追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます

黒崎隼人

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第4話:安息の地、アッシュフィールド村

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 街道を歩き続けること、さらに一週間。
 俺の目の前に、ようやく人の営みが見えてきた。古びた木製の柵に囲まれた、小さな村だ。村の入り口に立つ寂れた看板には、「アッシュフィールド村」と書かれていた。
 王都の喧騒とは無縁の、静かで、どこか時間が止まったかのような場所だった。今の俺には、それがひどく魅力的に思えた。

 村に入ると、畑仕事の合間らしい村人たちが、物珍しそうにこちらを見ていた。彼らの視線に怯えながらも、俺は村長の家を訪ねた。
 対応してくれたのは、白髭をたくわえた人の良さそうな老人だった。
「ほう、旅の方かの。こんな辺境の村まで、ようこそいらっしゃった」
 俺は正直に、王都を出てきたこと、今は無一文で行く当てがないことを話した。追放されたことだけは、どうしても言えなかったが。
 村長は俺の薄汚れた身なりを見ても嫌な顔一つせず、静かに話を聞いてくれた。
「そうか、大変じゃったのう……。よければ、しばらくこの村に滞在するといい。幸い、空き家が一軒ある。村の外れにあるボロ家じゃが、少し掃除すれば住めるじゃろう。家賃は、村の仕事を手伝ってくれるだけでいい」
 村長の温かい言葉に、俺は思わず涙がこみ上げてきた。追放されてから、他人にこんな風に優しくされたのは初めてだった。
「あ、ありがとうございます……!」
 俺は深々と頭を下げた。

 案内された空き家は、確かに古く、埃っぽかったが、雨風をしのぐには十分だった。
 俺は村長から借りた道具で、一日かけて家を掃除した。床を掃き、窓を拭き、屋根の穴を塞ぐ。体を動かしていると、不思議と心の淀みが晴れていくようだった。
 夜になり、ようやく一息ついた俺は、粗末なベッドに体を横たえた。
 これから、ここで生きていくんだ。
 新しい生活を始める。その決意が、俺の胸に静かな炎を灯した。

 その時だった。
 俺の脳内に、今まで聞こえたことのない無機質な声が響いた。
 《スキル【アイテムボックス】の熟練度が一定に達しました。新たな能力【解析・分解】が解放されます》
「な……!?」
 俺は飛び起きた。
 スキルの、新たな能力? 熟練度? 一体どういうことだ?
 混乱しながらも、俺は昼間に拾っておいた道端の石を手に取った。何か変わるかもしれない。そう思い、意識を集中させてスキルを使ってみる。
「解析」
 そう心の中で念じると、石に関する情報が、まるで本を読むかのように頭の中に流れ込んできた。
 《ただの石:主な成分はケイ素。微量の鉄分、魔力成分を含む》
 すごい……。物の情報がわかるのか。
 次に、俺は「分解」と念じてみた。
 すると、手の中にあった石が淡い光を放ち、次の瞬間には三つの小さな塊に分かれていた。
 一つは、鈍い光を放つ黒い塊。
 一つは、キラキラと輝く小さな結晶。
 そして残りは、灰色の砂のような粉末だった。
 再び【解析】スキルを使ってみる。
 《鉄鉱石:純度85%。高品質な鉄の材料となる》
 《魔石(欠片):微量の魔力を含んだ結晶。魔道具の動力源などに使われる》
 《ケイ素の粉:ガラスなどの原料になる》
「うそだろ……」
 俺は呆然と呟いた。
 道端に転がっていたただの石ころが、価値のある素材に変わった。
【アイテムボックス】は、ただの収納スキルなんかじゃなかった。時間を止め、物を解析し、そして分解する。とんでもない力を秘めていたんだ。
 今まで俺を虐げてきた「ゴミスキル」という評価が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
 これは、ただの始まりに過ぎない。
 俺の心臓が、興奮と期待で高鳴った。この力があれば、俺はここで、自分の力で生きていける。
 アッシュフィールド村での新しい生活が、今、本当に始まろうとしていた。
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