12 / 14
第11話「陽だまりの誓い」
しおりを挟む
コンテストの熱狂から数週間が過ぎ、『陽だまりの酒場』は王都で最も有名な店の一つとなっていた。
王家御用達の称号は伊達じゃない。連日、多くの客で賑わっている。中には、わざわざ遠方の街から噂を聞きつけてやってくる貴族や大商人もいた。
俺は、急に増えた客に対応するため、新たに数人の従業員を雇った。それでも、厨房は毎日戦場のようだ。だが、その忙しさは、心地よい疲労感と充実感を俺に与えてくれた。
リナは、店の人気者だ。看板娘として、持ち前の明るさと元気な接客で、店の雰囲気をより一層華やかにしてくれている。マードックも、ご意見番としてカウンターに座り、時折、俺の料理に鋭い指摘をくれる。彼の存在は、店が大きくなっても、その根っこにある温かさを忘れさせないための、大切な重しのようなものだった。
そして、アリア。
彼女は、以前と変わらず騎士団での任務に励んでいた。バルドがいなくなったことで、彼女の立場を脅かす者はいなくなり、その実力を正当に評価されるようになったらしい。近いうちに、分隊長に昇進するだろうと、もっぱらの噂だった。
彼女はどんなに忙しくても、時間を見つけては店に顔を出してくれた。鎧を脱ぎ、カウンターのいつもの席で俺の料理を食べる彼女の姿は、店にとって当たり前の、そして何よりも大切な光景になっていた。
その日、アリアは少し改まった表情で店にやってきた。
「リョウ、少し話があるんだが、今、時間をもらえるか?」
閉店後、二人きりになったカウンターで、彼女はそう切り出した。俺は、何事だろうかと少し身構える。
「実は……騎士団を辞めようかと思っている」
「えっ!?」
予想外の言葉に、俺は思わず声を上げた。
「ど、どうしてです!? 騎士でいることは、あなたの誇りだって……」
「ああ、その気持ちに変わりはない。だが……」
アリアは、少しうつむいて言葉を続ける。
「店がこれだけ大きくなって、君は毎日、本当に大変そうだ。私だけ、自分の夢を追いかけていていいのだろうか、と……。君の隣で、この店を支えるのが、私の役目なのではないか、と……そう、思うようになったんだ」
彼女の言葉は、俺を想ってくれてのことだと痛いほどわかった。嬉しくない、と言えば嘘になる。だが、俺は首を横に振った。
「ダメですよ、そんなの」
「……なぜだ?」
「俺は、アリアさんに騎士でいてほしい。俺のために、あなたの夢を諦めないでほしいんです。俺があなたの夢を応援するように、あなたも俺の夢を応援してくれている。それでいいじゃないですか」
俺は、彼女の手を優しく取った。
「俺は料理人。アリアさんは騎士。お互い、進む道は違うかもしれない。でも、向いている方向は同じはずです。大切なものを守りたい、っていうね」
それに、と俺は付け加えた。
「騎士として輝いているアリアさんが、俺は一番好きですから」
俺の真っ直ぐな言葉に、アリアは頬を赤らめ、そして、ふっと安堵したように微笑んだ。
「……ありがとう、リョウ。君は、いつもそうだ。私の迷いを、いつも吹き飛ばしてくれる」
「それが、俺の役目ですから」
俺たちが笑い合っていると、店の扉がそっと開いた。マードックとリナだった。
「まったく、若い二人はいつまでいちゃついてるんじゃ」
マードックが、からかうように言う。
「リョウの兄ちゃんとアリアお姉ちゃん、結婚するの?」
リナが、目をキラキラさせて無邪気に尋ねる。その言葉に、アリアの顔がさらに真っ赤になった。
俺は、その二人に向かって、そして隣のアリアに向かって、宣言するように言った。
「いつか、必ず。だから、見ていてください。俺は、この店をもっともっと大きくして、アリアさんを世界一幸せにします」
俺の言葉に、マードックは「ふん、せいぜい頑張るんじゃな」と口では言いながらも、その目は優しく細められていた。リナは「やったー!」と大喜びだ。
そして、アリアは。
彼女は、涙ぐみながらも、最高の笑顔でうなずいてくれた。
俺は、アリアの手を引いて、店の外に出た。
夜空には、満月が煌々と輝いている。見慣れた王都の路地裏が、月明かりに照らされて、まるで銀色の道のように見えた。
俺たちは、新しくなった『陽だまりの酒場』の看板の前に立つ。
「アリアさん」
「……なんだ?」
「これからも、ずっと一緒にいてください」
「……当たり前だ。私の帰る場所は、ここなのだから」
俺たちはどちらからともなく、そっと唇を重ねた。それは、陽だまりのように温かくて、優しい誓いのキスだった。
異世界に転生し、手に入れた二度目の人生。それは、たくさんの温かい人々に囲まれ、愛する人と共に歩む、かけがえのない日々。
俺の戦いは、まだ始まったばかりだ。最高の料理で、もっとたくさんの人を笑顔にする。そして、愛する人を、この腕で守り抜く。
『陽だまりの酒場』の物語は、これからも続いていく。たくさんの笑顔と、美味しい料理の香りと共に。
王家御用達の称号は伊達じゃない。連日、多くの客で賑わっている。中には、わざわざ遠方の街から噂を聞きつけてやってくる貴族や大商人もいた。
俺は、急に増えた客に対応するため、新たに数人の従業員を雇った。それでも、厨房は毎日戦場のようだ。だが、その忙しさは、心地よい疲労感と充実感を俺に与えてくれた。
リナは、店の人気者だ。看板娘として、持ち前の明るさと元気な接客で、店の雰囲気をより一層華やかにしてくれている。マードックも、ご意見番としてカウンターに座り、時折、俺の料理に鋭い指摘をくれる。彼の存在は、店が大きくなっても、その根っこにある温かさを忘れさせないための、大切な重しのようなものだった。
そして、アリア。
彼女は、以前と変わらず騎士団での任務に励んでいた。バルドがいなくなったことで、彼女の立場を脅かす者はいなくなり、その実力を正当に評価されるようになったらしい。近いうちに、分隊長に昇進するだろうと、もっぱらの噂だった。
彼女はどんなに忙しくても、時間を見つけては店に顔を出してくれた。鎧を脱ぎ、カウンターのいつもの席で俺の料理を食べる彼女の姿は、店にとって当たり前の、そして何よりも大切な光景になっていた。
その日、アリアは少し改まった表情で店にやってきた。
「リョウ、少し話があるんだが、今、時間をもらえるか?」
閉店後、二人きりになったカウンターで、彼女はそう切り出した。俺は、何事だろうかと少し身構える。
「実は……騎士団を辞めようかと思っている」
「えっ!?」
予想外の言葉に、俺は思わず声を上げた。
「ど、どうしてです!? 騎士でいることは、あなたの誇りだって……」
「ああ、その気持ちに変わりはない。だが……」
アリアは、少しうつむいて言葉を続ける。
「店がこれだけ大きくなって、君は毎日、本当に大変そうだ。私だけ、自分の夢を追いかけていていいのだろうか、と……。君の隣で、この店を支えるのが、私の役目なのではないか、と……そう、思うようになったんだ」
彼女の言葉は、俺を想ってくれてのことだと痛いほどわかった。嬉しくない、と言えば嘘になる。だが、俺は首を横に振った。
「ダメですよ、そんなの」
「……なぜだ?」
「俺は、アリアさんに騎士でいてほしい。俺のために、あなたの夢を諦めないでほしいんです。俺があなたの夢を応援するように、あなたも俺の夢を応援してくれている。それでいいじゃないですか」
俺は、彼女の手を優しく取った。
「俺は料理人。アリアさんは騎士。お互い、進む道は違うかもしれない。でも、向いている方向は同じはずです。大切なものを守りたい、っていうね」
それに、と俺は付け加えた。
「騎士として輝いているアリアさんが、俺は一番好きですから」
俺の真っ直ぐな言葉に、アリアは頬を赤らめ、そして、ふっと安堵したように微笑んだ。
「……ありがとう、リョウ。君は、いつもそうだ。私の迷いを、いつも吹き飛ばしてくれる」
「それが、俺の役目ですから」
俺たちが笑い合っていると、店の扉がそっと開いた。マードックとリナだった。
「まったく、若い二人はいつまでいちゃついてるんじゃ」
マードックが、からかうように言う。
「リョウの兄ちゃんとアリアお姉ちゃん、結婚するの?」
リナが、目をキラキラさせて無邪気に尋ねる。その言葉に、アリアの顔がさらに真っ赤になった。
俺は、その二人に向かって、そして隣のアリアに向かって、宣言するように言った。
「いつか、必ず。だから、見ていてください。俺は、この店をもっともっと大きくして、アリアさんを世界一幸せにします」
俺の言葉に、マードックは「ふん、せいぜい頑張るんじゃな」と口では言いながらも、その目は優しく細められていた。リナは「やったー!」と大喜びだ。
そして、アリアは。
彼女は、涙ぐみながらも、最高の笑顔でうなずいてくれた。
俺は、アリアの手を引いて、店の外に出た。
夜空には、満月が煌々と輝いている。見慣れた王都の路地裏が、月明かりに照らされて、まるで銀色の道のように見えた。
俺たちは、新しくなった『陽だまりの酒場』の看板の前に立つ。
「アリアさん」
「……なんだ?」
「これからも、ずっと一緒にいてください」
「……当たり前だ。私の帰る場所は、ここなのだから」
俺たちはどちらからともなく、そっと唇を重ねた。それは、陽だまりのように温かくて、優しい誓いのキスだった。
異世界に転生し、手に入れた二度目の人生。それは、たくさんの温かい人々に囲まれ、愛する人と共に歩む、かけがえのない日々。
俺の戦いは、まだ始まったばかりだ。最高の料理で、もっとたくさんの人を笑顔にする。そして、愛する人を、この腕で守り抜く。
『陽だまりの酒場』の物語は、これからも続いていく。たくさんの笑顔と、美味しい料理の香りと共に。
22
あなたにおすすめの小説
追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜
たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。
だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。
契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。
農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。
そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。
戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!
追放勇者の土壌改良は万物進化の神スキル!女神に溺愛され悪役令嬢と最強国家を築く
黒崎隼人
ファンタジー
勇者として召喚されたリオンに与えられたのは、外れスキル【土壌改良】。役立たずの烙印を押され、王国から追放されてしまう。時を同じくして、根も葉もない罪で断罪された「悪役令嬢」イザベラもまた、全てを失った。
しかし、辺境の地で死にかけたリオンは知る。自身のスキルが、実は物質の構造を根源から組み替え、万物を進化させる神の御業【万物改良】であったことを!
石ころを最高純度の魔石に、ただのクワを伝説級の戦斧に、荒れ地を豊かな楽園に――。
これは、理不尽に全てを奪われた男が、同じ傷を持つ気高き元悪役令嬢と出会い、過保護な女神様に見守られながら、無自覚に世界を改良し、自分たちだけの理想郷を創り上げ、やがて世界を救うに至る、壮大な逆転成り上がりファンタジー!
悪役令嬢は廃墟農園で異世界婚活中!~離婚したら最強農業スキルで貴族たちが求婚してきますが、元夫が邪魔で困ってます~
黒崎隼人
ファンタジー
「君との婚約を破棄し、離婚を宣言する!」
皇太子である夫から突きつけられた突然の別れ。
悪役令嬢の濡れ衣を着せられ追放された先は、誰も寄りつかない最果ての荒れ地だった。
――最高の農業パラダイスじゃない!
前世の知識を活かし、リネットの農業革命が今、始まる!
美味しい作物で村を潤し、国を救い、気づけば各国の貴族から求婚の嵐!?
なのに、なぜか私を捨てたはずの元夫が、いつも邪魔ばかりしてくるんですけど!
「離婚から始まる、最高に輝く人生!」
農業スキル全開で国を救い、不器用な元夫を振り回す、痛快!逆転ラブコメディ!
無自覚チートで無双する気はなかったのに、小石を投げたら山が崩れ、クシャミをしたら魔王が滅びた。俺はただ、平穏に暮らしたいだけなんです!
黒崎隼人
ファンタジー
トラックに轢かれ、平凡な人生を終えたはずのサラリーマン、ユウキ。彼が次に目覚めたのは、剣と魔法の異世界だった。
「あれ?なんか身体が軽いな」
その程度の認識で放った小石が岩を砕き、ただのジャンプが木々を越える。本人は自分の異常さに全く気づかないまま、ゴブリンを避けようとして一撃でなぎ倒し、怪我人を見つけて「血、止まらないかな」と願えば傷が癒える。
これは、自分の持つ規格外の力に一切気づかない男が、善意と天然で周囲の度肝を抜き、勘違いされながら意図せず英雄へと成り上がっていく、無自覚無双ファンタジー!
異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~
たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。
たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。
薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。
仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。
剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。
ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
神具のクワで異世界開拓!〜過労死SE、呪われた荒野を極上農園に変えてエルフや獣人と美味しいスローライフ〜
黒崎隼人
ファンタジー
ブラック企業で過労死したシステムエンジニアの茅野蓮は、豊穣の女神アリアによって剣と魔法のファンタジー世界へ転生する。
彼に与えられた使命は、呪われた「嘆きの荒野」を開拓し、全ての種族が手を取り合える理想郷を築くこと。
女神から授かったチート神具「ガイアの聖クワ」を一振りすれば、枯れた大地は瞬時に極上の黒土へと変わり、前世の知識と魔法の収納空間を駆使して、あっという間に規格外の美味しい作物を育て上げていく。
絶品の「ポトフ」で飢えたエルフの少女を救ったことを皮切りに、訳ありの白狼族の女戦士、没落した元公爵令嬢、故郷を失った天狐の巫女、人間に囚われていた翼人族の少女など、行き場を失った魅力的なヒロインたちが次々と彼の農園に集まってくる。
蓮が作る「醤油」や「マヨネーズ」などの未知の調味料や絶品料理は、瞬く間に世界中の胃袋を掴み、小さな農園はいつしか巨大な経済網を持つ最強の都市国家へと発展していく!
迫り来る大商会の圧力も、大国の軍勢も、さらには魔王軍の侵攻すらも、蓮は「美味しいご飯」と「農業チート」で平和的に解決してしまう。
これは、一本のクワを握りしめた心優しい青年が、傷ついた仲間たちと共に美味しい食卓を囲みながら、世界一豊かで幸せな国家「アルカディア連邦」を創り上げるまでの、奇跡と豊穣の異世界スローライフ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる