13 / 14
第12話「そして、未来へ~ローレンツ領の明日~」
しおりを挟む
邪神との戦いから、一年が過ぎた。
あの最終決戦の後、王国は驚異的な速さで復興を遂げていた。その原動力となったのは、言うまでもなく「農業」だ。
俺たちが守り抜いた月光麦の種は、王国全土に配布された。その浄化の力で、瘴気に汚染された大地は次々と蘇り、大旱魃で失われた緑が、再び王国を覆い尽くしていった。
俺が提唱した「魔法と科学の融合農業」は、もはや誰も反対する者はおらず、国家プロジェクトとして力強く推進された。改心したヴァルド伯爵も、今では一番の推進役として、俺の右腕となって働いてくれている。人は、変われるものらしい。
そして、俺たちのローレンツ領。ここはもはや、ただの一貴族の領地ではなかった。
「ローレンツ農業連合国」
いつしか、人々はそう呼ぶようになっていた。邪神との戦いの中で受け入れた多くの難民たちは、そのまま領地に定住することを選んだ。ドワーフの鉱山都市、エルフが暮らす森の集落、獣人たちの牧草地帯。様々な種族が、それぞれの文化を尊重しながら、農業という共通の目的のもとに共存する、新しい国家の形がそこにはあった。
俺は、その連合国の初代代表に選ばれたが、そんな仰々しい肩書は性に合わない。相変わらず、皆からは「ケンイチ様」とか、「耕作貴族様」と呼ばれている。
王国からの独立という形になったが、アルフォンス王太子――今や国王陛下となった彼との友好関係は揺らいでいない。ローレンツ農業連合国は、王国にとって最も重要な食糧供給地であり、不可欠なパートナーとして、新しい関係を築いていた。
シルヴィアは、神殿騎士団の再編を国王から依頼されたが、それを固辞し、俺の側に残ることを選んだ。「私の守るべきものは、この土地にありますから」と、はにかみながら言う彼女の頬は、少し赤かった。
ガレンは、連合国の警備隊総長として、多種族が暮らすこの国の治安維持に奔走している。彼の剣もクワも、今やこの国を守るために振るわれている。
カールは、連合国の商務長官だ。彼の商才は、俺たちの作る農作物を世界中に広め、連合国に莫大な富をもたらしていた。「いやあ、耕作貴族様と組んだのが、生涯で一番の儲け話でしたな!」と、彼は今日も笑っている。
俺たちの領地は、世界で最も豊かで、平和な国になった。
だが、そんな大きな変化の中でも、俺自身の生活は、ほとんど変わっていない。
「ケンイチ様、また畑ですか?今日は国王陛下との会談が……」
「ああ、シルヴィア、すまん。このカブの出来が気になってな。もうちょっとだけ」
俺は、新品種のカブの葉についた朝露を指で拭いながら、その成長具合を確かめる。ふかふかの黒い土の匂い、太陽の光、心地よい風。ここが、俺の原点であり、俺が一番落ち着ける場所だ。
貴族として国を動かすことよりも、百姓として土を耕している方が、どうにもしっくりくる。
俺は空を見上げた。どこまでも続く、青い空と緑の大地。
この世界に来て、絶望の淵から始まった俺の人生。
だが、たくさんの仲間と出会い、領民たちと力を合わせることで、こんなにも素晴らしい未来を築くことができた。
俺は、これからも「耕作貴族」として生きていく。
この愛すべき土地で、最高の作物を作り、大切な人たちと笑いながら。
「さて、と。今日の会談が終わったら、あそこの畑に新しい堆肥を入れないとだな」
俺はクワを肩に担ぎ、未来へと続く道を、力強く歩き始めた。
あの最終決戦の後、王国は驚異的な速さで復興を遂げていた。その原動力となったのは、言うまでもなく「農業」だ。
俺たちが守り抜いた月光麦の種は、王国全土に配布された。その浄化の力で、瘴気に汚染された大地は次々と蘇り、大旱魃で失われた緑が、再び王国を覆い尽くしていった。
俺が提唱した「魔法と科学の融合農業」は、もはや誰も反対する者はおらず、国家プロジェクトとして力強く推進された。改心したヴァルド伯爵も、今では一番の推進役として、俺の右腕となって働いてくれている。人は、変われるものらしい。
そして、俺たちのローレンツ領。ここはもはや、ただの一貴族の領地ではなかった。
「ローレンツ農業連合国」
いつしか、人々はそう呼ぶようになっていた。邪神との戦いの中で受け入れた多くの難民たちは、そのまま領地に定住することを選んだ。ドワーフの鉱山都市、エルフが暮らす森の集落、獣人たちの牧草地帯。様々な種族が、それぞれの文化を尊重しながら、農業という共通の目的のもとに共存する、新しい国家の形がそこにはあった。
俺は、その連合国の初代代表に選ばれたが、そんな仰々しい肩書は性に合わない。相変わらず、皆からは「ケンイチ様」とか、「耕作貴族様」と呼ばれている。
王国からの独立という形になったが、アルフォンス王太子――今や国王陛下となった彼との友好関係は揺らいでいない。ローレンツ農業連合国は、王国にとって最も重要な食糧供給地であり、不可欠なパートナーとして、新しい関係を築いていた。
