ブラック企業で過労死した俺が転生先で開いた酒場、絶品飯テロ料理で氷の華と呼ばれる女騎士団長様を骨抜きにしてしまいました

黒崎隼人

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第11話「陽だまりの誓い」

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 コンテストの熱狂から数週間が過ぎ、『陽だまりの酒場』は王都で最も有名な店の一つとなっていた。
 王家御用達の称号は伊達じゃない。連日、多くの客で賑わっている。中には、わざわざ遠方の街から噂を聞きつけてやってくる貴族や大商人もいた。
 俺は、急に増えた客に対応するため、新たに数人の従業員を雇った。それでも、厨房は毎日戦場のようだ。だが、その忙しさは、心地よい疲労感と充実感を俺に与えてくれた。
 リナは、店の人気者だ。看板娘として、持ち前の明るさと元気な接客で、店の雰囲気をより一層華やかにしてくれている。マードックも、ご意見番としてカウンターに座り、時折、俺の料理に鋭い指摘をくれる。彼の存在は、店が大きくなっても、その根っこにある温かさを忘れさせないための、大切な重しのようなものだった。
 そして、アリア。
 彼女は、以前と変わらず騎士団での任務に励んでいた。バルドがいなくなったことで、彼女の立場を脅かす者はいなくなり、その実力を正当に評価されるようになったらしい。近いうちに、分隊長に昇進するだろうと、もっぱらの噂だった。
 彼女はどんなに忙しくても、時間を見つけては店に顔を出してくれた。鎧を脱ぎ、カウンターのいつもの席で俺の料理を食べる彼女の姿は、店にとって当たり前の、そして何よりも大切な光景になっていた。
 その日、アリアは少し改まった表情で店にやってきた。
「リョウ、少し話があるんだが、今、時間をもらえるか?」
 閉店後、二人きりになったカウンターで、彼女はそう切り出した。俺は、何事だろうかと少し身構える。
「実は……騎士団を辞めようかと思っている」
「えっ!?」
 予想外の言葉に、俺は思わず声を上げた。
「ど、どうしてです!? 騎士でいることは、あなたの誇りだって……」
「ああ、その気持ちに変わりはない。だが……」
 アリアは、少しうつむいて言葉を続ける。
「店がこれだけ大きくなって、君は毎日、本当に大変そうだ。私だけ、自分の夢を追いかけていていいのだろうか、と……。君の隣で、この店を支えるのが、私の役目なのではないか、と……そう、思うようになったんだ」
 彼女の言葉は、俺を想ってくれてのことだと痛いほどわかった。嬉しくない、と言えば嘘になる。だが、俺は首を横に振った。
「ダメですよ、そんなの」
「……なぜだ?」
「俺は、アリアさんに騎士でいてほしい。俺のために、あなたの夢を諦めないでほしいんです。俺があなたの夢を応援するように、あなたも俺の夢を応援してくれている。それでいいじゃないですか」
 俺は、彼女の手を優しく取った。
「俺は料理人。アリアさんは騎士。お互い、進む道は違うかもしれない。でも、向いている方向は同じはずです。大切なものを守りたい、っていうね」
 それに、と俺は付け加えた。
「騎士として輝いているアリアさんが、俺は一番好きですから」
 俺の真っ直ぐな言葉に、アリアは頬を赤らめ、そして、ふっと安堵したように微笑んだ。
「……ありがとう、リョウ。君は、いつもそうだ。私の迷いを、いつも吹き飛ばしてくれる」
「それが、俺の役目ですから」
 俺たちが笑い合っていると、店の扉がそっと開いた。マードックとリナだった。
「まったく、若い二人はいつまでいちゃついてるんじゃ」
 マードックが、からかうように言う。
「リョウの兄ちゃんとアリアお姉ちゃん、結婚するの?」
 リナが、目をキラキラさせて無邪気に尋ねる。その言葉に、アリアの顔がさらに真っ赤になった。
 俺は、その二人に向かって、そして隣のアリアに向かって、宣言するように言った。
「いつか、必ず。だから、見ていてください。俺は、この店をもっともっと大きくして、アリアさんを世界一幸せにします」
 俺の言葉に、マードックは「ふん、せいぜい頑張るんじゃな」と口では言いながらも、その目は優しく細められていた。リナは「やったー!」と大喜びだ。
 そして、アリアは。
 彼女は、涙ぐみながらも、最高の笑顔でうなずいてくれた。
 俺は、アリアの手を引いて、店の外に出た。
 夜空には、満月が煌々と輝いている。見慣れた王都の路地裏が、月明かりに照らされて、まるで銀色の道のように見えた。
 俺たちは、新しくなった『陽だまりの酒場』の看板の前に立つ。
「アリアさん」
「……なんだ?」
「これからも、ずっと一緒にいてください」
「……当たり前だ。私の帰る場所は、ここなのだから」
 俺たちはどちらからともなく、そっと唇を重ねた。それは、陽だまりのように温かくて、優しい誓いのキスだった。
 異世界に転生し、手に入れた二度目の人生。それは、たくさんの温かい人々に囲まれ、愛する人と共に歩む、かけがえのない日々。
 俺の戦いは、まだ始まったばかりだ。最高の料理で、もっとたくさんの人を笑顔にする。そして、愛する人を、この腕で守り抜く。
『陽だまりの酒場』の物語は、これからも続いていく。たくさんの笑顔と、美味しい料理の香りと共に。
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