシリアが、慈悲深い表情とは裏腹に、氷のように冷たい言葉を吐き捨てた。
やっとの思いでポーションの瓶を見つけ出し、アレスに向かって投げ渡す。彼はそれを乱暴に受け取ると、一息に煽った。傷が癒え、力が戻ったアレスは雄叫びを上げ、渾身の一撃でミノタウロスを打ち倒した。
戦闘後、洞窟内に響くのはアレスの高笑いだけだ。
「はっはっは! 俺にかかればこんなものよ!」
彼は手柄を独り占めし、リリアナとセシリアが駆け寄って彼を賞賛する。その輪の中に、俺の居場所はない。俺に投げかけられるのは、「ポーションを出すのが遅い」「もっと効率よく荷物をまとめろ」という罵倒だけ。
このダンジョンの深部にやってきたのも、アレスの無謀な判断からだった。
「準備不足だ」という俺の忠告を、「役立たずは黙ってろ」と一蹴し、彼は突撃した。その結果が、今のギリギリの勝利だ。もし少しでもタイミングがずれていれば、パーティーは本当に全滅していたかもしれない。
汗と泥にまみれ、仲間たちが使い捨てたゴミを拾い集めながら、俺は俯く。
今日もまた、俺の存在価値は「荷物を運ぶこと」だけ。それすらまともにできないと罵られる日々。
いつからだろう。仲間たちの役に立ちたいという純粋な気持ちが、すり減って、ただただ義務感と恐怖だけになってしまったのは。
洞窟の天井から滴る冷たい雫が、俺の首筋を濡らした。それはまるで、今の俺の心のようだった。冷たくて、孤独で、誰にも気づかれない。
俺は、このパーティーに必要なんだろうか。
そんな当たり前の疑問が、鉛のように重い荷物よりもずっと、俺の心にのしかかっていた。
背後から飛んできたのは、勇者アレスの怒声だった。
目の前では、巨大なミノタウロスの振り下ろす戦斧を、アレスが聖剣で辛うじて受け止めている。火花が散り、彼の腕が限界を訴えるように震えていた。
「は、はい! 今!」
俺、レオ・バートンは慌てて背負った巨大なバックパックから、回復薬であるポーションの小瓶を取り出そうともがく。だが、無造作に詰め込まれた大量の装備や食料が邪魔をして、目的の瓶はなかなか見つからない。
「ぐっ……まだか、この役立たずが!」
アレスの焦燥が、刃のように俺の心を突き刺す。
俺は勇者パーティーの一員だ。職業は「荷物持ち」。
生まれつき持っていたスキル【アイテムボックス】。それは、異空間に物を収納できるという、一見すると便利なスキルだった。しかし、俺のスキルは致命的な欠陥を抱えていた。――容量が、絶望的に少ないのだ。
成人男性が背負うバックパック一つ分。それが、俺のスキルの限界だった。
だから、俺はいつもスキルで収納しきれない荷物を、その身で背負って運んでいる。パーティーメンバーの着替え、大量の食料、予備の武具、テント、そして無数のポーション。それら全てを詰め込んだ巨大なバックパックは、鉛のように重かった。
「レオ! アレス様が危ないでしょう!」
後方から援護魔法を放っていた魔術師のリリアナが、ヒステリックに叫ぶ。彼女の視線には、明確な侮蔑がこもっていた。
「本当に、ただの収納袋ね。いない方がマシじゃないかしら」
同じく後方で回復魔法の準備をしていた聖女セシリアが、慈悲深い表情とは裏腹に、氷のように冷たい言葉を吐き捨てた。
やっとの思いでポーションの瓶を見つけ出し、アレスに向かって投げ渡す。彼はそれを乱暴に受け取ると、一息に煽った。傷が癒え、力が戻ったアレスは雄叫びを上げ、渾身の一撃でミノタウロスを打ち倒した。
戦闘後、洞窟内に響くのはアレスの高笑いだけだ。
「はっはっは! 俺にかかればこんなものよ!」
彼は手柄を独り占めし、リリアナとセシリアが駆け寄って彼を賞賛する。その輪の中に、俺の居場所はない。俺に投げかけられるのは、「ポーションを出すのが遅い」「もっと効率よく荷物をまとめろ」という罵倒だけ。
このダンジョンの深部にやってきたのも、アレスの無謀な判断からだった。
「準備不足だ」という俺の忠告を、「役立たずは黙ってろ」と一蹴し、彼は突撃した。その結果が、今のギリギリの勝利だ。もし少しでもタイミングがずれていれば、パーティーは本当に全滅していたかもしれない。
汗と泥にまみれ、仲間たちが使い捨てたゴミを拾い集めながら、俺は俯く。
今日もまた、俺の存在価値は「荷物を運ぶこと」だけ。それすらまともにできないと罵られる日々。
いつからだろう。仲間たちの役に立ちたいという純粋な気持ちが、すり減って、ただただ義務感と恐怖だけになってしまったのは。
洞窟の天井から滴る冷たい雫が、俺の首筋を濡らした。それはまるで、今の俺の心のようだった。冷たくて、孤独で、誰にも気づかれない。
俺は、このパーティーに必要なんだろうか。
そんな当たり前の疑問が、鉛のように重い荷物よりもずっと、俺の心にのしかかっていた。
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