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第13話「初めてのデートと小さな一歩」
約束の日、エルナは少しだけお洒落をして、胸を高鳴らせながら待ち合わせ場所の広場へと向かった。
辺境の村は今や「町」と呼ぶにふさわしい規模にまで発展していた。ドワーフやエルフとの交易で得た富によって新しい店や家が次々と建てられ、通りは多くの人々で賑わっている。
広場に着くと、そこには既に見慣れた長身の姿があった。ガイオンはいつもの黒銀の鎧ではなく、動きやすい革のジャケットに身を包んでいた。私服姿の彼は騎士団長の威厳はそのままに、どこか親しみやすい雰囲気を醸し出している。
「ガイオン様、お待たせしました」
「いや、俺も今来たところだ」
エルナの姿を認めたガイオンの目が、わずかに見開かれる。彼女は今日のためにエルフの国から来た美しい織物で作った、淡い緑色のケープを羽織っていた。
「……そのケープ、似合っている」
ぽつりと呟かれた褒め言葉に、エルナは嬉しさで顔が熱くなるのを感じた。
「ありがとうございます」
ぎこちない挨拶を交わし、二人は並んで町を歩き始めた。
それは他の恋人たちがするような、ごく普通のデートだった。ドワーフの職人が開いた武具屋を覗いたり、エルフが売る珍しいハーブの店に立ち寄ったり。エルナが新しい農具を選んでいると、ガイオンが「こっちの方が軽くて君の手に合うだろう」と的確な助言をくれた。
何をしても、隣に彼がいるというだけで世界が輝いて見えた。
道端の屋台で焼きたての串焼きを買って、二人で分け合って食べる。ガイオンは無言で、しかし美味しそうにそれを頬張っていた。そんな些細な光景が、エルナの心を温かく満たしていく。
「すごい人ですね。町がこんなに活気に満ちて……」
雑踏の中で、エルナが感嘆の声を上げる。
「ああ。すべて君がもたらした変化だ」
ガイオンが穏やかな声で答える。その時、前から来た人波に押され、エルナの体がよろめいた。
「危ない!」
ガイオンがとっさに彼女の腕を掴み、自分の胸へと引き寄せる。どくん、と彼のたくましい胸板に額が当たり、力強い心臓の鼓動が伝わってきた。
「す、すみません……!」
慌てて身を離そうとするエルナを、ガイオンは離さなかった。それどころか彼はごく自然な仕草で、エルナの手を握った。
「……このままの方が、はぐれずに済む」
ぶっきらぼうな口調で彼はそう言った。その耳が真っ赤に染まっているのを、エルナは見逃さなかった。
繋がれた手は大きくて節くれだっていて、少し硬かった。けれど、とても温かかった。エルナは恥ずかしさで俯きながらも、そっとその手を握り返した。
もう言葉はいらなかった。
繋がれた手から、お互いの気持ちが痛いほど伝わってくる。
この人は私のことが好きなんだ。
そして私も、この人のことが……。
二人は夕暮れの道を、ただ黙って手を繋いで歩いた。周りの喧騒ももう気にならない。二人だけの世界にいるような、不思議な感覚だった。
エルナの家の前まで送ってくれたガイオンは、名残惜しそうにしながらも、繋いでいた手を離した。
「今日は……楽しかった」
彼がぼそりと言った。
「はい、わたくしも、とても楽しかったです。ありがとうございました」
エルナも精一杯の笑顔で答える。
「それじゃあ、また」
背を向けて去っていくガイオンの広い背中を見送りながら、エルナはまだ熱を持っている自分の手を見つめた。
今日、二人の関係はまた一つ、小さな、しかし確実な一歩を踏み出した。恋人、という言葉がもうすぐそこまで来ている。そんな甘い予感が、エルナの心をときめかせていた。
辺境の村は今や「町」と呼ぶにふさわしい規模にまで発展していた。ドワーフやエルフとの交易で得た富によって新しい店や家が次々と建てられ、通りは多くの人々で賑わっている。
広場に着くと、そこには既に見慣れた長身の姿があった。ガイオンはいつもの黒銀の鎧ではなく、動きやすい革のジャケットに身を包んでいた。私服姿の彼は騎士団長の威厳はそのままに、どこか親しみやすい雰囲気を醸し出している。
「ガイオン様、お待たせしました」
「いや、俺も今来たところだ」
エルナの姿を認めたガイオンの目が、わずかに見開かれる。彼女は今日のためにエルフの国から来た美しい織物で作った、淡い緑色のケープを羽織っていた。
「……そのケープ、似合っている」
ぽつりと呟かれた褒め言葉に、エルナは嬉しさで顔が熱くなるのを感じた。
「ありがとうございます」
ぎこちない挨拶を交わし、二人は並んで町を歩き始めた。
それは他の恋人たちがするような、ごく普通のデートだった。ドワーフの職人が開いた武具屋を覗いたり、エルフが売る珍しいハーブの店に立ち寄ったり。エルナが新しい農具を選んでいると、ガイオンが「こっちの方が軽くて君の手に合うだろう」と的確な助言をくれた。
何をしても、隣に彼がいるというだけで世界が輝いて見えた。
道端の屋台で焼きたての串焼きを買って、二人で分け合って食べる。ガイオンは無言で、しかし美味しそうにそれを頬張っていた。そんな些細な光景が、エルナの心を温かく満たしていく。
「すごい人ですね。町がこんなに活気に満ちて……」
雑踏の中で、エルナが感嘆の声を上げる。
「ああ。すべて君がもたらした変化だ」
ガイオンが穏やかな声で答える。その時、前から来た人波に押され、エルナの体がよろめいた。
「危ない!」
ガイオンがとっさに彼女の腕を掴み、自分の胸へと引き寄せる。どくん、と彼のたくましい胸板に額が当たり、力強い心臓の鼓動が伝わってきた。
「す、すみません……!」
慌てて身を離そうとするエルナを、ガイオンは離さなかった。それどころか彼はごく自然な仕草で、エルナの手を握った。
「……このままの方が、はぐれずに済む」
ぶっきらぼうな口調で彼はそう言った。その耳が真っ赤に染まっているのを、エルナは見逃さなかった。
繋がれた手は大きくて節くれだっていて、少し硬かった。けれど、とても温かかった。エルナは恥ずかしさで俯きながらも、そっとその手を握り返した。
もう言葉はいらなかった。
繋がれた手から、お互いの気持ちが痛いほど伝わってくる。
この人は私のことが好きなんだ。
そして私も、この人のことが……。
二人は夕暮れの道を、ただ黙って手を繋いで歩いた。周りの喧騒ももう気にならない。二人だけの世界にいるような、不思議な感覚だった。
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「今日は……楽しかった」
彼がぼそりと言った。
「はい、わたくしも、とても楽しかったです。ありがとうございました」
エルナも精一杯の笑顔で答える。
「それじゃあ、また」
背を向けて去っていくガイオンの広い背中を見送りながら、エルナはまだ熱を持っている自分の手を見つめた。
今日、二人の関係はまた一つ、小さな、しかし確実な一歩を踏み出した。恋人、という言葉がもうすぐそこまで来ている。そんな甘い予感が、エルナの心をときめかせていた。
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