過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~

黒崎隼人

文字の大きさ
7 / 14

第6話「戦争と飢饉~領民を守れ~」

しおりを挟む
 ヴァルド伯爵との一件が片付いてからしばらく、ローレンツ領には穏やかな日々が続いていた。魔導稲の成功で、我が領地の食糧生産能力は異次元のレベルに達していた。その富は領民に還元され、誰もが笑って暮らせる、理想郷のような場所になりつつあった。
 だが、そんな平和は、突如として終わりを告げる。

「速報!西の隣国、ガルニア帝国が我が王国に宣戦布告!国境付近で、大規模な戦闘が開始された模様!」

 王都から届けられた急報に、屋敷は緊張に包まれた。ガルニア帝国は、好戦的で知られる軍事大国だ。王国全土が、戦争の渦に巻き込まれようとしていた。
 戦争が始まってすぐに、王国から各領地へ通達が出された。それは「食糧徴発令」。戦争を遂行するため、各領地は保有する食糧の七割を軍に供出しろという、過酷な命令だった。

「七割だと……!?そんなことをすれば、領民たちが冬を越せずに飢え死にしてしまう!」

 ガレンが怒りに声を震わせる。他の領地も、似たような状況だろう。今年の収穫だけで、自分たちの分と軍に供出する分の両方をまかなうのは、ほぼ不可能だ。
 王国の上層部は、兵士たちの食糧を確保するため、国民の犠牲もやむなしと考えているのだ。

「ケンイチ様、どうしますか?このままでは……」

 シルヴィアが、不安そうな顔で俺を見る。領民たちも、自分たちの食糧が奪われるのではないかと怯えていた。

 俺は、一晩考え抜いた。そして、決断した。

「国への供出は、行う。だが、領民は一人たりとも飢えさせない」

「しかし、どうやって……?」

 俺は、領地の地図を広げ、ある一点を指さした。それは、領地の外れにある、古くから使われていない大洞窟だった。

「ここに、『隠し倉庫』を作るんだ」

 俺の計画はこうだ。まず、魔導稲の圧倒的な生産力をフル活用し、短期間で追加の収穫を行う。表向きの倉庫には、徴発令に従うだけの食糧を置き、残りの大部分を、あの洞窟に運び込んで隠すのだ。
 幸い、魔導稲は二期作、三期作が容易だ。今から急げば、冬が来る前に十分な量を確保できる。

「それは、国を欺く行為です。もし見つかれば、反逆罪に問われますぞ!」

 ガレンが懸念を示す。確かに、リスクの高い賭けだった。

「分かっている。だが、俺は領主だ。国に忠誠を誓う前に、まず領民の命を守る義務がある。それに、腹が減っては戦はできぬ、だろ?兵士たちを飢えさせるわけにもいかない。だから、両方救うんだよ」

 俺の覚悟に、シルヴィアもガレンも、そして領民たちも頷いてくれた。
 計画は、極秘裏に進められた。昼間は皆で追加の収穫作業に汗を流し、夜になると、収穫した米や野菜を密かに洞窟へと運び込む。洞窟の入り口は、巧妙に偽装され、外からはただの岩壁にしか見えないようにした。

 数週間後、国の徴発官がローレンツ領にやってきた。彼は、俺たちが差し出した食糧の量を見て、満足げに頷いた。

「うむ。ローレンツ子爵領は、実に協力的でよろしい。他の領地は、渋るばかりで困っていたところだ」

 徴発官は、ローレンツ領の『表向きの』備蓄に全く疑いを抱かなかった。まさか、その何倍もの食糧がすぐ近くの洞窟に隠されているとは、夢にも思わなかっただろう。

 戦争は、長引いた。
 王国軍は善戦するも、帝国軍の物量に苦戦を強いられる。そして、懸念していた事態が起きた。国内の食糧不足だ。
 多くの領地が、備蓄のほとんどを徴発されたせいで、深刻な飢饉に見舞われたのだ。餓死者が出たという悲しい知らせが、次々と舞い込んでくる。王都ですら、食糧価格が高騰し、貧しい人々はパン一つ買うのもままならない状況だった。

 そんな中、ローレンツ領だけは、まるで別世界だった。
 隠し倉庫のおかげで、俺たちの食卓からは笑顔が消えることはなかった。それどころか、俺たちは余剰分の食糧を使って、近隣の飢えに苦しむ村へ、密かに支援まで行っていた。
 もちろん、公になれば問題になる。俺たちは、カールの協力のもと、行商人を装って、食糧を困っている人々に届けたのだ。

 やがて、長い冬が終わり、春が訪れる頃、戦争は終結した。アルフォンス王太子の巧みな外交手腕により、王国はガルニア帝国と有利な条件で和議を結ぶことに成功したのだ。

 戦争は終わった。しかし、王国が受けた傷跡は深かった。特に、飢饉による被害は甚大だった。
 そんな中で、一つの噂が王国中に広まり始めた。
「ローレンツ子爵領では、餓死者が一人も出なかったらしい」
「それどころか、周辺の村を助けていたそうだ」

 初めは誰もが信じなかった。だが、事実だと分かると、賞賛の声が巻き起こった。
 戦争と飢饉という国難において、自らの危険を顧みず、民を守り抜いた領主がいる。その名は、ケンイチ・ローレンツ。「耕作貴族」の名は、今や英雄譚として、吟遊詩人によって歌われるまでになっていた。

 この一件で、ローレンツ領の名声は、不動のものとなった。
 そして、アルフォンス王太子は、この未曾有の危機を乗り越えた俺の「農業技術」と「指導力」に、改めて注目することになる。
 王太子からの呼び出し。それは、俺を新たなステージへと導く、大きな転機の前触れだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました

黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。 これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

離婚と追放された悪役令嬢ですが、前世の農業知識で辺境の村を大改革!気づいた元夫が後悔の涙を流しても、隣国の王子様と幸せになります

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢リセラは、夫である王子ルドルフから突然の離婚を宣告される。理由は、異世界から現れた聖女セリーナへの愛。前世が農業大学の学生だった記憶を持つリセラは、ゲームのシナリオ通り悪役令嬢として処刑される運命を回避し、慰謝料として手に入れた辺境の荒れ地で第二の人生をスタートさせる! 前世の知識を活かした農業改革で、貧しい村はみるみる豊かに。美味しい作物と加工品は評判を呼び、やがて隣国の知的な王子アレクサンダーの目にも留まる。 「君の作る未来を、そばで見ていたい」――穏やかで誠実な彼に惹かれていくリセラ。 一方、リセラを捨てた元夫は彼女の成功を耳にし、後悔の念に駆られ始めるが……? これは、捨てられた悪役令嬢が、農業で華麗に成り上がり、真実の愛と幸せを掴む、痛快サクセス・ラブストーリー!

処理中です...