悪役令嬢は辺境で農業革命を起こす~追放された私が知識チートで会社を作り、気づけば国ごと豊かにしちゃいました~

黒崎隼人

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第6章:商人の眼差しと運命の出会い

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 リリアーナは、村で一番丈夫な馬車を借り、トーマスと共にエルドニアの町へと向かった。馬車には、選び抜かれた最高品質のジャガイモと、辺境の山でしか採れない香り高いハーブが満載されている。彼女の目的は、単に作物を売ることではない。この町の市場の仕組みを学び、未来の事業展開の足がかりを掴むことだった。

 エルドニアの市場は、朝から活気に満ち溢れていた。様々な品物を扱う露店が軒を連ね、商人たちの威勢の良い声と、客たちの雑多な会話が熱気となって渦巻いている。リリアーナとトーマスは、市場の隅にささやかな場所を確保すると、持ってきた作物を丁寧に並べ始めた。

 最初は、誰も彼らに注目しなかった。元貴族令嬢の気品が残るリリアーナと、田舎の頑固そうな老人の組み合わせは、市場ではあまりに異質だった。しかし、物珍しそうに足を止めた一人の女性が、リリアーナの並べたジャガイモの大きさに驚きの声を上げたことで、状況は一変する。

「まあ、なんて大きなジャガイモなの! こんなの見たことないわ!」

 その声に引かれるように、人々が次々と集まってきた。彼らは、リリアーナの作物の圧倒的な品質に目を見張り、手に取っては感嘆の声を漏らした。
「このハーブもすごい。香りが全く違うぞ」
「嬢ちゃん、これ、どうやって育てたんだ?」

 リリアーナは、前世の接客経験を活かし、客一人ひとりに商品の特徴を丁寧に説明した。栽培方法のこだわり、味の良さ、そしておすすめの調理法。彼女の明るく知的な語り口と、商品の確かな品質が相まって、店の前にはあっという間に行列ができた。作物は、飛ぶように売れていく。トーマスは、孫娘の活躍を誇らしげに見守りながら、手際よく商品を袋に詰めていった。

 その様子を、市場の喧騒から少し離れた場所で、一人の青年が鋭い眼差しで見つめていた。年の頃は二十代半ば。仕立ての良い服を着こなし、その佇まいには若くして成功した者だけが持つ自信が満ちている。彼の名はエリック。新興の商会を一代で築き上げた、切れ者の若き当主だった。

 エリックは、常に新しい商機を探していた。リリアーナの店の異常なまでの賑わいは、彼の商人の勘を強く刺激した。彼は人だかりをかき分け、商品の品質を確かめる。そして、それ以上に彼が注目したのは、リリアーナ自身の商才だった。彼女はただ商品を売っているのではない。商品の価値を伝え、顧客に満足感を与え、物語を売っている。これは、既存の商人にはない、全く新しい才能だった。

 客足が途切れたのを見計らい、エリックはリリアーナに近づいた。
「素晴らしい商売ですね。失礼ですが、その見事な作物はどちらで? これほどの品は、王都の高級店でも滅多にお目にかかれませんよ」

 その声に、リリアーナは顔を上げた。目の前の青年が、ただの客ではないことを瞬時に見抜く。彼の瞳には、値踏みするような鋭さと、純粋な好奇心が同居していた。

「これは、私たちが辺境の村で育てたものですわ」
 リリアーナは、あえて自分の素性は明かさず、にこやかに答えた。
「ほう、辺境で。にわかには信じがたい。何か特別な秘訣でも?」
 エリックは探るように問いを重ねる。

「秘訣は、土としっかり対話すること。それだけですわ」
 リリアーナがそう言って微笑むと、エリックは思わず笑みをこぼした。
「はは、面白いことを言う。土と対話、ですか。気に入りました」

 二人の間に、目に見えない火花が散った。リリアーナは彼の商才に、エリックは彼女の未知数の可能性に、互いに強く惹きつけられていた。エリックは、彼女がただの農夫ではないこと、そしてその背後に巨大なビジネスチャンスが眠っていることを確信する。

「もしよろしければ、あなたの商品を私の商会で独占的に扱わせてはいただけませんか? いや、それだけではもったいない。共同で、新しい事業を立ち上げましょう。あなたの作る最高の原料と、私の持つ販売網。二つが合わされば、この国の食の歴史を変えられます」

 あまりに突飛で、壮大な提案。しかし、その言葉は、リリアーナが漠然と思い描いていた未来の構想と、不思議なほど合致していた。彼女は、この青年となら、それが実現できるかもしれないと直感した。

「……面白いお話ですわね。ですが、簡単にお受けするわけにはいきません。あなた様の商会と、あなたご自身のことを、もっと詳しくお聞かせ願えますか?」

 リリアーナは慎重に、だが明確な興味を示して答えた。この出会いは、運命的なものになる。彼女の胸は、新たな挑戦への期待で高鳴っていた。馬車で村へ帰る頃には、リリアーナの頭の中は、エリックと共に描く未来の事業計画でいっぱいになっていた。商人の鋭い眼差しが、彼女の成り上がり物語を、次のステージへと導こうとしていた。
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