無限在庫チートで異世界を買い占める〜窓際おじさんが廃棄予定のカップ麺で廃村エルフと腹ペコ魔王を救済したら最強商会ができました〜

黒崎隼人

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第13話「異世界商会の誕生と満天の星空の下の宴」

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 領主の屋敷から戻ったタケシが広場に足を踏み入れると、すでにそこは尋常ではない熱気に包まれていた。赤紫色の太陽が西の森の奥へと沈みかけ、空を鮮やかなオレンジと深い藍色のグラデーションに染め上げている。昼間の焼け付くような熱気は引いていき、代わりに夜のひんやりとした風が頬を撫でていく心地よい時間帯だった。

 タケシは作業着の袖をまくり直し、広場の中央に積み上げられた大量の段ボール箱の前に立った。周囲には、エルフの村人たち、漆黒の鎧を脱いで身軽になった魔王軍の兵士たち、そしてタケシ商会の噂を聞きつけて街から手伝いにやってきた人間の職人や商人たちが、期待に満ちた目を向けて囲んでいる。かつては互いに憎しみ合い、恐怖し合っていた種族同士が、今や一つの目的のために肩を並べている光景は、何度見ても不思議な感慨をタケシの胸に呼び起こした。

「さあ、みんな聞いてくれ。今日はタケシ商会がこの街の流通を正式に引き継いだ記念すべき日だ。俺たちの倉庫には、まだ誰も味わったことのない最高のごちそうが山のように眠っている。今夜は腹が破れるまで食って、飲んで、新しい門出を祝おうじゃないか」

 タケシが声を張り上げると、広場を揺るがすような大歓声が沸き起こった。タケシは頭の中で「無限在庫処分」のシステムにアクセスし、本日の主役となる物資を次々と引き出していく。

 空間が微かに歪み、ドドンという重い音とともに現れたのは、地球の高級焼肉チェーン店が過剰仕入れによって手放した、極厚の牛タン、霜降りのカルビ、そしてタレに漬け込まれた巨大なハラミ肉の真空パックの山だった。さらに、アウトドア用の巨大なバーベキューコンロが十数台、大量の木炭、そして極めつけに、イベントが中止になって行き場を失っていた業務用の生ビールサーバーと銀色の樽がいくつも出現した。

「火をおこせ。肉を焼く準備だ」

 タケシの合図とともに、魔族の兵士たちが驚異的な肺活量で炭火に息を吹きかけ、あっという間に真っ赤な炎を立ち上がらせた。エルフたちは真空パックをハサミで切り開き、見事なサシの入った肉を大皿に盛り付けていく。

 熱された鉄板の上に、分厚い牛脂が引かれる。ジューッという激しい音とともに、甘く暴力的な脂の匂いが爆発的に広がり、広場にいる全員の鼻腔を直撃した。そこに霜降りカルビが並べられると、肉の表面がチリチリと焼け焦げ、醤油とニンニクの効いた特製ダレが焦げる香ばしい煙が夜空へと立ち昇っていく。

「うおおおおっ。なんだこの匂いは。鼻から脳みそがとろけそうだ」

「おい、早く焼いてくれ。涎が止まらねえ」

 魔族のオークたちや街の商人たちが、完全に理性を失ったような目で焼き網を囲んでいる。タケシは笑顔で彼らを制しながら、生ビールサーバーのレバーを手前に倒した。透明なプラスチックのカップに、黄金色の液体と真っ白でクリーミーな泡が七対三の完璧な比率で注がれていく。

「まずは乾杯だ。お前たち、ジョッキを持て」

 タケシの掛け声で、全員が冷えたビールや炭酸ジュースのカップを高く掲げた。

「タケシ商会と、この素晴らしい世界に。乾杯」

 何百ものカップが勢いよくぶつかり合い、広場全体に乾杯という大音響が響き渡った。種族を越えた無数の声が一つに重なり、夜空へと立ち昇っていく。

 タケシも自分のカップに口をつけ、キンキンに冷えたビールを一気に喉の奥へ流し込んだ。強烈な炭酸の刺激と、麦の深い苦味が、乾ききった食道を通過していく感覚。一日の疲労が泡となって弾け飛ぶような、最高の一口だった。

 周囲からは、初めてビールを飲んだ魔族や人間たちが、むせ返りながらもその爽快感に目を見開いている声が聞こえる。そして、焼き上がったばかりのカルビがそれぞれの口に運ばれると、広場は一瞬の静寂の後、爆発的な歓喜の渦に包まれた。

「肉が……肉が口の中で溶けたぞ」

「噛まなくても甘い脂があふれてくる。なんだこの食べ物は、魔法の薬か」

 誰も彼もが顔を脂だらけにし、夢中で肉を頬張っている。エルフの村の長老が、人間の商人と肩を組んでジョッキを掲げ、オークの戦士がエルフの子供に焼き上がったソーセージを不器用な手つきで取り分けている。タケシが提供した地球の廃棄予定品が、種族の壁を完全に溶かし去っていた。

