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第一章 偽りの聖女と絶望の追放宣告
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「本日をもって、リナ・オーウェンとの婚約を破棄する! そして、『偽物の聖女』であるお前を、瘴気の辺境へ追放することに処す!」
玉座の間で高らかに響き渡ったのは、私の婚約者である第二王子アラン殿下の声でした。金の髪を輝かせ、美しい顔を怒りで歪ませた彼が指さす先には、みすぼらしいドレスを着た私が、ただ一人、立っていました。
周囲の貴族たちは、私に侮蔑の視線を投げかけ、ひそひそと嘲笑の言葉を交わしています。
「やはり偽物だったのね」
「エマ様こそが真の聖女様だわ」
アラン殿下の隣には、私の異母妹であるエマが、心配そうな表情を浮かべて寄り添っています。レースとフリルで飾られた豪奢なドレスを身にまとい、庇護欲をそそる可憐な少女。その潤んだ瞳が、ちらりと私を見て、勝ち誇ったように細められたのを、私は見逃しませんでした。
「アラン様、お待ちください! お姉様は、決してそのような……」
「エマ、お前は優しすぎる。こんな女を庇う必要はない。お前の聖なる力こそが、この国を瘴気から守るのだ。それにひきかえ、この女の【浄化】は、グラス一杯の水を清めることすら満足にできん!」
アラン殿下の言葉は事実でした。私の【浄化】スキルは、聖女というにはあまりにも微力で、制御もままなりません。力を発動しようとすると、全身が疲労感に襲われ、時には気を失うことさえありました。だから私は、自分が出来損ないなのだと、ずっと信じてきました。両親からも使用人からも、そして婚約者であるアラン殿下からも、役立たずの「偽物」だと蔑まれ、虐げられてきました。
私が悪いのだ、と。私がもっとまともな聖女であったなら、と。そう自分に言い聞かせて、全ての仕打ちに耐えてきたのです。
「ですがアラン様、辺境への追放はあまりに……」
エマがか弱げに首を振ると、アラン殿下は彼女を抱きしめ、うっとりとした表情で言いました。
「これも国のためだ。瘴気が最も濃いあの土地は、罪人が行くにふさわしい。さあ、衛兵! この偽物をつまみ出せ!」
力強い腕に引きずられるようにして、私は玉座の間を後にしました。誰一人、私を助けてくれる人はいませんでした。大好きだったアラン殿下は、もう私のことなど見ていません。彼の瞳に映っているのは、愛らしい妹のエマだけ。
ああ、そうか。私は、捨てられたんだ。
婚約者にも、家族にも、国にも。
荷物一つ持つことを許されず、着の身着のままで粗末な馬車に放り込まれました。ガタン、と大きな音を立てて扉が閉まり、馬車が動き出します。遠ざかっていく王都の景色を、私は涙でにじむ瞳で、ただぼんやりと見つめていました。
もう、どうでもいい。私の人生は、今日、終わったのだから。
絶望だけを道連れに、馬車は死の土地、「瘴気の辺境」へと向かって、ひた走るのでした。
玉座の間で高らかに響き渡ったのは、私の婚約者である第二王子アラン殿下の声でした。金の髪を輝かせ、美しい顔を怒りで歪ませた彼が指さす先には、みすぼらしいドレスを着た私が、ただ一人、立っていました。
周囲の貴族たちは、私に侮蔑の視線を投げかけ、ひそひそと嘲笑の言葉を交わしています。
「やはり偽物だったのね」
「エマ様こそが真の聖女様だわ」
アラン殿下の隣には、私の異母妹であるエマが、心配そうな表情を浮かべて寄り添っています。レースとフリルで飾られた豪奢なドレスを身にまとい、庇護欲をそそる可憐な少女。その潤んだ瞳が、ちらりと私を見て、勝ち誇ったように細められたのを、私は見逃しませんでした。
「アラン様、お待ちください! お姉様は、決してそのような……」
「エマ、お前は優しすぎる。こんな女を庇う必要はない。お前の聖なる力こそが、この国を瘴気から守るのだ。それにひきかえ、この女の【浄化】は、グラス一杯の水を清めることすら満足にできん!」
アラン殿下の言葉は事実でした。私の【浄化】スキルは、聖女というにはあまりにも微力で、制御もままなりません。力を発動しようとすると、全身が疲労感に襲われ、時には気を失うことさえありました。だから私は、自分が出来損ないなのだと、ずっと信じてきました。両親からも使用人からも、そして婚約者であるアラン殿下からも、役立たずの「偽物」だと蔑まれ、虐げられてきました。
私が悪いのだ、と。私がもっとまともな聖女であったなら、と。そう自分に言い聞かせて、全ての仕打ちに耐えてきたのです。
「ですがアラン様、辺境への追放はあまりに……」
エマがか弱げに首を振ると、アラン殿下は彼女を抱きしめ、うっとりとした表情で言いました。
「これも国のためだ。瘴気が最も濃いあの土地は、罪人が行くにふさわしい。さあ、衛兵! この偽物をつまみ出せ!」
力強い腕に引きずられるようにして、私は玉座の間を後にしました。誰一人、私を助けてくれる人はいませんでした。大好きだったアラン殿下は、もう私のことなど見ていません。彼の瞳に映っているのは、愛らしい妹のエマだけ。
ああ、そうか。私は、捨てられたんだ。
婚約者にも、家族にも、国にも。
荷物一つ持つことを許されず、着の身着のままで粗末な馬車に放り込まれました。ガタン、と大きな音を立てて扉が閉まり、馬車が動き出します。遠ざかっていく王都の景色を、私は涙でにじむ瞳で、ただぼんやりと見つめていました。
もう、どうでもいい。私の人生は、今日、終わったのだから。
絶望だけを道連れに、馬車は死の土地、「瘴気の辺境」へと向かって、ひた走るのでした。
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