ブラック企業勤めで過労死した元社畜、インプに転生して無限体力で魔王軍をブラック企業からホワイト企業に大改革!

黒崎隼人

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第08話「ホワイト企業の脅威と、ブラックな勇者」

 ケントによる魔王軍改革は、着実に、そして急速にその成果を現し始めていた。
 労働環境の改善は兵士たちの士気を極限まで高め、軍全体の練度は飛躍的に向上した。
 無駄な予算を削減し研究開発に投資したことで、新たな魔法兵器の開発も進んでいた。
 内政においても、効率的な資源管理と産業振興によって、魔族の国そのものが豊かになりつつあった。
 魔王軍の国力は、今や人間側の王国を圧倒するほどに増大していた。

 一方、人間側であるアークライト王国は、その魔王軍の不気味な強化に強い危機感を抱いていた。

「間違いありません。ここ数ヶ月の魔王軍の動きは、明らかに異常です」

 王城の会議室で、一人の将軍が険しい表情で報告していた。

「部隊の統率力、兵站の安定性、そして兵士一人一人の士気。どれをとっても、以前とは比べ物になりません。まるで、別の軍隊になったかのようです」
「うむ……。一体、魔王軍に何が起こっているのだ?」

 玉座に座る国王が、苦渋の表情で問う。

「諜報部からの報告によりますと、最近、魔王の側に仕えるようになった謎の軍師がいるとのこと。その者の名は不明ですが、魔王軍の改革を主導しているのは、その軍師に違いありません」
「新たなる邪悪な軍師、か……」

 国王は深くため息をついた。
 膠着していた戦況が、大きく動こうとしている。
 このままでは、王国は滅ぼされるかもしれない。

「勇者アランを呼べ! 彼に、魔王城へ侵攻し、その邪悪な軍師を討ち取るよう命じるのだ!」

 国王の決定は、絶対だった。
 その頃、勇者アランとそのパーティーは、辺境の砦でゴブリンの群れを掃討する任務に就いていた。

「はぁ、はぁ……。これで、全部か……」

 アランは剣についた血を振り払い、荒い息をついた。
 彼は王国最強の剣士であり、神に選ばれた勇者として、これまで幾度となく魔族の軍勢を退けてきた。
 しかし、彼の顔には英雄の輝きではなく、深い疲労の色が刻まれていた。

「アラン、大丈夫?」

 パーティーの回復役である聖女リナが、心配そうに駆け寄ってくる。

「ああ、問題ない。それより、みんなの怪我は?」
「大丈夫。軽い傷だけだから、私の魔法ですぐに治せるわ」

 パーティーの仲間である魔法使いのカイルと、斥候のドレイクも、疲れた様子でアランの元に集まってきた。
 彼らは、王国最強のパーティーとして、人々からは尊敬と憧れの目で見られている。
 しかし、その内情はかなり厳しいものだった。
 王国からの支援は、十分とは言えない。
 装備の補充は遅れがちで、報酬もその危険な任務内容に見合っているとは到底言えなかった。
 休みはほとんどなく、一つの任務が終われば、すぐに次の過酷な任務が言い渡される。
 彼らは、人々を守るという使命感だけで、なんとか戦い続けていた。
 しかし、その心身はとっくに限界を超えていた。

『また、王都への報告書を書かないとな……。遠征経費の精算も溜まってるし、装備の補充申請もしないと……』

 リーダーであるアランは、戦闘以外の雑務にも追われていた。
 それはまるで、成果を求められ続ける、ブラックな職場のようだった。
 そんな彼らの元に、王からの勅命が届いたのは、砦に戻ってすぐのことだった。

「魔王城へ侵攻し、新たなる軍師を討て、だと……?」

 伝令の言葉に、アランは絶句した。

「無茶です! 今の我々の戦力で魔王城に乗り込むなど、自殺行為に等しい!」

 魔法使いのカイルが声を荒らげる。

「装備も消耗しきっている。せめて、十分な準備期間と最新の装備を支給していただかなければ……」

 しかし、伝令は冷たく言い放った。

「これは、国王陛下の決定です。勇者ともあろう方が、命令に背くと?」

 その言葉に、アランたちは唇を噛むしかなかった。
 数日後。アラン一行は、十分な準備もできないまま魔王城へと向けて出発した。
 その足取りは重く、未来への希望など、どこにも見いだせなかった。
 彼らは知らない。
 自分たちが討ち取ろうとしている「邪悪な軍師」が、実は自分たちと同じように組織の理不尽さに苦しんだ末、労働環境の改善に命を燃やす元サラリーマンであることなど、知る由もなかった。

 そして、ケントもまた、自分の改革が人間側を追い詰め、勇者を魔王城へと差し向ける原因になっていることなど、全く気づいていなかった。
 彼はただ、山積みの決裁書類を前に、こうつぶやくだけだった。

『ああ、今日も残業か……。早く家に帰って、ゆっくり寝たい……』

 運命の歯車は、二人の「労働者」を、玉座の間での対決へと導いていく。

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