異世界おせちの革命〜地味スキル『調理魔法』で、貧乏な辺境の村を美食の都に変えてみせます〜

黒崎隼人

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第11話「料理人の戦い方」

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 勝利に沸く村人たち。
 その中心で、腰を抜かしたバルザック男爵は、情けない姿を晒していた。
 騎士たちは、油まみれ、唐辛子まみれ、水飴まみれで、地面に転がっている。なんとも滑稽な光景だった。

「どうする、カナタ。こいつらを縛り上げて、城に送り返すか?」

 ギードさんが、僕に尋ねる。
 村人たちの手前、男爵をどう処分するかは大きな問題だった。このまま解放すれば、後でどんな報復をされるか分からない。

 僕が答えに窮していると、村の外から、新たな馬車の音が聞こえてきた。
 今度は、黒塗りなんかじゃない。白地に金色の紋章が入った、いかにも高貴な馬車だ。

『まずい、男爵の増援か……?』

 村に、再び緊張が走る。
 だが、馬車から降りてきた人物を見て、僕たちは目を疑った。
 その人物は、以前村を訪れた行商人、マルコだった。そして、マルコに連れられて降りてきたのは、威厳のある佇まいの、壮年の紳士だった。

「マルコさん!どうしてここに?」

 僕が尋ねると、マルコはにやりと笑った。

「いやあ、間に合ってよかった!カナタさん、バルザック男爵が村に向かったと聞いて、急いでこの方をお連れしたんですよ」

 マルコが紹介した紳士は、僕たちの前で厳かに名乗った。

「私は、王国監査官のレオンハルトと申す。バルザック男爵の統治について、かねてより調査を進めていた者だ」

 王国監査官。それは、王直属の役人であり、貴族の不正を監視する絶大な権力を持つ役職だ。

「か、監査官様!?なぜ、このような場所に……」

 バルザック男爵の顔が、青から白へと変わっていく。

 レオンハルト監査官は、男爵を冷たい目で見下ろした。

「バルザック男爵。貴様が領民に重税を課し、私腹を肥やしているという報告は、数多く私の元に届いている。そして今日、村の技術者を私物化しようと、軍を率いて村を襲撃した。その現場、しかと見させてもらったぞ」

 監査官の言葉は、まるで鋭い刃のようだった。
 実は、マルコが僕たちの村の特産品を街で売る中で、バルザック男爵の悪評を耳にしていたらしい。そして、男爵が僕に目をつけていると知り、危険を察知して、かねてより懇意にしていた監査官に密告してくれていたのだ。

 今日の襲撃も、マルコが事前に情報を掴み、監査官をこのタイミングで村へ案内してくれたというわけだった。

「そ、それは、誤解であります!私は、この村の治安維持のために……」

「言い訳は法廷で聞こう。者ども、バルザック男爵、並びにそこにいる騎士たちを全員拘束しろ!」

 監査官の号令で、彼の護衛たちが手際よく男爵たちを捕縛していく。
 油と水飴で動けない騎士たちは、何の抵抗もできなかった。

「おのれ……おのれぇ……!小僧!覚えていろ!」

 連行されながら、バルザック男爵が僕に向かって呪いの言葉を吐く。
 だけど、その声にはもう、何の力もなかった。

 僕の戦い方は、料理の知識を応用した、非暴力的なものだった。
 でも、そのおかげで、僕たちは誰一人傷つくことなく、そして領主の悪事を白日の下に晒すための「時間」を稼ぐことができた。
 そして、マルコさんのように、外の世界と繋がっていたことが、僕たちを救ってくれた。

 これは、僕一人じゃなく、村のみんなと、そして村の外の仲間との、連携勝利だったんだ。

 騒ぎが収まった後、レオンハルト監査官は、僕に深く頭を下げた。

「君がカナタ君か。見事な機転だった。君と、この村の勇敢な人々のおかげで、長年の悪を断ち切ることができた。心から感謝する」

「いえ、僕たちは、自分たちの暮らしを守りたかっただけです」

 僕がそう言うと、監査官は穏やかに微笑んだ。

「その『だけ』が、最も尊いことなのだよ」

 彼は、このミストラル村が、今後王家の直轄地として手厚い保護を受けることになるだろうと約束してくれた。もう、理不尽な領主に怯える必要はないんだ。

「おお……!」
「やったぞ!」

 その言葉に、村中がこの日一番の歓声に包まれた。
 空は、いつの間にか晴れ渡り、冬の厳しい日差しが、僕たちの村を明るく照らしていた。
 それは、ミストラル村の、新しい時代の幕開けを告げる光のようだった。
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