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第15話「恋人たちの誓い」
王都の不穏な噂は、交易商人たちを通じて、辺境の町にも断片的に伝わってきていた。
「なんでも原因不明の病が流行っているらしい」
「作物の育ちも、年々悪くなっているとか……」
そんな話を聞くたび、エルナの胸はちくりと痛んだ。王都には辛い記憶しかない。それでもそこは自分の生まれ故郷であり、今も多くの人々が暮らしている場所だ。彼らが苦しんでいると聞けば、心が穏やかではいられない。
『わたくしに、何かできることはないかしら……』
そんな思いが頭をよぎるが、すぐに打ち消す。自分は追放された罪人。今さら王都に戻ることなどできないし、戻りたいとも思わない。自分の居場所は、ここなのだから。
エルナのそんな心の揺れを、ガイオンは敏感に感じ取っていた。
ある晴れた日の午後、彼はエルナを誘って町の外れにある小高い丘へと馬を走らせた。そこは辺境の地を一望できる、見晴らしの良い場所だった。
眼下には緑豊かな畑と、活気あふれる町並みが広がっている。自分たちがこの地の人々と共に築き上げてきた、かけがえのない風景だ。
「エルナ」
馬から降りたガイオンが、エルナの手を取る。そして真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「君は、王都のことが気にかかるか?」
彼の問いに、エルナは正直にうなずいた。
「……少しだけ。人々が苦しんでいると聞くと、心が痛みます」
「そうか……」
ガイオンはエルナの手を握る力を、少しだけ強めた。
「君は優しいな。あんな仕打ちを受けたというのに、まだ彼らのことを案じるとは」
「優しくなどありません。ただ……見過ごせないだけです」
「だが、君が王都に戻ることは俺が許さない」
彼のきっぱりとした言葉に、エルナは驚いて顔を上げた。
「君はこの地の聖女だ。君の力は、この地で君を愛し、必要とする人々のためにある。王都の連中の身勝手な都合のために、使わせてなるものか」
その声には強い独占欲と、エルナを絶対に手放さないという固い決意が込められていた。
「それに……」
ガイオンは一度言葉を切ると、少し躊躇うように、しかし意を決して続けた。
「俺が、君をどこにも行かせたくない。……君がいない世界など、もう考えられない」
それは、不器用な彼が紡いだ最大限の愛の告白だった。
エルナの心臓が、大きく高く鳴り響く。頬が熱い。瞳に涙がにじむ。
ずっと聞きたかった言葉。ずっと待っていた言葉。
「ガイオン様……」
「俺は君を愛している、エルナ。誰よりも、何よりも。だから、俺のそばにいてほしい」
彼はエルナのもう片方の手も取り、その小さな体を自分の腕の中に閉じ込めるように優しく抱きしめた。たくましい胸板に顔をうずめると、彼の力強い心臓の音と安心する匂いに包まれる。
「わたくしも……わたくしも、あなたを愛しています、ガイオン様」
エルナは彼の背中に腕を回し、ありったけの想いを込めてそう答えた。
もう迷いはない。過去に縛られるのはやめよう。自分の幸せは、この人の隣にあるのだから。
「だから、『様』はいらないと……」
耳元でガイオンが、拗ねたような、それでいて嬉しそうな声で呟く。
「……ガイオン」
エルナが彼の名前を初めて呼び捨てにすると、彼は満足そうにうなずき、抱きしめる腕の力をさらに強めた。
「エルナ」
彼もまた、愛おしげに彼女の名前を呼ぶ。
二人はどちらからともなく顔を寄せ、唇を重ねた。それは辺境の澄んだ空気のようにどこまでも純粋で、優しい口づけだった。
眼下に広がる豊かな大地と青く澄み渡る空が、恋人たちの誓いを静かに祝福しているようだった。もう何も怖くない。この人と一緒なら、どんな困難も乗り越えていける。エルナはガイオンの腕の中で、確かな幸福を感じていた。
「なんでも原因不明の病が流行っているらしい」
「作物の育ちも、年々悪くなっているとか……」
そんな話を聞くたび、エルナの胸はちくりと痛んだ。王都には辛い記憶しかない。それでもそこは自分の生まれ故郷であり、今も多くの人々が暮らしている場所だ。彼らが苦しんでいると聞けば、心が穏やかではいられない。
『わたくしに、何かできることはないかしら……』
そんな思いが頭をよぎるが、すぐに打ち消す。自分は追放された罪人。今さら王都に戻ることなどできないし、戻りたいとも思わない。自分の居場所は、ここなのだから。
エルナのそんな心の揺れを、ガイオンは敏感に感じ取っていた。
ある晴れた日の午後、彼はエルナを誘って町の外れにある小高い丘へと馬を走らせた。そこは辺境の地を一望できる、見晴らしの良い場所だった。
眼下には緑豊かな畑と、活気あふれる町並みが広がっている。自分たちがこの地の人々と共に築き上げてきた、かけがえのない風景だ。
「エルナ」
馬から降りたガイオンが、エルナの手を取る。そして真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「君は、王都のことが気にかかるか?」
彼の問いに、エルナは正直にうなずいた。
「……少しだけ。人々が苦しんでいると聞くと、心が痛みます」
「そうか……」
ガイオンはエルナの手を握る力を、少しだけ強めた。
「君は優しいな。あんな仕打ちを受けたというのに、まだ彼らのことを案じるとは」
「優しくなどありません。ただ……見過ごせないだけです」
「だが、君が王都に戻ることは俺が許さない」
彼のきっぱりとした言葉に、エルナは驚いて顔を上げた。
「君はこの地の聖女だ。君の力は、この地で君を愛し、必要とする人々のためにある。王都の連中の身勝手な都合のために、使わせてなるものか」
その声には強い独占欲と、エルナを絶対に手放さないという固い決意が込められていた。
「それに……」
ガイオンは一度言葉を切ると、少し躊躇うように、しかし意を決して続けた。
「俺が、君をどこにも行かせたくない。……君がいない世界など、もう考えられない」
それは、不器用な彼が紡いだ最大限の愛の告白だった。
エルナの心臓が、大きく高く鳴り響く。頬が熱い。瞳に涙がにじむ。
ずっと聞きたかった言葉。ずっと待っていた言葉。
「ガイオン様……」
「俺は君を愛している、エルナ。誰よりも、何よりも。だから、俺のそばにいてほしい」
彼はエルナのもう片方の手も取り、その小さな体を自分の腕の中に閉じ込めるように優しく抱きしめた。たくましい胸板に顔をうずめると、彼の力強い心臓の音と安心する匂いに包まれる。
「わたくしも……わたくしも、あなたを愛しています、ガイオン様」
エルナは彼の背中に腕を回し、ありったけの想いを込めてそう答えた。
もう迷いはない。過去に縛られるのはやめよう。自分の幸せは、この人の隣にあるのだから。
「だから、『様』はいらないと……」
耳元でガイオンが、拗ねたような、それでいて嬉しそうな声で呟く。
「……ガイオン」
エルナが彼の名前を初めて呼び捨てにすると、彼は満足そうにうなずき、抱きしめる腕の力をさらに強めた。
「エルナ」
彼もまた、愛おしげに彼女の名前を呼ぶ。
二人はどちらからともなく顔を寄せ、唇を重ねた。それは辺境の澄んだ空気のようにどこまでも純粋で、優しい口づけだった。
眼下に広がる豊かな大地と青く澄み渡る空が、恋人たちの誓いを静かに祝福しているようだった。もう何も怖くない。この人と一緒なら、どんな困難も乗り越えていける。エルナはガイオンの腕の中で、確かな幸福を感じていた。
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