追放された天才魔導具師、辺境から星の海へ〜魔法と科学で港町を世界一の宇宙港へ成り上がらせる〜

黒崎隼人

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第12話「星の海へ届く声と、新たなる出発点」

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 3号機が宇宙空間へと放った5つの観測魔導具からの安定した信号が、キイの町の地下管制室に絶え間なく鳴り響いていた。それはまるで、遠い星屑の海から生まれたばかりの赤子が、自分たちの健やかな命の鼓動を地上へ伝えるかのような、澄み切った電子の産声だった。

 管制室を包み込んでいた狂乱に近い歓喜の嵐が、ゆっくりと静かな、しかし確かな達成感へと形を変えていく。
 レオンは計器盤の前で深く息を吐き出し、張り詰めていた肩の力を抜いた。彼の目の下には、この9ヶ月間の血を吐くような努力を物語る濃い隈が刻まれていたが、その瞳はかつてないほど穏やかで、澄み切った光を帯びていた。

「レオンさん……本当に、本当にやったのね」

 アリアが、涙でぐしゃぐしゃになった顔を拭いながら彼の背中に寄り添った。彼女の声は震え、言葉の端々に、この辺境の町を背負ってきた重圧から解放された安堵が滲んでいた。

「ああ。5つの星は、完璧に予定通りの軌道へ乗った。俺たちのストライダーは、空の過酷な罠をすべて乗り越え、ついに『実験』の域を脱したんだ」

 レオンは静かに振り返り、仲間たちを見渡した。
 ドルトンは太い腕で目頭を押さえながら、豪快な笑い声を上げている。ガルドは鼻眼鏡を外し、自分の調合した固形魔力結晶が完璧に燃え尽きたことを示すデータシートを、祈るように胸に抱きしめていた。シルヴィアは計算機を机に置き、王都の投資家たちから次々と送られてくる莫大な追加融資の確約を知らせる通信結晶の光を、満足げに見つめていた。

「これで、王立魔導院の連中もぐうの音も出ないだろうな。俺たち民間の寄せ集めギルドが、国が何年もかけてやるような偉業を、たった数日の即応性で、しかも格安のコストで成し遂げちまったんだからよ」

 ドルトンがニヤリと笑い、大きな手で青年の肩を叩いた。

「でも、これはゴールじゃないわよね、レオン」

 シルヴィアが、優雅な仕草で乱れた髪を直しながら言った。彼女の目には、すでに次なる商機の炎が燃え盛っている。

「ええ。3号機の成功は、宇宙輸送ビジネスを確立するための『通過点』であり、『新たな出発点』に過ぎません」

 レオンは、メインの水晶板に映し出された、宇宙から見た美しい青い星の弧を指差した。

「世界中の商人や学者が、『来週、星の軌道へ荷物を届けたい』と言った時に、手軽に宅配便のように応えられる柔軟で強靭なインフラ。俺たちが目指すのは、一部の特権階級だけのものだった空を、誰もが当たり前に利用できるインフラとして日常に組み込むことです」

 彼の言葉に、誰もが深く頷いた。
 2度の失敗という地獄の底を這いずり回り、フライト環境という未知の猛威を血と汗でねじ伏せた彼らの技術的資産は、もはや教科書や机上のシミュレーションでは決して得られない、圧倒的な強靭さを備えていた。

「それにしても、見学場の連中の騒ぎっぷりといったらねえぞ。町中がひっくり返ったような大歓声だ」

 ドルトンが、管制室のモニターの1つを指差した。
 そこには、キイの町の広場や崖の上の特設会場で、見ず知らずの者同士が抱き合い、空を指差して涙を流して喜ぶ姿が映し出されていた。王都から来た貴族も、近隣の領地から来た農民も、キイの町の漁師たちも、身分や立場の壁を越えて、1つの奇跡の共有者となっていた。

「アリア、君がこの町の人々をまとめ上げ、俺たちを受け入れてくれたからこそ、俺たちは最後まで折れずに飛ぶことができたんだ。3000のメッセージを乗せた機体は、まさにこの町全体の希望の象徴だった」

 レオンが深く頭を下げると、彼女は慌てて両手を振った。

「違うわ。レオンさんたちが『失敗』という言葉を使わず、どんな絶望的な状況でも未来への糧として前を向き続けたからよ。その不屈の姿勢が、私たちに『この町にも、まだ何かできるかもしれない』という勇気を与えてくれたの。宇宙ふれあいホールや探究コースに集まる子供たちの顔を見ればわかるわ。レオンさんたちは、この町に『未来への憧れ』という、何よりも価値のあるものを残してくれたのよ」

 アリアの言葉に、青年の胸の奥が熱く締め付けられた。
 王立魔導院を追放されたあの日、己の技術の正しさを証明することだけを考えていた彼は、いつしかこの辺境の町の人々と共に泣き、共に笑い、泥にまみれながら1つの巨大な夢を共有する立派なギルド長へと成長していた。

「……よし! こんな地下室で湿っぽい顔をしている場合じゃないぞ! 空の神様に勝利の祝杯を上げに行こうじゃないか! 俺の奢りだ、町中の酒樽を空にしてやる!」

 ドルトンが豪快に叫び、ガルドもそれに調子を合わせて鼻を鳴らした。

「ふん。俺の調合した最高純度の魔力酒の出番だな。悪酔いしても知らんぞ」

「商人の顔に泥を塗らないでよね。祝賀会の手配なら、私がすでに最高級の料理人を呼んでおいたわ。さあ、地上に戻りましょう。私たちの英雄を、町の人たちが待ちわびているわよ」

 シルヴィアがウィンクをして、重い防塵扉のロックを解除した。
 外の光が、眩しいほどに地下の通路へと差し込んでくる。

 レオンは、最後に1度だけ、静かに明滅する計器盤と、宇宙から届く5つの信号の音を確かめるように見つめた。
 ストライダーという、時間の神の名を冠した飛翔天機。
 2020年代の終わりには年間20機、2030年代には年間30機という高頻度の打ち上げを実現し、このキイの町を世界最高の宇宙港へと変貌させる。その途方もないビジョンが、今、確かな現実の輪郭を持って彼らの目の前に広がっていた。

「行くぞ。俺たちの新しい空が、待っている」

 レオンは、仲間たちと共に、眩い光の先へと歩み出した。
 彼らの背後では、無限の星空へと到達した機械の鼓動が、静かに、しかし力強く、次なる時代への産声を上げ続けていた。
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