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第12話「運命の香水と永遠の誓い」
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エリオットとリリィの正式な婚約が発表されると、王都は祝福ムードに包まれた。
「鉄仮面公爵」を長年の呪いから救い、その心を射止めた「香りの令嬢」。二人の物語は、瞬く間に吟遊詩人たちの歌となり、国中に広まっていった。
結婚式の準備は、着々と進められた。リリィは、王都一のドレス職人が仕立てた、純白のウェディングドレスに身を包むことになった。
そして、彼女には、結婚式で成し遂げたい、もう一つの大切な使命があった。
それは、二人のための「運命の香水」を、自分の手で作り上げること。
リリィは、工房にこもり、香水の調合を始めた。
ベースとなるのは、もちろん、エリオットから香る「陽だまりと古書のインクの香り」。サンダルウッドとシダーウッドで彼の知的な雰囲気を、ベルガモットとネロリで陽だまりのような温かさを表現する。
そこに、リリィ自身の香り――彼女が好きな、スズランやジャスミンの、清らかで優しい白い花の香りを重ねていく。
彼の香りと、彼女の香り。二つが合わさることで、一つの完璧なハーモニーを奏でる。そんな香水を目指した。
何日も試行錯誤を繰り返し、結婚式の前日、ついにその香水は完成した。
リリィは、完成した香水を小さなクリスタルの瓶に詰め、そっと胸に抱いた。
(これで、私たちは、いつでもお互いの存在を感じられる)
それは、二人を結ぶ、愛の証そのものだった。
***
そして、結婚式当日。
王都の大聖堂は、数えきれないほどの白い花で埋め尽くされ、荘厳なパイプオルガンの音色が響き渡っていた。
純白のドレスをまとったリリィは、父親の代わりに初老の執事が付き添い、ゆっくりとバージンロードを歩む。その先には、純白の礼服に身を包んだエリオットが、緊張した面持ちで待っていた。
彼の側に立つと、エリオットはリリィにだけ聞こえる声で、ささやいた。
「……きれいだ、リリィ。世界中のどんな花よりも」
その言葉に、リリィは頬を染めた。
誓いの言葉。指輪の交換。厳かな儀式は、滞りなく進んでいく。
そして、誓いのキスの前。
リリィは、隠し持っていた香水瓶を取り出し、エリオットの手首に、そっと一滴、香りをつけた。そして、自分自身の耳の後ろにも。
ふわりと、二人の香りが溶け合った、優しくも気品のある香りが、聖堂の空気に広がる。
エリオットは、その香りに驚いたように目を見開いたが、すぐに優しい笑顔になった。
「……君には、敵わないな」
そして、彼はリリィのベールをそっと持ち上げ、その唇に、永遠の愛を誓う口づけを落とした。
聖堂は、割れんばかりの拍手と祝福の声に包まれた。
***
披露宴は、クロフォード公爵邸の広大な庭園で、盛大に行われた。
多くの貴族たちが、二人の門出を祝いに訪れた。かつてリリィを侮辱したセシリア・マーガレット令嬢も、今ではすっかり改心した様子で、心からのお祝いの言葉を述べてくれた。
幸せな時間は、あっという間に過ぎていく。
***
夜になり、披露宴がお開きになると、エリオットはリリィを連れて、バルコニーに出た。
夜空には、満月が輝いている。
「疲れただろう?」
「ううん、夢みたいに幸せな一日だったわ」
リリィは、エリオットの肩にこてんと頭を預けた。
「ねえ、エリオット」
「なんだ?」
「あなたは、いつから私のことを……その、好きでいてくれたの?」
少し恥ずかしそうに尋ねるリリィに、エリオットは少し考えるそぶりを見せた後、静かに口を開いた。
「……初めて、君が俺のために香油を作ってくれた夜から、かもしれない」
「えっ、そんなに前から?」
「ああ。俺のために、一生懸命になってくれる君の姿を見て、心が温かくなった。あの時から、君は俺にとって、ただの調香師ではなかったんだ」
その言葉は、リリィにとって、何よりもうれしい贈り物だった。
「私は、あなたに初めて会った時、がっかりしたのよ。運命の香りがしなかったから」
「はは、知っているさ」
エリオットは楽しそうに笑った。
「でも、今はわかる。運命は、最初から決まっているものじゃない。二人で、作り上げていくものなんだって」
リリィは頷くと、彼の胸に顔をうずめた。
彼から香る、陽だまりと古書の香り。
自分から香る、清らかな白い花の香り。
そして、二人が纏う、愛の香水。
三つの香りが溶け合って、夜の空気に優しく広がる。
偽りの契約から始まった恋は、幾多の困難を乗り越え、今、本物の愛へと昇華した。
「リリィ。愛している。永遠に、君だけを」
「私もよ、エリオット。心から、あなたを愛してる」
二人は、月明かりの下で、再び優しく唇を重ねた。
