15 / 15
エピローグ「星辰のインフラと、次なる好機」
しおりを挟む
ストライダー3号機の歴史的な成功から、数ヶ月が経過した。
王国の首都にある王立魔導院の会議室では、かつてレオンを追放した老魔導師たちが、血の気を失った顔で巨大な水晶板を見つめていた。
そこに映し出されているのは、アストラル・ワンが軌道へ投入した観測魔導具「タタラ1型」から送られてくる、リアルタイムの極秘映像だった。
「……信じられん。南の海上で発生した巨大な魔物の群れを、発生からわずか数分で、これほど鮮明に捉えるとは」
院長が、震える声でつぶやいた。
これまでの王国の防衛網では、魔物が海岸線に接近して初めて迎撃態勢を整えていた。しかし、レオンたちが構築した星の眼は、はるか上空から海の彼方を監視し、脅威の兆候を瞬時に察知して王都へ警告を発することができるようになっていた。
「しかも、あの男は……この観測網を、民間企業からの依頼で、たったの数日で軌道へ追加投入できると言っている。我々が何年もかけて魔力炉を建造していたのが、馬鹿らしくなるほどの即応性と低コストだ」
別の老魔導師が、屈辱に顔を歪めながらも、その圧倒的な技術力と経済合理性を認めざるを得なかった。
王国のパラダイムは、完全にシフトした。国家主導の巨大で鈍重な計画から、民間主導の柔軟で強靭な星空開拓の時代へ。その中心にいるのは、紛れもなく、かつて彼らが嘲笑して追放した天才魔導具師、レオンだった。
***
一方、キイの町の星港では、潮風に吹かれながら、レオンとアリアが新たな発射塔の建設予定地を視察していた。
3号機の成功により、世界中から「うちの魔導具も打ち上げてほしい」という依頼が殺到しており、ドルトンは休む間もなく第2、第3の発射塔の設計に取り掛かっていた。
「来月には、4号機と5号機の連続打ち上げが控えている。ガルドさんの結晶調合も量産体制に入ったし、シルヴィアの資金調達も盤石だ。これでようやく、俺たちが目指していた『高頻度の宇宙輸送』が本格的にスタートする」
レオンは、青く澄んだ空を指差して力強く言った。
「町の人たちも、すっかり宇宙事業に慣れてきたわね。漁師さんたちは打ち上げのたびに安全海域の警備に協力してくれているし、魔導学校の生徒たちは、将来レオンさんのギルドで働くことを目標に必死に勉強しているわ」
アリアは、穏やかな笑顔で彼に寄り添った。
彼女の治めるキイの町は、今や王国中から若者や商人が集まる、最も活気にあふれた最先端の都市へと変貌を遂げていた。
「レオンさん。あなたは本当に、あの時酒場で語った夢を、すべて現実にしてしまったのね」
「俺1人じゃないさ。アリア、君たちという最高の仲間がいたからだ。それに……」
彼は、かつて初号機と2号機が空の彼方へ散っていった、南の海の方角を見つめた。
「俺たちは、あの2回の失敗で、空の神様にきついお灸を据えられた。予測の甘さや、未知の環境に対する慢心。それを徹底的に叩き潰されたからこそ、今の強靭なストライダーがある」
青年は深く息を吸い込み、潮風の匂いを肺の奥まで満たした。
「俺たちの目標は、2020年代の終わりまでに年間20機、2030年代には30機を飛ばすことだ。世界中の誰もが、必要な時に必要な場所へ、星のインフラを自在に構築できる時代。それを、このキイの町から発信する」
その時、管制室の方から、ドルトンの大きな声が響いてきた。
「おい、レオン! アリア様! 4号機の最終部品が王都から届いたぜ! 組み込みの準備はできてるか!」
「ああ、今行く!」
レオンは力強く手を振り返し、アリアに向き直った。
「行こう、アリア。次の『好機』が、俺たちを待っている」
「ええ、どこまでも!」
2人は弾むような足取りで、鋼の塔がそびえる星港へと向かって走り出した。
彼らの頭上には、澄み切った青空がどこまでも高く広がっている。
数多の困難と挫折を乗り越え、不屈の精神で切り拓かれた王国の民間飛翔体の歩みは、まだ始まったばかりだった。
空の神は、何度でも彼らに試練を与えるだろう。しかし彼らは、決して諦めることなく、未来という名の星の海へ向かって、力強く羽ばたき続けるのだ。
王国の首都にある王立魔導院の会議室では、かつてレオンを追放した老魔導師たちが、血の気を失った顔で巨大な水晶板を見つめていた。
そこに映し出されているのは、アストラル・ワンが軌道へ投入した観測魔導具「タタラ1型」から送られてくる、リアルタイムの極秘映像だった。
「……信じられん。南の海上で発生した巨大な魔物の群れを、発生からわずか数分で、これほど鮮明に捉えるとは」
院長が、震える声でつぶやいた。
これまでの王国の防衛網では、魔物が海岸線に接近して初めて迎撃態勢を整えていた。しかし、レオンたちが構築した星の眼は、はるか上空から海の彼方を監視し、脅威の兆候を瞬時に察知して王都へ警告を発することができるようになっていた。
「しかも、あの男は……この観測網を、民間企業からの依頼で、たったの数日で軌道へ追加投入できると言っている。我々が何年もかけて魔力炉を建造していたのが、馬鹿らしくなるほどの即応性と低コストだ」
別の老魔導師が、屈辱に顔を歪めながらも、その圧倒的な技術力と経済合理性を認めざるを得なかった。
王国のパラダイムは、完全にシフトした。国家主導の巨大で鈍重な計画から、民間主導の柔軟で強靭な星空開拓の時代へ。その中心にいるのは、紛れもなく、かつて彼らが嘲笑して追放した天才魔導具師、レオンだった。
***
一方、キイの町の星港では、潮風に吹かれながら、レオンとアリアが新たな発射塔の建設予定地を視察していた。
3号機の成功により、世界中から「うちの魔導具も打ち上げてほしい」という依頼が殺到しており、ドルトンは休む間もなく第2、第3の発射塔の設計に取り掛かっていた。
「来月には、4号機と5号機の連続打ち上げが控えている。ガルドさんの結晶調合も量産体制に入ったし、シルヴィアの資金調達も盤石だ。これでようやく、俺たちが目指していた『高頻度の宇宙輸送』が本格的にスタートする」
レオンは、青く澄んだ空を指差して力強く言った。
「町の人たちも、すっかり宇宙事業に慣れてきたわね。漁師さんたちは打ち上げのたびに安全海域の警備に協力してくれているし、魔導学校の生徒たちは、将来レオンさんのギルドで働くことを目標に必死に勉強しているわ」
アリアは、穏やかな笑顔で彼に寄り添った。
彼女の治めるキイの町は、今や王国中から若者や商人が集まる、最も活気にあふれた最先端の都市へと変貌を遂げていた。
「レオンさん。あなたは本当に、あの時酒場で語った夢を、すべて現実にしてしまったのね」
「俺1人じゃないさ。アリア、君たちという最高の仲間がいたからだ。それに……」
彼は、かつて初号機と2号機が空の彼方へ散っていった、南の海の方角を見つめた。
「俺たちは、あの2回の失敗で、空の神様にきついお灸を据えられた。予測の甘さや、未知の環境に対する慢心。それを徹底的に叩き潰されたからこそ、今の強靭なストライダーがある」
青年は深く息を吸い込み、潮風の匂いを肺の奥まで満たした。
「俺たちの目標は、2020年代の終わりまでに年間20機、2030年代には30機を飛ばすことだ。世界中の誰もが、必要な時に必要な場所へ、星のインフラを自在に構築できる時代。それを、このキイの町から発信する」
その時、管制室の方から、ドルトンの大きな声が響いてきた。
「おい、レオン! アリア様! 4号機の最終部品が王都から届いたぜ! 組み込みの準備はできてるか!」
「ああ、今行く!」
レオンは力強く手を振り返し、アリアに向き直った。
「行こう、アリア。次の『好機』が、俺たちを待っている」
「ええ、どこまでも!」
2人は弾むような足取りで、鋼の塔がそびえる星港へと向かって走り出した。
彼らの頭上には、澄み切った青空がどこまでも高く広がっている。
数多の困難と挫折を乗り越え、不屈の精神で切り拓かれた王国の民間飛翔体の歩みは、まだ始まったばかりだった。
空の神は、何度でも彼らに試練を与えるだろう。しかし彼らは、決して諦めることなく、未来という名の星の海へ向かって、力強く羽ばたき続けるのだ。
1
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる