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第7話「復活の大河とマヨネーズ外交」
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俺とシオンは、乾ききった『嘆きの川』の川底に立っていた。
見渡す限り、ひび割れた大地が続いている。かつてここを水が流れていたとは信じがたい光景だ。空気は淀み、時折吹く風は不気味な呻き声のように聞こえる。イザベラの言う通り、強力な魔物が巣食っている気配が濃厚だった。
「蓮、来るぞ!」
シオンの鋭い声と同時に、前方の地面が盛り上がり、巨大なサソリのような魔物が姿を現した。デスストーカー。その巨大なハサミと、猛毒を持つ尻尾の一撃は、並の冒険者なら即死レベルの威力を持つ。
だが、今の俺たちにとっては脅威ではなかった。
「はあっ!」
シオンが風のように駆け抜け、その白刃が一閃する。デスストーカーの硬い甲殻が、まるで紙のように切り裂かれた。俺もクワを振るい、後から現れた魔物たちの足元の地面を黒土に変える。足場を失い、バランスを崩した魔物たちは、もはやシオンの敵ではなかった。
「よし、今のうちだ!」
俺は川底の中心に立ち、ガイアの聖クワを大地深く突き立てた。そして、全身の魔力をクワに集中させる。
「うおおおおっ!」
クワから放たれた眩い光が、大地を脈打つように広がっていく。俺の足元から、ひび割れた地面が潤いを取り戻し、黒々とした土へと変わっていくのが見えた。浄化の光は川底をどこまでも走り、淀んだ空気を吹き払い、生命の息吹を呼び覚ましていく。
すると、奇跡が起きた。
ゴゴゴゴゴ……という地響きと共に、川の上流、枯れたはずの水源から勢いよく水が湧き出し始めたのだ。水は瞬く間に濁流となり、浄化された川底を滑るようにこちらへ向かってくる。俺たちが切り開いた生命の道を、祝福するかのように。
「すごい……本当に、川が生き返った……」
シオンが呆然とつぶやく。あっという間に、俺たちの足元を清らかな水が流れ始め、乾いた川は百年の眠りから覚めたかのように、雄大な大河としての姿を取り戻した。
***
アルカディアに戻ると、イザベラたちが歓喜の声で俺たちを迎えてくれた。新たな交易路『アルカディア運河』の誕生だ。早速、丸太を組んで作った簡易的ないかだに交易品を積み込んで港町を目指した。
港町ゼノンは、ゴルディオン商会の影響力が比較的弱い、自由な気風の商業都市だ。俺たちの持ち込んだ商品、特に醤油や味噌、そして今回新たに開発した『マヨネーズ』は、ここでも爆発的な人気を博した。
卵と油、酢を原料とするこの奇跡のソースは、温野菜やパンにつけるだけで、どんな料理もごちそうに変えてしまう。ゼノンの商人たちは、この未知の調味料の独占販売権を得ようと、我先にイザベラのもとへ押し寄せた。
数日後、俺たちの成功を知ったゴルディオン商会の支店長が、血相を変えてイザベラの元へ乗り込んできた。
「お前たち! 我々の警告を無視するとは、どういうつもりだ!」
怒鳴り散らす支店長に対し、イザベラは優雅に微笑みながら紅茶を一口すすった。
「あら、これはゴルディオン商会のベイルート様。何か、私たちにご用でしょうか?」
「とぼけるな! お前たちのせいで、我が商会の売り上げがどれだけ落ちたと思っている!」
「それは市場原理というものですわ。より良い品が、より多くの人々に求められる。当然のことです」
イザベラの落ち着き払った態度に、ベイルートは顔を真っ赤にして震えている。イザベラは、ここでとどめの一手を打った。
「ところでベイルート様。この『マヨネーズ』、お味見なさいました? これを使った料理のレシピも、私たちはいくつか開発しておりまして。もし、ゴルディオン商会様が我々と『友好的な』関係を築いてくださるのでしたら、優先的にその権利をお譲りすることもやぶさかではありませんのよ?」
それは、交渉のテーブルにつけという、明確な最後通告だった。ベイルートはしばらく葛藤していたが、マヨネーズがもたらすであろう莫大な利益を計算し、そして何より、自分たちの知らないルートで自由に交易を行うアルカディアを、もはや力で抑えつけることは不可能だと悟ったのだろう。
「……わかった。取引しよう。我々の負けだ」
彼は絞り出すような声でそう言うと、がっくりと肩を落とした。
こうして、俺たちはゴルディオン商会からの圧力を、武力ではなく経済の力で跳ね除けることに成功した。それどころか、商会をアルカディアの最大の取引先とすることで、より強固な経済基盤を築き上げたのだ。
この一件は、『マヨネーズ外交』として、後に歴史の教科書に載ることになる。
アルカディアは、その豊かさと独自性で、否応なく世界から注目される存在となっていた。それは、平穏なスローライフを望んでいた俺にとって、少しばかり複雑な事態ではあったが、仲間たちとこの理想郷を守るためなら、どんな困難にも立ち向かう覚悟はできていた。
見渡す限り、ひび割れた大地が続いている。かつてここを水が流れていたとは信じがたい光景だ。空気は淀み、時折吹く風は不気味な呻き声のように聞こえる。イザベラの言う通り、強力な魔物が巣食っている気配が濃厚だった。
「蓮、来るぞ!」
シオンの鋭い声と同時に、前方の地面が盛り上がり、巨大なサソリのような魔物が姿を現した。デスストーカー。その巨大なハサミと、猛毒を持つ尻尾の一撃は、並の冒険者なら即死レベルの威力を持つ。
だが、今の俺たちにとっては脅威ではなかった。
「はあっ!」
シオンが風のように駆け抜け、その白刃が一閃する。デスストーカーの硬い甲殻が、まるで紙のように切り裂かれた。俺もクワを振るい、後から現れた魔物たちの足元の地面を黒土に変える。足場を失い、バランスを崩した魔物たちは、もはやシオンの敵ではなかった。
「よし、今のうちだ!」
俺は川底の中心に立ち、ガイアの聖クワを大地深く突き立てた。そして、全身の魔力をクワに集中させる。
「うおおおおっ!」
クワから放たれた眩い光が、大地を脈打つように広がっていく。俺の足元から、ひび割れた地面が潤いを取り戻し、黒々とした土へと変わっていくのが見えた。浄化の光は川底をどこまでも走り、淀んだ空気を吹き払い、生命の息吹を呼び覚ましていく。
すると、奇跡が起きた。
ゴゴゴゴゴ……という地響きと共に、川の上流、枯れたはずの水源から勢いよく水が湧き出し始めたのだ。水は瞬く間に濁流となり、浄化された川底を滑るようにこちらへ向かってくる。俺たちが切り開いた生命の道を、祝福するかのように。
「すごい……本当に、川が生き返った……」
シオンが呆然とつぶやく。あっという間に、俺たちの足元を清らかな水が流れ始め、乾いた川は百年の眠りから覚めたかのように、雄大な大河としての姿を取り戻した。
***
アルカディアに戻ると、イザベラたちが歓喜の声で俺たちを迎えてくれた。新たな交易路『アルカディア運河』の誕生だ。早速、丸太を組んで作った簡易的ないかだに交易品を積み込んで港町を目指した。
港町ゼノンは、ゴルディオン商会の影響力が比較的弱い、自由な気風の商業都市だ。俺たちの持ち込んだ商品、特に醤油や味噌、そして今回新たに開発した『マヨネーズ』は、ここでも爆発的な人気を博した。
卵と油、酢を原料とするこの奇跡のソースは、温野菜やパンにつけるだけで、どんな料理もごちそうに変えてしまう。ゼノンの商人たちは、この未知の調味料の独占販売権を得ようと、我先にイザベラのもとへ押し寄せた。
数日後、俺たちの成功を知ったゴルディオン商会の支店長が、血相を変えてイザベラの元へ乗り込んできた。
「お前たち! 我々の警告を無視するとは、どういうつもりだ!」
怒鳴り散らす支店長に対し、イザベラは優雅に微笑みながら紅茶を一口すすった。
「あら、これはゴルディオン商会のベイルート様。何か、私たちにご用でしょうか?」
「とぼけるな! お前たちのせいで、我が商会の売り上げがどれだけ落ちたと思っている!」
「それは市場原理というものですわ。より良い品が、より多くの人々に求められる。当然のことです」
イザベラの落ち着き払った態度に、ベイルートは顔を真っ赤にして震えている。イザベラは、ここでとどめの一手を打った。
「ところでベイルート様。この『マヨネーズ』、お味見なさいました? これを使った料理のレシピも、私たちはいくつか開発しておりまして。もし、ゴルディオン商会様が我々と『友好的な』関係を築いてくださるのでしたら、優先的にその権利をお譲りすることもやぶさかではありませんのよ?」
それは、交渉のテーブルにつけという、明確な最後通告だった。ベイルートはしばらく葛藤していたが、マヨネーズがもたらすであろう莫大な利益を計算し、そして何より、自分たちの知らないルートで自由に交易を行うアルカディアを、もはや力で抑えつけることは不可能だと悟ったのだろう。
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