婚約破棄&濡れ衣で追放された聖女ですが、辺境で育成スキルの真価を発揮!無骨で不器用な最強騎士様からの溺愛が止まりません!

黒崎隼人

文字の大きさ
14 / 52

第13話「初めてのデートと小さな一歩」

 約束の日、エルナは少しだけお洒落をして、胸を高鳴らせながら待ち合わせ場所の広場へと向かった。
 辺境の村は今や「町」と呼ぶにふさわしい規模にまで発展していた。ドワーフやエルフとの交易で得た富によって新しい店や家が次々と建てられ、通りは多くの人々で賑わっている。
 広場に着くと、そこには既に見慣れた長身の姿があった。ガイオンはいつもの黒銀の鎧ではなく、動きやすい革のジャケットに身を包んでいた。私服姿の彼は騎士団長の威厳はそのままに、どこか親しみやすい雰囲気を醸し出している。
「ガイオン様、お待たせしました」
「いや、俺も今来たところだ」
 エルナの姿を認めたガイオンの目が、わずかに見開かれる。彼女は今日のためにエルフの国から来た美しい織物で作った、淡い緑色のケープを羽織っていた。
「……そのケープ、似合っている」
 ぽつりと呟かれた褒め言葉に、エルナは嬉しさで顔が熱くなるのを感じた。
「ありがとうございます」
 ぎこちない挨拶を交わし、二人は並んで町を歩き始めた。
 それは他の恋人たちがするような、ごく普通のデートだった。ドワーフの職人が開いた武具屋を覗いたり、エルフが売る珍しいハーブの店に立ち寄ったり。エルナが新しい農具を選んでいると、ガイオンが「こっちの方が軽くて君の手に合うだろう」と的確な助言をくれた。
 何をしても、隣に彼がいるというだけで世界が輝いて見えた。
 道端の屋台で焼きたての串焼きを買って、二人で分け合って食べる。ガイオンは無言で、しかし美味しそうにそれを頬張っていた。そんな些細な光景が、エルナの心を温かく満たしていく。
「すごい人ですね。町がこんなに活気に満ちて……」
 雑踏の中で、エルナが感嘆の声を上げる。
「ああ。すべて君がもたらした変化だ」
 ガイオンが穏やかな声で答える。その時、前から来た人波に押され、エルナの体がよろめいた。
「危ない!」
 ガイオンがとっさに彼女の腕を掴み、自分の胸へと引き寄せる。どくん、と彼のたくましい胸板に額が当たり、力強い心臓の鼓動が伝わってきた。
「す、すみません……!」
 慌てて身を離そうとするエルナを、ガイオンは離さなかった。それどころか彼はごく自然な仕草で、エルナの手を握った。
「……このままの方が、はぐれずに済む」
 ぶっきらぼうな口調で彼はそう言った。その耳が真っ赤に染まっているのを、エルナは見逃さなかった。
 繋がれた手は大きくて節くれだっていて、少し硬かった。けれど、とても温かかった。エルナは恥ずかしさで俯きながらも、そっとその手を握り返した。
 もう言葉はいらなかった。
 繋がれた手から、お互いの気持ちが痛いほど伝わってくる。
 この人は私のことが好きなんだ。
 そして私も、この人のことが……。
 二人は夕暮れの道を、ただ黙って手を繋いで歩いた。周りの喧騒ももう気にならない。二人だけの世界にいるような、不思議な感覚だった。
 エルナの家の前まで送ってくれたガイオンは、名残惜しそうにしながらも、繋いでいた手を離した。
「今日は……楽しかった」
 彼がぼそりと言った。
「はい、わたくしも、とても楽しかったです。ありがとうございました」
 エルナも精一杯の笑顔で答える。
「それじゃあ、また」
 背を向けて去っていくガイオンの広い背中を見送りながら、エルナはまだ熱を持っている自分の手を見つめた。
 今日、二人の関係はまた一つ、小さな、しかし確実な一歩を踏み出した。恋人、という言葉がもうすぐそこまで来ている。そんな甘い予感が、エルナの心をときめかせていた。

あなたにおすすめの小説

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

追放された悪役令嬢、辺境で植物魔法に目覚める。銀狼領主の溺愛と精霊の加護で幸せスローライフ!〜真の聖女は私でした〜

黒崎隼人
恋愛
「王国の害悪」として婚約破棄され、魔物が棲む最果ての地『魔狼の森』へ追放された悪役令嬢リリア。 しかし、彼女には前世の記憶と、ゲーム知識、そして植物を癒やし育てる不思議な力があった! 不毛の地をハーブ園に変え、精霊と友達になり、スローライフを満喫しようとするリリア。 そんな彼女を待っていたのは、冷徹と噂される銀狼の獣人領主・カイルとの出会いだった。 「お前は、俺の宝だ」 寡黙なカイルの不器用な優しさと、とろけるような溺愛に包まれて、リリアは本当の幸せを見つけていく。 一方、リリアを追放した王子と偽聖女には、破滅の足音が迫っていて……? 植物魔法で辺境を開拓し、獣人領主に愛される、大逆転ハッピーエンドストーリー!

「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました

黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。 古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。 一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。 追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。 愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!

役立たずと追放された令嬢ですが、極寒の森で【伝説の聖獣】になつかれました〜モフモフの獣人姿になった聖獣に、毎日甘く愛されています〜

腐ったバナナ
恋愛
「魔力なしの役立たず」と家族と婚約者に見捨てられ、極寒の魔獣の森に追放された公爵令嬢アリア。 絶望の淵で彼女が出会ったのは、致命傷を負った伝説の聖獣だった。アリアは、微弱な生命力操作の能力と薬学知識で彼を救い、その巨大な銀色のモフモフに癒やしを見いだす。 しかし、銀狼は夜になると冷酷無比な辺境領主シルヴァンへと変身! 「俺の命を救ったのだから、君は俺の永遠の所有物だ」 シルヴァンとの契約結婚を受け入れたアリアは、彼の強大な力を後ろ盾に、冷徹な知性で王都の裏切り者たちを周到に追い詰めていく。

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

悪役令嬢の烙印を押され追放されましたが、辺境でたこ焼き屋を開業したら、氷血公爵様が常連になりました

緋村ルナ
ファンタジー
公爵令嬢オリヴィアは、身に覚えのない罪で「悪役令嬢」の烙印を押され、王太子である夫から離婚と追放を言い渡される。絶望の淵で彼女が思い出したのは、大阪出身のOLだった前世の記憶と、こよなく愛した「たこ焼き」の味だった! 「こんな茶番、付き合ってられるか!私は私の道を行く!」 追放先の極寒の辺境で、たくましく自給自足生活を始めた彼女は、未知の食材でたこ焼きの再現に奮闘する。そんな彼女の前に現れたのは、「氷血公爵」と恐れられる無愛想な領主レオニール。 外はカリッ、中はトロッ…渾身のたこ焼きは、氷の公爵様の胃袋と心をあっという間に溶かしてしまい!? これは、理不尽に全てを奪われた令嬢が、一皿の料理から始まる奇跡で自らの幸せを掴み取り、最強の無愛想ヒーローに胃袋ごと愛される、痛快逆転グルメ・ラブストーリー!