シルヴィアは、神殿騎士団の再編を国王から依頼されたが、それを固辞し、俺の側に残ることを選んだ。「私の守るべきものは、この土地にありますから」と、はにかみながら言う彼女の頬は、少し赤かった。
ガレンは、連合国の警備隊総長として、多種族が暮らすこの国の治安維持に奔走している。彼の剣もクワも、今やこの国を守るために振るわれている。
カールは、連合国の商務長官だ。彼の商才は、俺たちの作る農作物を世界中に広め、連合国に莫大な富をもたらしていた。「いやあ、耕作貴族様と組んだのが、生涯で一番の儲け話でしたな!」と、彼は今日も笑っている。
俺たちの領地は、世界で最も豊かで、平和な国になった。
だが、そんな大きな変化の中でも、俺自身の生活は、ほとんど変わっていない。
「ケンイチ様、また畑ですか?今日は国王陛下との会談が……」
「ああ、シルヴィア、すまん。このカブの出来が気になってな。もうちょっとだけ」
俺は、新品種のカブの葉についた朝露を指で拭いながら、その成長具合を確かめる。ふかふかの黒い土の匂い、太陽の光、心地よい風。ここが、俺の原点であり、俺が一番落ち着ける場所だ。
貴族として国を動かすことよりも、百姓として土を耕している方が、どうにもしっくりくる。
俺は空を見上げた。どこまでも続く、青い空と緑の大地。
この世界に来て、絶望の淵から始まった俺の人生。
だが、たくさんの仲間と出会い、領民たちと力を合わせることで、こんなにも素晴らしい未来を築くことができた。
俺は、これからも「耕作貴族」として生きていく。
この愛すべき土地で、最高の作物を作り、大切な人たちと笑いながら。
「さて、と。今日の会談が終わったら、あそこの畑に新しい堆肥を入れないとだな」
俺はクワを肩に担ぎ、未来へと続く道を、力強く歩き始めた。
35
あなたにおすすめの小説
【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~
Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。
三男。継承権は遠い。期待もされない。
——最高じゃないか。
「今度こそ、のんびり生きよう」
兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。
静かに暮らすつもりだった。
だが、彼には「構造把握」という能力があった。
物事の問題点が、図解のように見える力。
井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。
作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。
気づけば——領地が勝手に発展していた。
「俺ののんびりライフ、どこ行った……」
これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
過労死して転生したら『万能農具』を授かったので、辺境でスローライフを始めたら、聖獣やエルフ、王女様まで集まってきて国ごと救うことになりました
黒崎隼人
ファンタジー
過労の果てに命を落とした青年が転生したのは、痩せた土地が広がる辺境の村。彼に与えられたのは『万能農具』という一見地味なチート能力だった。しかしその力は寂れた村を豊かな楽園へと変え、心優しきエルフや商才に長けた獣人、そして国の未来を憂う王女といった、かけがえのない仲間たちとの絆を育んでいく。
これは一本のクワから始まる、食と笑い、もふもふに満ちた心温まる異世界農業ファンタジー。やがて一人の男のささやかな願いが、国さえも救う大きな奇跡を呼び起こす物語。
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
離婚と追放された悪役令嬢ですが、前世の農業知識で辺境の村を大改革!気づいた元夫が後悔の涙を流しても、隣国の王子様と幸せになります
黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢リセラは、夫である王子ルドルフから突然の離婚を宣告される。理由は、異世界から現れた聖女セリーナへの愛。前世が農業大学の学生だった記憶を持つリセラは、ゲームのシナリオ通り悪役令嬢として処刑される運命を回避し、慰謝料として手に入れた辺境の荒れ地で第二の人生をスタートさせる!
前世の知識を活かした農業改革で、貧しい村はみるみる豊かに。美味しい作物と加工品は評判を呼び、やがて隣国の知的な王子アレクサンダーの目にも留まる。
「君の作る未来を、そばで見ていたい」――穏やかで誠実な彼に惹かれていくリセラ。
一方、リセラを捨てた元夫は彼女の成功を耳にし、後悔の念に駆られ始めるが……?
これは、捨てられた悪役令嬢が、農業で華麗に成り上がり、真実の愛と幸せを掴む、痛快サクセス・ラブストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる