不味い魔物肉を極上焼肉に変えたら、国王も常連になりました~元肉屋の異世界成り上がり飯テロ経営記~

黒崎隼人

文字の大きさ
10 / 13

第9話「決戦の煙、奇跡のタレ」

しおりを挟む
 そして迎えた、収穫祭当日。

 町の中央広場には特設ステージが組まれ、数千人の観客が詰めかけていた。

 熱気と興奮が渦巻く中、俺は調理台の前に立っていた。

 隣のスペースでは、ジャン=ピエールが優雅に下準備を進めている。彼の周りにはすでに高級な香草の香りが漂い、助手たちが手際よく動いている。

 対する俺は、一人だ。

 道具は、使い慣れた鉄板と七輪、そして包丁一本。

 シンプルすぎる装備に、観客からは失笑が漏れている。

「おい見ろよ、あいつ七輪一つで宮廷料理人に挑むつもりか?」

「無謀すぎるだろ……」

 だが、俺の耳には雑音は届かない。

 目の前のミスジと、昨夜完成した「秘伝のタレ」だけに集中している。

 このタレは、ただの醤油ダレではない。

 ベースとなるのは、地元の果実「リンゴ」と「ナシ」のすりおろし。そこにタマネギ、ニンニク、ショウガを加え、隠し味に赤ワインに似た果実酒とハチミツをブレンドした。そして何より重要なのが、数日間寝かせて熟成させたことだ。

 角が取れ、まろやかになり、肉の脂と絡んだ時に爆発的な旨味を生み出す「育てるタレ」。

 これが俺の切り札だ。

「それでは、料理コンテストを開始します!」

 司会者の合図と共に、ゴングが鳴った。

 ジャンは動き出した。

 巨大な鍋でソースを煮詰め、ドラゴンの肉をワインでフランベする。

 ボワッ! と上がる炎に、観客から歓声が上がる。

 派手なパフォーマンスだ。匂いも上品で、確かに食欲をそそる。

 だが、俺は動かない。

 まずは炭の状態を見る。

 火力が強すぎる。まだだ。表面に白い灰が被り、遠赤外線が安定して放出される「オキ」の状態になるまで待つ。

「おい、あいつ動かないぞ?」

「諦めたのか?」

 ざわめきが大きくなる。

 五分、十分。

 ジャンの方はすでに盛り付けに入ろうとしている。

 今だ。

 炭が赤く、静かに輝き始めた。

 俺はミスジをまな板に乗せた。

 常温に戻しておいた肉は、室温で脂が溶け出し、艶やかに光っている。

 包丁を入れる。

 薄すぎず、厚すぎない、三ミリ。これがミスジの食感を最大限に活かす厚さだ。

 そして、タレを絡める。

 漬け込むのではない。「揉み込む」のだ。

 手で優しく、肉の繊維にタレを浸透させるように。体温で脂が少し溶け、タレと乳化する。

 準備完了。

 俺は網の上に、一枚目の肉を置いた。

 ジュッ……!

 小さな音だった。

 だが、次の瞬間。

 もくもくと立ち上る白煙が、会場の空気を一変させた。

 タレの糖分が炭火に落ちて焦げる、あの匂い。

 果実の甘み、ニンニクのパンチ、醤油の香ばしさ。

 ジャンの上品なソースの香りを、一瞬で塗り替えるほどの圧倒的な「暴力」。

「な、なんだこの匂いは……!?」

「腹が減る! 猛烈に腹が減るぞ!」

 観客たちの視線が、一斉に俺の手元に釘付けになる。

 俺はリズミカルに肉を返す。

 片面七秒。裏返して三秒。

 余計な脂を落としつつ、タレを焦がして香りを纏わせる。

 焼き上がった肉を、炊きたての「銀シャリ」――この世界で見つけた米に似た穀物――の上に豪快に乗せる。

 肉の熱で、ご飯から湯気が立つ。タレと脂が米粒一粒一粒に染み込んでいく。

 仕上げに、刻んだネギと、白ゴマをパラリ。

 そして真ん中に、新鮮な卵黄を落とす。

 完成だ。

 名付けて「キング・ミスジ丼~黄金の月見乗せ~」。

「さあ、召し上がれ」

 俺は審査員席の前に丼を置いた。

 審査員長は、美食家で知られる市長だ。隣にはギルドマスターのガランドも座っている。

 まずはジャンの料理「ドラゴンの赤ワイン煮込み」が審査される。

 確かに美味いらしい。審査員たちは頷き、高得点をつけている。

 ジャンは余裕の笑みで俺を見ている。

 次、俺の番だ。

 市長は怪訝な顔で丼を見つめた。

 庶民的な見た目。宮廷料理とはかけ離れている。

 だが、その香りに喉を鳴らさずにはいられないようだった。

 市長はスプーンを手に取り、肉と卵黄、そしてご飯を一度にすくった。

 口に運ぶ。

 会場が静まり返った。

 市長の動きが止まる。

 咀嚼する。一度、二度。

 そして、目を見開いた。

「…………ッ!!」

 言葉が出ないようだった。

 ただ、夢中でスプーンを動かし始めた。

 一口食べるごとに、恍惚の表情が深まる。

 ミスジのとろけるような柔らかさ。タレの濃厚な甘辛さ。卵黄のまろやかさ。そして、それらを全て受け止めるご飯の存在感。

「う、うまい……! なんだこれは……肉が、飲めるぞ!」

 市長が叫んだ。

 その一言が、全てだった。

「ソースの複雑さなど関係ない! ただただ、圧倒的に美味い! 本能が求めている味だ!」

 ガランドも豪快にかき込み、空になった丼を掲げた。

「おかわりだ! これを持ってこい!」

 会場が爆発したような歓声に包まれた。

 ジャンが信じられないという顔で後ずさりする。

「馬鹿な……あんな、ただ焼いただけの肉が……私のソースに勝るというのか……!?」

 勝った。

 俺は煙の向こうで、確信と共に拳を握りしめた。

 これが焼肉だ。これが俺の、堂島鉄也の、いや、テオドールの生きる道だ。

 俺の視界が少し滲んだ。

 煙のせいではない。

 前世で志半ばで倒れた俺が、異世界で再び頂点に手をかけた瞬間だったからだ。

 さあ、ここからが本当のスタートだ。

 俺の伝説は、まだ始まったばかりだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

「お前は用済みだ」役立たずの【地図製作者】と追放されたので、覚醒したチートスキルで最高の仲間と伝説のパーティーを結成することにした

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――役立たずの【地図製作者(マッパー)】として所属パーティーから無一文で追放された青年、レイン。死を覚悟した未開の地で、彼のスキルは【絶対領域把握(ワールド・マッピング)】へと覚醒する。 地形、魔物、隠された宝、そのすべてを瞬時に地図化し好きな場所へ転移する。それは世界そのものを掌に収めるに等しいチートスキルだった。 魔力制御が苦手な銀髪のエルフ美少女、誇りを失った獣人の凄腕鍛冶師。才能を活かせずにいた仲間たちと出会った時、レインの地図は彼らの未来を照らし出す最強のコンパスとなる。 これは、役立たずと罵られた一人の青年が最高の仲間と共に自らの居場所を見つけ、やがて伝説へと成り上がっていく冒険譚。 「さて、どこへ行こうか。俺たちの地図は、まだ真っ白だ」

無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――勇者パーティーの【鑑定士】リアムは、戦闘能力の低さを理由に、仲間と婚約者から無一文で追放された。全てを失い、流れ着いたのは寂れた辺境の村。そこで彼は自らのスキルの真価に気づく。物の情報を見るだけの【鑑定】は、実は万物の情報を書き換える神のスキル【神の万年筆】だったのだ! 「ただの石」を「最高品質のパン」に、「痩せた土地」を「豊穣な大地」に。奇跡の力で村を豊かにし、心優しい少女リーシャとの絆を育むリアム。やがて彼の村は一つの国家として世界に名を轟かせる。一方、リアムを失った勇者パーティーは転落の一途をたどっていた。今さら戻ってこいと泣きついても、もう遅い! 無能と蔑まれた青年が、世界を創り変える伝説の王となる、痛快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

死んだ土を最強の畑に変える「土壌神の恵み」〜元農家、異世界の食糧難を救い、やがて伝説の開拓領主になる〜

黒崎隼人
ファンタジー
土を愛し、土に愛された男、アロン。 日本の農家として過労死した彼は、不作と飢饉に喘ぐ異世界の貧しい村の少年として転生する。 そこは、栄養を失い、死に絶えた土が広がる絶望の土地だった。 だが、アロンには前世の知識と、土の状態を見抜き活性化させる異能『土壌神の恵み』があった! 「この死んだ土地を、世界で一番豊かな畑に変えてみせる」 一本のスコップと規格外の農業スキルで、アロンは大地を蘇らせていく。 生み出されるのは、異世界人がかつて味わったことのない絶品野菜と料理の数々。 飢えた村人を救い、病弱な公爵令嬢を元気にし、やがてその評判は国をも動かすことに――。 食で人々を繋ぎ、戦わずして国を救う。 最強の農家による、痛快異世界農業ファンタジー、ここに開幕!

【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...