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番外編1:彼の視点『無愛想な騎士団長が、跪く時』
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初めてリナ・オーウェンという女を見た時、俺の感想は「哀れな女だ」というものだった。王都から追放され、生気のない瞳で、ただ死を待つようにうずくまっている。だが、その瞳の奥に、消えかかってはいるが、決して消えることのない芯の強さのような光を見た気がした。だから、ほんの気まぐれでパンを恵んでやった。それだけのはずだった。
だが、あの日、俺の認識は完全に覆された。
瘴気に倒れた子供を前に、彼女がためらいながらも力を解放した瞬間。世界が、金色の光で満たされた。あれは、ただの【浄化】などという生易しいものではない。瘴気を、その存在ごと消滅させる、神の御業。古文書でしか見たことのない、伝説の【超過浄化】。
衝撃と共に、歓喜が腹の底から湧き上がってきた。こんな奇跡が、まだこの世に存在したのか。そして、それを宿しているのが、あの「偽物」と蔑まれていたか弱い少女だという事実に、俺の心は激しく揺さぶられた。
彼女を守らねばならない。直感的にそう思った。
それは、彼女の力が国益になるから、という打算だけではなかった。あんなにも強大な力を持ちながら、それに怯え、自分を責める姿。枯れた畑が緑を取り戻した時、子供のように目を輝かせる純粋さ。村人に感謝され、はにかむように笑う優しさ。その全てが、俺の心を捉えて離さなかった。
俺が今まで守ってきたものは、国であり、民であり、騎士としての誇りだった。だが、今は違う。俺は、リナという一人の女を、この腕で守りたい。彼女の笑顔を、誰にも曇らせたくない。
森の主たる精霊が、彼女に祝福を与えた夜。月明かりの下で、彼女の存在そのものが奇跡なのだと確信した。もう、この気持ちを抑えることはできない。
「お前を愛している」
柄にもない言葉が、自然と口からこぼれた。俺の告白に、涙を流して頷いてくれた彼女を抱きしめた時、俺は心に誓った。
この女こそが、俺が生涯をかけて跪く、ただ一人の主君なのだ、と。
無愛想な騎士団長が、初めて知った愛という感情。それは、何よりも温かく、俺の世界を鮮やかに彩ってくれる、最高の宝物だった。
だが、あの日、俺の認識は完全に覆された。
瘴気に倒れた子供を前に、彼女がためらいながらも力を解放した瞬間。世界が、金色の光で満たされた。あれは、ただの【浄化】などという生易しいものではない。瘴気を、その存在ごと消滅させる、神の御業。古文書でしか見たことのない、伝説の【超過浄化】。
衝撃と共に、歓喜が腹の底から湧き上がってきた。こんな奇跡が、まだこの世に存在したのか。そして、それを宿しているのが、あの「偽物」と蔑まれていたか弱い少女だという事実に、俺の心は激しく揺さぶられた。
彼女を守らねばならない。直感的にそう思った。
それは、彼女の力が国益になるから、という打算だけではなかった。あんなにも強大な力を持ちながら、それに怯え、自分を責める姿。枯れた畑が緑を取り戻した時、子供のように目を輝かせる純粋さ。村人に感謝され、はにかむように笑う優しさ。その全てが、俺の心を捉えて離さなかった。
俺が今まで守ってきたものは、国であり、民であり、騎士としての誇りだった。だが、今は違う。俺は、リナという一人の女を、この腕で守りたい。彼女の笑顔を、誰にも曇らせたくない。
森の主たる精霊が、彼女に祝福を与えた夜。月明かりの下で、彼女の存在そのものが奇跡なのだと確信した。もう、この気持ちを抑えることはできない。
「お前を愛している」
柄にもない言葉が、自然と口からこぼれた。俺の告白に、涙を流して頷いてくれた彼女を抱きしめた時、俺は心に誓った。
この女こそが、俺が生涯をかけて跪く、ただ一人の主君なのだ、と。
無愛想な騎士団長が、初めて知った愛という感情。それは、何よりも温かく、俺の世界を鮮やかに彩ってくれる、最高の宝物だった。
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