運命の香りに導かれた二人の物語は、最高のハッピーエンドを迎えた。そして、ここから先も、彼らの人生は、愛と幸福の香りに満ち溢れていることだろう。永遠に。
「鉄仮面公爵」を長年の呪いから救い、その心を射止めた「香りの令嬢」。二人の物語は、瞬く間に吟遊詩人たちの歌となり、国中に広まっていった。
結婚式の準備は、着々と進められた。リリィは、王都一のドレス職人が仕立てた、純白のウェディングドレスに身を包むことになった。
そして、彼女には、結婚式で成し遂げたい、もう一つの大切な使命があった。
それは、二人のための「運命の香水」を、自分の手で作り上げること。
リリィは、工房にこもり、香水の調合を始めた。
ベースとなるのは、もちろん、エリオットから香る「陽だまりと古書のインクの香り」。サンダルウッドとシダーウッドで彼の知的な雰囲気を、ベルガモットとネロリで陽だまりのような温かさを表現する。
そこに、リリィ自身の香り――彼女が好きな、スズランやジャスミンの、清らかで優しい白い花の香りを重ねていく。
彼の香りと、彼女の香り。二つが合わさることで、一つの完璧なハーモニーを奏でる。そんな香水を目指した。
何日も試行錯誤を繰り返し、結婚式の前日、ついにその香水は完成した。
リリィは、完成した香水を小さなクリスタルの瓶に詰め、そっと胸に抱いた。
(これで、私たちは、いつでもお互いの存在を感じられる)
それは、二人を結ぶ、愛の証そのものだった。
***
そして、結婚式当日。
王都の大聖堂は、数えきれないほどの白い花で埋め尽くされ、荘厳なパイプオルガンの音色が響き渡っていた。
純白のドレスをまとったリリィは、父親の代わりに初老の執事が付き添い、ゆっくりとバージンロードを歩む。その先には、純白の礼服に身を包んだエリオットが、緊張した面持ちで待っていた。
彼の側に立つと、エリオットはリリィにだけ聞こえる声で、ささやいた。
「……きれいだ、リリィ。世界中のどんな花よりも」
その言葉に、リリィは頬を染めた。
誓いの言葉。指輪の交換。厳かな儀式は、滞りなく進んでいく。
そして、誓いのキスの前。
リリィは、隠し持っていた香水瓶を取り出し、エリオットの手首に、そっと一滴、香りをつけた。そして、自分自身の耳の後ろにも。
ふわりと、二人の香りが溶け合った、優しくも気品のある香りが、聖堂の空気に広がる。
エリオットは、その香りに驚いたように目を見開いたが、すぐに優しい笑顔になった。
「……君には、敵わないな」
そして、彼はリリィのベールをそっと持ち上げ、その唇に、永遠の愛を誓う口づけを落とした。
聖堂は、割れんばかりの拍手と祝福の声に包まれた。
***
披露宴は、クロフォード公爵邸の広大な庭園で、盛大に行われた。
多くの貴族たちが、二人の門出を祝いに訪れた。かつてリリィを侮辱したセシリア・マーガレット令嬢も、今ではすっかり改心した様子で、心からのお祝いの言葉を述べてくれた。
幸せな時間は、あっという間に過ぎていく。
***
夜になり、披露宴がお開きになると、エリオットはリリィを連れて、バルコニーに出た。
夜空には、満月が輝いている。
「疲れただろう?」
「ううん、夢みたいに幸せな一日だったわ」
リリィは、エリオットの肩にこてんと頭を預けた。
「ねえ、エリオット」
「なんだ?」
「あなたは、いつから私のことを……その、好きでいてくれたの?」
少し恥ずかしそうに尋ねるリリィに、エリオットは少し考えるそぶりを見せた後、静かに口を開いた。
「……初めて、君が俺のために香油を作ってくれた夜から、かもしれない」
「えっ、そんなに前から?」
「ああ。俺のために、一生懸命になってくれる君の姿を見て、心が温かくなった。あの時から、君は俺にとって、ただの調香師ではなかったんだ」
その言葉は、リリィにとって、何よりもうれしい贈り物だった。
「私は、あなたに初めて会った時、がっかりしたのよ。運命の香りがしなかったから」
「はは、知っているさ」
エリオットは楽しそうに笑った。
「でも、今はわかる。運命は、最初から決まっているものじゃない。二人で、作り上げていくものなんだって」
リリィは頷くと、彼の胸に顔をうずめた。
彼から香る、陽だまりと古書の香り。
自分から香る、清らかな白い花の香り。
そして、二人が纏う、愛の香水。
三つの香りが溶け合って、夜の空気に優しく広がる。
偽りの契約から始まった恋は、幾多の困難を乗り越え、今、本物の愛へと昇華した。
「リリィ。愛している。永遠に、君だけを」
「私もよ、エリオット。心から、あなたを愛してる」
二人は、月明かりの下で、再び優しく唇を重ねた。
運命の香りに導かれた二人の物語は、最高のハッピーエンドを迎えた。そして、ここから先も、彼らの人生は、愛と幸福の香りに満ち溢れていることだろう。永遠に。
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