 タケシは喧騒から少し離れた場所に折りたたみのチェアを置き、静かにその光景を見渡していた。手の中のビールカップからは、冷たい水滴がぽたぽたと地面に落ちている。

 ほんの数ヶ月前まで、自分は窓のない薄暗い倉庫で、誰の役にも立たない在庫の数字をただ数えるだけの男だった。上司からは疎まれ、同僚からは憐れまれるだけの、空っぽの人生。それが今、この見知らぬ世界で、自分の知識とゴミとされていた物資が、これほど多くの命を繋ぎ、笑顔を生み出している。胸の奥に、じわりと熱いものがこみ上げてくるのを、タケシはビールで流し込んだ。

「タケシ、一人で何を感傷に浸っているのだ。主役が隅で縮こまっていては面白くないぞ」

 背後から快活な声が響き、豪奢なドレスの裾を揺らしながら魔王ルビアが歩み寄ってきた。彼女の両手には、それぞれ巨大な肉の串焼きと、ジョッキになみなみと注がれたビールが握られている。ルビアはタケシの隣の空いたチェアにどっかと腰を下ろし、ビールを豪快に煽った。

「ぷはぁっ。このビイルという黄金の水、たまらんな。苦いのにいくらでも飲めてしまう。我が軍の兵士たちも、すっかり腑抜けになっているぞ」

 ルビアの顔はすでに赤く染まり、上機嫌そのものだった。彼女の赤い瞳には、かつて見せていたような王としての重圧や飢えへの恐怖は微塵もない。ただ、仲間たちと満腹になる喜びを心から味わっている十代の少女の顔があった。

「腑抜けになられては困るな。明日からは街と魔王領を結ぶ流通の護衛業務が本格的に始まるんだ。二日酔いで使い物にならないなんてのは勘弁してくれよ」

 タケシが冗談めかして言うと、ルビアは鼻で笑って肉に齧り付いた。

「ふん、誰に口を利いている。我が軍は物流の要として、どんな野盗や魔獣からも貴様の荷物を守り抜いてみせる。それに」

 ルビアは言葉を切ると、少しだけ真面目な顔になり、声のトーンを落とした。

「タケシ。貴様が来てくれたおかげで、私の民はもう飢えずに済む。誇りを持って働くことができる。魔王として、いや、ルビアとして……感謝する」

 ルビアが恥ずかしそうに視線をそらすと、今度は反対側から温かい気配が近づいてきた。

「タケシさん、ルビアちゃん。お肉ばかりじゃなくて、野菜も食べてくださいね」

 リリアが、トマトやきゅうりの新鮮なサラダが盛られた皿を持って現れた。彼女はタケシの足元の空き箱の上にそっと座り、優しい微笑みを浮かべた。その銀色の髪は夜の闇の中で微かに光を帯び、透き通るような青い瞳には、タケシへの深い信頼と親愛の情が溢れている。

「ありがとう、リリア。君がいなければ、俺は最初の日に森の中で途方に暮れて終わっていただろう。君が俺を信じてくれたから、ここまで来られたんだ」

 タケシの言葉に、リリアは頬を少し赤く染め、ふるふると首を振った。

「違います。タケシさんが、死にかけていた私を助けてくれたんです。村のみんなを救ってくれて、こんなに素敵で温かい居場所を作ってくれた。私にとって、タケシさんは」

 リリアは言い淀み、膝の上のスカートをぎゅっと握りしめた。タケシは彼女の頭にそっと手を置き、その柔らかい銀髪を優しく撫でた。リリアは目を細め、子猫のようにタケシの掌にすり寄る。

「おいおい、私を差し置いて二人でいい雰囲気になるな。今日は宴だぞ。ほら、タケシ、もっと飲め」

 ルビアが豪快に笑いながら、自分のジョッキをタケシのカップにガチンとぶつけてきた。三人の間に、絶え間ない笑い声が弾ける。

 タケシは夜空を見上げた。異世界特有の二つの月が明るく輝き、数え切れないほどの星々が広場の喧騒を見下ろしている。炭火のパチパチという音、肉の焦げる匂い、夜風の冷たさ、そして隣で笑う二人の少女の体温。

 それらすべてが、タケシの心に確かな重みを持って刻み込まれていく。彼はもう、元の世界に戻りたいとは微塵も思わなかった。ここは彼が自らの手で築き上げた商圏であり、かけがえのない大切な人たちがいる、たった一つの居場所なのだから。

 夜はまだ始まったばかりだ。タケシは立ち上がり、空になったカップを持って再びビールの樽へと向かった。彼の顔には、異世界最強の商人としての自信と、これからの未来への希望に満ちた、穏やかな微笑みが浮かんでいた。
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