追放された天才魔導具師、辺境から星の海へ〜魔法と科学で港町を世界一の宇宙港へ成り上がらせる〜

黒崎隼人

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第1話「天才魔導具師の追放と、南の海の約束」

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 分厚い石造りの壁に囲まれた王立魔導院の会議室には、冷たい沈黙が満ちていた。

 上座にふんぞり返る白髭の院長が、手元の羊皮紙を乱暴に机へと投げ捨てる。バサリという乾いた音が、室内に響き渡った。

「馬鹿馬鹿しい。超小型の魔導具を、しかも安価な飛翔体で星の軌道に届けるだと?」

 院長は嘲りのこもった目で、円卓の末席に立つ青年を見下ろした。

「我々が推し進めている『大精霊計画』は、国家の威信をかけた巨大プロジェクトだ。何年もかけて巨大な魔力炉を建造し、最高の魔法使いたちが儀式をもって空へ送り出す。お前のような若造が、民間の寄せ集め技術で空を飛ぼうなどと、王家の権威に対する侮辱でしかない」

「権威などどうでもいいことです。実用性の話をしているんです」

 青年の名はレオン。24歳という若さで特級魔導具師の称号を得た異端の天才だった。
 彼は長い前髪の奥にある鋭い瞳で、ずらりと並ぶ古参の魔導師たちを見据えた。

「今、世界中で通信や気象予測を担う小型観測魔導具の需要が爆発的に高まっています。それを巨大な船で数年に1度しか打ち上げられない今の体制では、時代に取り残される。必要な時に、必要な場所へ、迅速に飛翔体を届ける手段が必要なんです」

「黙れ、理屈をこねるな!」

 院長が机を力強く叩いた。

「これ以上、貴様のたわごとに付き合う暇はない。貴様は本日をもって魔導院を追放する。二度と王都の敷居をまたぐな」

 決定的な宣告だった。
 しかし、レオンの顔に絶望の色はない。むしろ、よどんだ空気の中で息苦しさを感じていた心が、少しだけ軽くなるのを覚えた。

『ここで腐るくらいなら、自分で道を開拓するまでだ』

 彼は静かに一礼すると、荷物をまとめて振り返ることなく会議室を後にした。

***

 王都を追放されたレオンが目指したのは、王国の最南端に位置する辺境の港町「キイ」だった。

 長旅の末にたどり着いたその町は、潮の香りと波の音に包まれていた。
 南と東が広大な海に開けており、視界を遮るものは何もない。見渡す限りの青い水平線が、太陽の光を受けて眩しくきらめいていた。

 小高い丘の上に立つ彼は、潮風に髪を揺らしながら海を見下ろした。

「完璧だ……」

 独り言をこぼす。
 飛翔体を打ち上げる際、星の自転を利用して東へ向かうか、太陽の光を常に浴びる軌道を目指して南へ向かう必要がある。万が一、空中で事故が起きたとしても、広大な海が安全地帯となって地上の被害を最小限に抑えられる。

 キイの町は、まさに空を目指すために存在するような理想的な立地だった。

「そこで何をしているの?」

 不意に背後から声をかけられ、レオンは振り返った。
 立っていたのは、亜麻色の髪を風になびかせる若い女性だった。年齢は20歳ほどだろうか。飾り気のない動きやすい革の服を着ているが、その立ち姿には凛とした気品が漂っていた。

「少し、空と海を見ていたんだ。素晴らしい場所だと思ってね」

 青年の言葉に、女性は少しだけ寂しそうな笑みを浮かべた。

「景色はいいけれど、それだけの町よ。若者はみんな王都へ出て行ってしまって、港の活気も年々失われているわ」

「君は、ここの住民なのかい?」

「私はアリア。このキイの町を治める領主の代行を務めているわ。父が病に伏せっていてね」

 アリアと名乗った彼女は、大きな瞳でレオンの顔をじっと見つめた。

「あなた、見ない顔ね。旅の商人には見えないけれど」

「俺はレオン。しがない魔導具師さ。……いや、今は無職の夢想家とでも言っておこうか」

 彼は自嘲気味に笑うと、足元の草地を指差した。

「俺はここに、空へ向かうための発射場を作りたいんだ」

「発射場……? 空へ向かうって、どういうこと?」

 アリアは目を丸くした。

「星の軌道まで、小型の観測魔導具を届けるための飛翔体を作る。王都の連中には笑われたが、俺は本気だ。それが実現すれば、この町は星と地上を結ぶ最先端の拠点になる」

 レオンは熱を込めて語った。
 誰もが通信網を利用でき、魔物の襲来や嵐の接近を事前に察知できる世界。それを、少数の特権階級の魔法使いだけでなく、民間の力で成し遂げるのだと。

 その言葉を聞いたアリアの瞳に、かすかな光が宿った。
 彼女はずっと探していたのだ。衰退していくこの町に、再び命を吹き込むための希望を。

「……面白いわね、その話」

 アリアはレオンの正面に立ち、真っすぐな視線を向けた。

「私にも手伝わせて。この町には何もないけれど、海と土地、そして諦めの悪い住民ならたくさんいるわ」

「本気か? 国からの援助なんて一切出ない、無謀な挑戦になるぞ」

「領地の未来を切り拓くのに、無謀も何もないわ。それに、あなたの目は全然諦めていないもの」

 海風が2人の間を吹き抜け、草木がざわめいた。
 それは、国家という巨大な後ろ盾を捨てた1人の天才と、辺境の町を背負う若き領主が、未踏の空へ挑む約束を交わした瞬間だった。
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