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エピローグ「世界を満たす幸福の煙」
開店から一年が経った。
キルシェの町には、ある変化が起きていた。
夕暮れ時になると、町のあちこちから、あの独特の香ばしい煙が立ち上るようになったのだ。
『炭火焼肉・テオ』の成功を受けて、町にはいくつかの焼肉店がオープンした。
中には俺の店を真似ただけの粗悪な店もあったが、多くは俺が公開した「下処理の技術」を学び、それぞれ独自の工夫を凝らした店だった。
肉を美味しく食べる文化が、この地に根付き始めた証拠だ。
俺の店も順調に拡大し、今では隣の建物を買い取って別館にするほどになっていた。
今日は久しぶりの定休日。
俺は店の屋根に座り、沈みゆく夕日を眺めていた。
隣には、すっかり大きくなったアリアが座っている。
「ねえお兄ちゃん、あそこの煙、向かいの『満腹亭』さんかな?」
アリアが指差した先から、白い煙が上がっている。
かつて俺に嫌がらせをしてきたゴルドの店だ。彼は改心し、今ではプライドを捨てて俺に頭を下げ、肉の焼き方を教わりに来た。今では「厚切りステーキ丼」が名物となり、そこそこ繁盛しているらしい。
「そうだな。ゴルドのおっさん、最近はいい肉を仕入れてるらしいぞ」
「ふふっ、みんなお兄ちゃんの真似っこだね」
「いいさ。美味しいものが増えるのは、いいことだ」
俺は目を細めた。
前世で俺が目指していたのは「日本一の焼肉チェーン」だった。それは数字との戦いであり、他店を蹴落とす競争だった。
でも今は違う。
俺が目指すのは「世界一肉を愛する世界」を作ることだ。
知識を独占せず、広めることで、全体のレベルが上がる。そうすれば、もっと美味しい肉に出会える確率も上がる。巡り巡って、俺自身の幸せになるのだ。
「あ、そうだお兄ちゃん。さっき王都から手紙が来てたよ。ジャンさんから」
アリアが封筒を手渡してくれた。
中を開けると、達筆な文字でこう書かれていた。
『親愛なるテオドール殿へ。
先日、国王陛下に貴殿直伝のタレを使った宮廷風焼肉を献上したところ、大変なご寵愛を賜りました。
つきましては、次回の晩餐会のメインディッシュとして、貴殿を王宮へ招待したいとのこと。
断る権利はありませんよ。私の顔が立ちませんからね。
追伸:あのタレの隠し味、やっぱりハチミツだけではありませんよね?』
俺は思わず吹き出した。
王宮で焼肉か。七輪を持ち込んで、玉座の間を煙だらけにしたら、大臣たちはどんな顔をするだろうか。
想像するだけで楽しくなる。
「王都か……遠征も悪くないな」
「え? またどっか行くの?」
「ああ。今度は世界で一番偉い人たちに、本物の肉を食わせてくる」
俺は立ち上がり、大きく伸びをした。
風が、遠くの森から新しい季節の匂いを運んでくる。
まだ見ぬ食材、まだ見ぬ客、そしてまだ見ぬ笑顔が、俺を待っている。
俺の、そして俺たちの物語は、ここで終わりではない。
炭火が燃え続ける限り、この幸福な煙は世界中へと広がっていくのだから。
「さあ、帰ろうアリア。今日の晩ごはんは、試作の新作メニューだぞ」
「やったー! 早く早く!」
俺たちは屋根から飛び降り、温かな光が漏れる我が家へと走っていった。
その背中を、一番星が優しく見守っていた。
キルシェの町には、ある変化が起きていた。
夕暮れ時になると、町のあちこちから、あの独特の香ばしい煙が立ち上るようになったのだ。
『炭火焼肉・テオ』の成功を受けて、町にはいくつかの焼肉店がオープンした。
中には俺の店を真似ただけの粗悪な店もあったが、多くは俺が公開した「下処理の技術」を学び、それぞれ独自の工夫を凝らした店だった。
肉を美味しく食べる文化が、この地に根付き始めた証拠だ。
俺の店も順調に拡大し、今では隣の建物を買い取って別館にするほどになっていた。
今日は久しぶりの定休日。
俺は店の屋根に座り、沈みゆく夕日を眺めていた。
隣には、すっかり大きくなったアリアが座っている。
「ねえお兄ちゃん、あそこの煙、向かいの『満腹亭』さんかな?」
アリアが指差した先から、白い煙が上がっている。
かつて俺に嫌がらせをしてきたゴルドの店だ。彼は改心し、今ではプライドを捨てて俺に頭を下げ、肉の焼き方を教わりに来た。今では「厚切りステーキ丼」が名物となり、そこそこ繁盛しているらしい。
「そうだな。ゴルドのおっさん、最近はいい肉を仕入れてるらしいぞ」
「ふふっ、みんなお兄ちゃんの真似っこだね」
「いいさ。美味しいものが増えるのは、いいことだ」
俺は目を細めた。
前世で俺が目指していたのは「日本一の焼肉チェーン」だった。それは数字との戦いであり、他店を蹴落とす競争だった。
でも今は違う。
俺が目指すのは「世界一肉を愛する世界」を作ることだ。
知識を独占せず、広めることで、全体のレベルが上がる。そうすれば、もっと美味しい肉に出会える確率も上がる。巡り巡って、俺自身の幸せになるのだ。
「あ、そうだお兄ちゃん。さっき王都から手紙が来てたよ。ジャンさんから」
アリアが封筒を手渡してくれた。
中を開けると、達筆な文字でこう書かれていた。
『親愛なるテオドール殿へ。
先日、国王陛下に貴殿直伝のタレを使った宮廷風焼肉を献上したところ、大変なご寵愛を賜りました。
つきましては、次回の晩餐会のメインディッシュとして、貴殿を王宮へ招待したいとのこと。
断る権利はありませんよ。私の顔が立ちませんからね。
追伸:あのタレの隠し味、やっぱりハチミツだけではありませんよね?』
俺は思わず吹き出した。
王宮で焼肉か。七輪を持ち込んで、玉座の間を煙だらけにしたら、大臣たちはどんな顔をするだろうか。
想像するだけで楽しくなる。
「王都か……遠征も悪くないな」
「え? またどっか行くの?」
「ああ。今度は世界で一番偉い人たちに、本物の肉を食わせてくる」
俺は立ち上がり、大きく伸びをした。
風が、遠くの森から新しい季節の匂いを運んでくる。
まだ見ぬ食材、まだ見ぬ客、そしてまだ見ぬ笑顔が、俺を待っている。
俺の、そして俺たちの物語は、ここで終わりではない。
炭火が燃え続ける限り、この幸福な煙は世界中へと広がっていくのだから。
「さあ、帰ろうアリア。今日の晩ごはんは、試作の新作メニューだぞ」
「やったー! 早く早く!」
俺たちは屋根から飛び降り、温かな光が漏れる我が家へと走っていった。
その背中を、一番星が優しく見守っていた。
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