ブラック企業で過労死した俺が転生先で開いた酒場、絶品飯テロ料理で氷の華と呼ばれる女騎士団長様を骨抜きにしてしまいました

黒崎隼人

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エピローグ「おかえりと、ただいまの味」

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 あれから、五年という歳月が流れた。
 王都の路地裏に佇む『陽だまりの酒場』は、今やその名を知らない者はいないほどの有名店となっていた。店は改装を重ねて少しだけ大きくなったが、木の温もりを大切にした、あの頃の雰囲気は少しも変わっていない。
 厨房に立つ俺、リョウの腕も、我ながら少しは上がったと思う。王家御用達の看板に恥じぬよう、日々新しい料理の研究を重ねてきた。今では数人の弟子も抱え、彼らがきびきびと働く厨房は、活気に満ちている。
「店主! テーブル席から、黄金コロッケの追加、入りました!」
「あいよ!」
 威勢のいい声に答え、俺は手際よくコロッケを油に投入する。ジュワッという心地よい音は、五年前と何も変わらない。
 店の看板娘だったリナは、十五歳になり、美しい娘に成長した。今では、俺の右腕として、接客だけでなく、簡単な調理までこなしてくれる。彼女の明るい笑顔は、今も店の宝物だ。
 マードックは、店の経営から完全に引退し、今は孫娘の成長と店の繁盛を、縁側のような特等席で目を細めながら見守っている。それが、彼の何よりの楽しみらしかった。
 カラン。
 夕暮れ時、店の扉が開く。客の喧騒が、一瞬だけ静になった。
 そこに立っていたのは、一人の女性騎士。以前よりも精悍さを増した顔立ち。磨き上げられた白銀の鎧は、騎士団長だけが身に着けることを許されたものだ。
「……ただいま」
 少し掠れた、しかし凛とした声。
 その声に、俺は顔を上げ、満面の笑みで答えた。
「おかえりなさい、アリア」
 アリア・クレスウェル。俺の妻であり、王都騎士団の頂点に立つ女性。
 彼女は、一ヶ月に及ぶ国境での任務を終え、今、帰ってきたのだ。
「長旅、お疲れ様でした。さあ、いつもの席へどうぞ」
 俺がうながすと、彼女は少し照れたようにうなずき、カウンターの隅にある指定席へと向かう。店の常連客たちは、そんな俺たちのやり取りを、温かい目で見守ってくれていた。
「団長殿、ご苦労様です!」
「今回の任務も見事だったそうじゃないか!」
 あちこちからかかる声に、アリアは軽く手を上げて応えている。彼女がこの店で鎧を脱ぎ、一人の女性としてくつろぐ時間は、騎士団の部下たちにとっても、見慣れた光景となっていた。
 俺は、彼女のために、特別な一皿を用意する。
 それは、五年前、俺たちが初めて出会った日に出した、あの料理。
「お待たせしました。『鶏の黄金揚げ』です」
 湯気の立つ揚げたてのそれを、彼女の前に置く。香ばしい匂いが、ふわりとアリアの鼻をくすぐった。
「……ああ、この味だ」
 彼女は、熱いのを承知で一つ頬張り、幸せそうに目を閉じた。
「これが食べたかったんだ。任務中、ずっとこの味を思い出していた」
「気に入ってもらえて光栄です、団長殿」
「よせ、リョウ。ここでは、ただのアリアだ」
 彼女はそう言って、優しく微笑む。その笑顔は、五年前、初めて見た時と少しも変わらない。いや、歳月を重ねた分だけ、より深く、温かいものになっている。
 俺は彼女の隣に腰を下ろし、自分用のエールを一口飲んだ。
「どうでした、今回の任務は」
「ああ、少し厄介だったが、問題ない。部下たちが優秀で助かったよ」
 彼女は、黄金揚げをつまみながら、ぽつりぽつりと任務の話をしてくれる。俺は、ただそれを聞く。昔と何も変わらない、俺たちだけの時間。
 激務の合間に、彼女が羽を休める場所。陽だまりの中で、心から安らげる時間。それを提供し続けることが、俺の役目であり、俺の幸せだった。
「……リョウ」
「はい?」
「ありがとう。いつも、こうして待っていてくれて」
「当たり前じゃないですか。ここが、あなたの帰る場所なんですから」
 俺たちは、顔を見合わせて笑った。
 異世界に転生して始まった、俺の二度目の人生。
 それは、決して平坦な道ではなかったけれど、最高の仲間と、最高の伴侶に恵まれた。
 温かい料理と、たくさんの笑顔。
「おかえり」と「ただいま」が響き合う、この『陽だまりの酒場』。
 俺の幸せは、これからもずっと、この場所にある。
 さあ、明日も、最高の料理で、みんなを笑顔にしてやろう。
 俺は、エールグラスをそっと掲げ、窓の外に広がる王都の夜景に、静かに乾杯した。
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