神具のクワで異世界開拓!〜過労死SE、呪われた荒野を極上農園に変えてエルフや獣人と美味しいスローライフ〜

黒崎隼人

文字の大きさ
12 / 15

第11話「食卓の上の停戦協定」

しおりを挟む
 魔王軍の陣地は、アルカディアから北へ半日ほど進んだ平原に築かれていた。
 黒々とした巨大な天幕が立ち並び、無数の魔族の兵士たちが行き交っている。その光景は、まさしく地獄の軍団といった様相で、凄まじい威圧感を放っていた。
 俺たちの乗る荷馬車が陣地に近づくと、すぐに屈強なオークの兵士たちに囲まれた。

「何者だ! ここは魔王様の軍営だぞ!」

「アルカディアからの使者だ。貴軍の将軍、ヴォルガ殿に面会を申し入れたい」

 俺が冷静に告げると、兵士たちは顔を見合わせた。たった三人で、しかも非武装でやってきた俺たちが、彼らには奇異に映ったのだろう。やがて、一人の兵士が将軍の天幕へと走っていった。
 しばらくして、天幕から大柄な魔族が姿を現した。牛のような二本の角、鋼のような肉体。彼こそが、魔王軍先遣隊を率いる猛将、ヴォルガ将軍だった。

「ほう、お前があの都市の主か。降伏の使者にしては、ずいぶんと悠長なものだな」

 ヴォルガは、地響きのような声で言った。その瞳は、俺たちの価値を値踏みするように鋭く光っている。

「降伏しに来たのではありません。交渉に来たのです」

 俺は、荷馬車の積み荷を覆っていた布を外した。そこには、湯気の立つ巨大な鍋と、山と積まれた焼きたてのパンがあった。鍋の中身は、豚肉と野菜をふんだんに使った具沢山のシチューだ。食欲をそそる香りが、冷たい北風に乗ってあたりに広がる。
 周囲の兵士たちが、ごくりと喉を鳴らすのが聞こえた。彼らの顔には、隠しようのない疲労と空腹の色が浮かんでいる。やはり、俺の読みは当たっていた。

「……面白い。その度胸、気に入った。何が望みだ、言ってみろ」

 ヴォルガは、腕を組んで言った。

「我々は、貴軍に食料を提供します。温かい食事はもちろん、長期の遠征に耐えうる、栄養価の高い保存食も用意しましょう。その代わり、アルカディアへの不可侵を約束していただきたい。そして、我々の都市を、中立の交易地として認めていただきたいのです」

 俺の提案に、ヴォルガは腹を抱えて笑い出した。

「ククク……ハッハッハ! 食料で、我が魔王軍を買収しようというのか! 小僧、面白い冗談を言う!」

「冗談ではありません。これは、双方にとって利益のある取引のはずです。貴軍は安定した食料供給路を確保でき、我々は平和を守ることができる。戦わずして目的を達することができるなら、それに越したことはないでしょう?」

 俺は、熱々のシチューとパンを器によそい、ヴォルガに差し出した。

「まずは、お召し上がりください。話はそれからでも遅くはないはずです」

 ヴォルガは、嘲るような笑みを浮かべながらも、俺から器を受け取った。そして、スプーンでシチューをすくい、無造作に口へと運んだ。
 その瞬間、彼の動きが、ぴたりと止まった。
 見開かれた赤い瞳が、信じられないといったように器の中を見つめている。ゴクリと、一度大きく喉が動いた。そして、次の瞬間には、先ほどまでの威厳も忘れ、獣のように夢中でシチューをかき込み始めた。

「う、うまい……! なんだこれは!? 野菜の甘みと肉の旨味が溶け合って……身体の芯から力がみなぎってくるようだ……!」

 あっという間に一杯を平らげた彼は、少し気まずそうにしながらも、俺におかわりの器を差し出した。
 その様子を見ていた周りの兵士たちも、もはや我慢の限界だった。俺は、ルナミリアとイザベラに目配せし、兵士たちにも食事を振る舞うよう指示した。
 陣地は、さながら炊き出し会場のようになった。武器を置き、パンを片手にシチューをすする魔族たち。その顔に、先ほどまでの険しさはない。誰もが、ただ空腹を満たすことに夢中になっていた。その光景は、どこか滑稽で、そして何よりも平和だった。
 食事の後、俺はヴォルガに、試作の栄養バーを渡した。

「これは、我々が開発した携帯食です。これ一つで、一日の活動エネルギーが補給できます。味は保証しませんが、栄養価と保存性だけは、世界一だと自負しています」

 ヴォルガは、半信半疑でそれを一口かじり、そして再び目を見開いた。

「……確かに、うまくはない。だが、これだけの栄養が、この小さな塊に詰まっているというのか……。これさえあれば、我が軍の補給問題は、完全に解決する……」

 彼は、しばらく腕を組んで考え込んでいた。そして、やがて顔を上げると、俺に向かって深々と頭を下げたのだ。

「……完敗だ、人間の小僧。いや、アルカディアの農園主殿。あなたの言う通り、我々は食糧不足に喘いでいた。このままでは、戦う前に飢えで自滅するところだった」

 彼は、決然とした表情で言った。

「いいだろう。あなたの提案を受け入れよう。このヴォルガの名において、アルカディアへの不可侵を約束する。また、中立交易都市としての地位を認め、我が魔王様にもその旨を進言しよう。その代わり、安定した食料供給を、頼めるか?」

「もちろんです。最高の食材を、約束します」

 俺たちは、固い握手を交わした。

 ***

 こうして、後に『食卓の上の停戦協定』と呼ばれる歴史的な合意がなされた。俺たちは、一滴の血も流すことなく、最大の危機を乗り越えたのだ。
 アルカディアは、人族と魔族の緩衝地帯として、そして世界で唯一の中立交易都市として、新たな一歩を踏み出すことになった。それは、俺が夢見た、全ての種族が手を取り合える理想郷の、確かな実現へと繋がる道だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。 これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

過労死した俺、異世界で最強農業チートに目覚める。神農具で荒野を楽園に変えたら、エルフや獣人が集まって最高の国ができました

黒崎隼人
ファンタジー
「君、死んじゃったから、異世界で国、作らない?」 ブラック企業で過労死した俺、相川大地。 女神様から授かったのは、一振りで大地を耕し、一瞬で作物を育てる**最強の『神農具』**だった!? 右も左もわからない荒野でのサバイバル。 だけど、腹ペコのエルフ美少女を助け、頼れるドワーフ、元気な猫耳娘、モフモフ神狼が仲間になって、開拓生活は一気に賑やかに! 美味しいご飯とチート農具で、荒野はあっという間に**「奇跡の村」**へ。 これは、ただの農民志望だった俺が、最高の仲間たちと世界を救い、種族の壁を越えた理想の国『アグリトピア』を築き上げる物語。 農業は、世界を救う! さあ、今日も元気に、畑、耕しますか!

追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。 絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」! 畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。 はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。 これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!

死んだ土を最強の畑に変える「土壌神の恵み」〜元農家、異世界の食糧難を救い、やがて伝説の開拓領主になる〜

黒崎隼人
ファンタジー
土を愛し、土に愛された男、アロン。 日本の農家として過労死した彼は、不作と飢饉に喘ぐ異世界の貧しい村の少年として転生する。 そこは、栄養を失い、死に絶えた土が広がる絶望の土地だった。 だが、アロンには前世の知識と、土の状態を見抜き活性化させる異能『土壌神の恵み』があった! 「この死んだ土地を、世界で一番豊かな畑に変えてみせる」 一本のスコップと規格外の農業スキルで、アロンは大地を蘇らせていく。 生み出されるのは、異世界人がかつて味わったことのない絶品野菜と料理の数々。 飢えた村人を救い、病弱な公爵令嬢を元気にし、やがてその評判は国をも動かすことに――。 食で人々を繋ぎ、戦わずして国を救う。 最強の農家による、痛快異世界農業ファンタジー、ここに開幕!

スキル『農業』はゴミだと追放されたが、実は植物の遺伝子を書き換える神スキル【神農】でした。荒野を楽園に変えて異世界万博を開催します!

黒崎隼人
ファンタジー
「そのスキル『農業』?剣も魔法も使えないクズはいらん、失せろ!」 勇者召喚に巻き込まれて異世界へ転生した植物オタクの青年カイルは、地味なスキルを理由に王都を追放され、死の荒野へと捨てられた。 しかし、誰も知らなかったのだ。 彼のスキルが、ただの農業ではなく、植物の遺伝子さえ書き換え、不毛の大地を瞬く間に聖域に変える神の力【神農】であることを。 荒野を一瞬で緑豊かな楽園に変えたカイルは、伝説の魔獣フェンリルを餌付けして相棒にし、傷ついた亡国の美姫ソフィアを助け出し、自由気ままなスローライフを開始する。 やがて彼が育てた作物は「エリクサーより効く」と評判になり、その噂を聞きつけた商人によって、彼の領地で世界規模の祭典――『異世界万博』が開催されることに!? 一方、カイルを追放した王国は深刻な食糧難に陥り、没落の一途をたどっていた。 「今さら戻れと言われても、この野菜は全部、俺とソフィアのとフェンのものですから」 最強の農民が送る、世界を揺るがす大逆転・万博ファンタジー、ここに開幕!

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

追放悪役令嬢、辺境の荒れ地を楽園に!元夫の求婚?ざまぁ、今更遅いです!

黒崎隼人
ファンタジー
皇太子カイルから「政治的理由」で離婚を宣告され、辺境へ追放された悪役令嬢レイナ。しかし彼女は、前世の農業知識と、偶然出会った神獣フェンリルの力を得て、荒れ地を豊かな楽園へと変えていく。 そんな彼女の元に現れたのは、離婚したはずの元夫。「離婚は君を守るためだった」と告白し、復縁を迫るカイルだが、レイナの答えは「ノー」。 「離婚したからこそ、本当の幸せが見つかった」 これは、悪女のレッテルを貼られた令嬢が、自らの手で未来を切り拓き、元夫と「夫婦ではない」最高のパートナーシップを築く、成り上がりと新しい絆の物語。

処理中です...