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第5話「誇りを失った鍛冶師」
突如現れた獣人の男は、身の丈ほどもある巨大な戦斧(バトルアックス)を軽々と肩に担いでいた。
その背中はまるで壁のように分厚く、頼もしい。
「あんたは……誰だ?」
俺が問いかけると男は面倒くさそうにこちらを振り返った。
鋭い眼光が俺とリリアを射抜く。
「バルガスだ。ここで寝床を借りてるだけの、ただの冒険者だよ。……それより、てめえらこそ俺の昼寝を邪魔したんだ。どう落とし前をつけてくれる?」
ぶっきらぼうな口調だが敵意は感じられない。
それよりも目の前のゴーレムだ。
「話は後だ!あれをなんとかしないと!」
俺が叫ぶとバルガスと呼ばれた男は「ちっ」と舌打ち一つして、ゴーレムに向き直った。
「雑魚のくせにデカいツラしやがって。五月蠅(うるせ)えんだよ」
次の瞬間、バルガスの姿が掻き消えたように見えた。
実際には常人離れした速度でゴーレムの懐に潜り込み、その巨大な戦斧をフルスイングしたのだ。
ゴッッ!!!
鈍い肉を叩き潰すような音が響く。
戦斧は岩でできたゴーレムの脚を、まるで豆腐のようにあっさりと断ち割った。
バランスを失い前のめりに倒れ込むゴーレム。
バルガスはその背中に飛び乗ると、返す刃で首のあたりにあるコア、魔石を狙って戦斧を振り下ろした。
キィィィン!
しかしコアを覆う装甲は他の部位よりも遥かに硬いらしく、甲高い音を立てて弾かれてしまう。
「ちっ、硬えな……!」
バルガスが悪態をつく。
その隙にゴーレムが腕を振り回し、バルガスを振り払おうとする。
危ない!
「リリア!援護を!」
「は、はい!」
俺は即座にゴーレムのコアの座標をリリアに伝える。
「右腕の付け根、関節部分!そこを狙え!」
リリアが放った雷撃が、正確にゴーレムの関節を撃ち抜く。
動きが一瞬止まったその隙を、バルガスは見逃さなかった。
「おう、嬢ちゃん、ナイスだ!」
彼は体勢を立て直すと、ありったけの力を込めて再びコアへと戦斧を叩きつけた。
ガッシャァァァン!
今度は装甲が砕け散る小気味よい音が響いた。
露出した魔石が砕け、ゴーレムは光の粒子となって崩れ落ちていく。
あっという間の出来事だった。
「……す、すごい」
俺とリリアは、その圧倒的な戦闘力を前にただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
バルガスは戦斧を肩に担ぎ直すと、ふうと一息ついた。
「これでまた静かに昼寝ができる」
「あの、助けてくれてありがとうございました。俺はレイン、こっちはリリアです」
俺が頭を下げると、バルガスは「別に、てめえらを助けたわけじゃねえ」とそっぽを向いた。
照れているのがなんとなく分かった。
「それより、お前さんが持ってるそいつ……」
バルガスの視線は俺が拾った錆びついたハンマーに注がれていた。
彼はゆっくりと俺に近づくと、そのハンマーをひったくるように手に取った。
「……こいつは」
その表情は先ほどまでの面倒くさそうなものではなかった。
まるで旧友に再会したかのような、懐かしむような、そして少しだけ悲しそうな複雑な色を浮かべていた。
「このハンマー、知ってるんですか?」
俺の問いにバルガスはしばらく黙っていたが、やがて重い口を開いた。
「ああ。俺が作った」
「ええっ!?」
俺とリリアは思わず声を上げた。
こんなただならぬオーラを放つ道具を作るなんて、この男は一体何者なんだ。
「俺は、昔……鍛冶師をやっていた」
バルガスはぽつりぽつりと語り始めた。
彼はかつて王都でも五指に入ると言われたほどの凄腕の鍛冶師だったこと。
しかしある時、生涯最高傑作と信じた聖剣の製作に失敗し、依頼主であった騎士団長に「お前の剣はただのナマクラだ」と罵られたこと。
その一件でプライドをズタズタにされ槌を握れなくなり、鍛冶師をやめて冒険者として流れ着いたのがこの街だったこと。
「このハンマーは、その聖剣を打った時の相棒だ。失敗作と共にここに捨ててきた……二度と見たくもなかったからな」
自嘲気味に笑う彼の横顔は、その屈強な身体に似合わずひどく寂しそうに見えた。
誇りを失った天才。彼の時間はあの日から止まってしまっているのかもしれない。
『この人を、このままにはしておけない』
直感的にそう思った。
この人の力はこんな場所で燻っていていいものではない。
俺はアイテムポーチから一つの石を取り出した。
ダンジョンの未踏破エリアで見つけた、虹色に輝く鉱石だ。
鑑定スキルはないので正体は不明だが、ただの石ではないことだけは確かだ。
「バルガスさん。この石、何だか分かりますか?」
俺がその鉱石を差し出すと、バルガスの目が大きく見開かれた。
「こ、これは……『星屑のオリハルコン』……!?バカな、数百年前に掘り尽くされたはずの伝説の金属……!」
彼は震える手で鉱石を受け取ると、食い入るように見つめている。
その瞳には先ほどまでの無気力な光ではなく、職人としての鋭い輝きが宿っていた。
「おい、小僧。これをどこで……?」
「俺のスキルで見つけました。バルガスさん、もしよかったらこの鉱石で何か武具を作ってもらえませんか?」
俺は真っ直ぐに彼の目を見て言った。
「あなたの本当の居場所はこんな薄暗い鉱山じゃない。炎が燃え盛る、鍛冶場のはずだ」
バルガスの身体がびくりと震えた。
「俺は、もう……」
「あなたの作ったあのハンマー、錆びついていてもまだ力を失っていなかった。あなた自身もまだ終わっちゃいないはずだ」
俺の言葉にリリアも力強くうなずく。
「お願いします、バルガスさん!私たち、あなたの力が必要です!」
俺とリリアの言葉に、バルガスは何も言えずただ俯いてしまった。
長い沈黙が鉱山に満ちる。
やがて彼は顔を上げると、決意を固めた目で俺たちを見た。
「……分かった。もう一度だけ、槌を握ってみる。だが期待はするなよ。今の俺にまともなもんが作れる保証はねえ」
その言葉とは裏腹に、彼の口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。
失われた誇りを取り戻すための第一歩。
俺たちのパーティーに三人目の仲間が加わった瞬間だった。
その背中はまるで壁のように分厚く、頼もしい。
「あんたは……誰だ?」
俺が問いかけると男は面倒くさそうにこちらを振り返った。
鋭い眼光が俺とリリアを射抜く。
「バルガスだ。ここで寝床を借りてるだけの、ただの冒険者だよ。……それより、てめえらこそ俺の昼寝を邪魔したんだ。どう落とし前をつけてくれる?」
ぶっきらぼうな口調だが敵意は感じられない。
それよりも目の前のゴーレムだ。
「話は後だ!あれをなんとかしないと!」
俺が叫ぶとバルガスと呼ばれた男は「ちっ」と舌打ち一つして、ゴーレムに向き直った。
「雑魚のくせにデカいツラしやがって。五月蠅(うるせ)えんだよ」
次の瞬間、バルガスの姿が掻き消えたように見えた。
実際には常人離れした速度でゴーレムの懐に潜り込み、その巨大な戦斧をフルスイングしたのだ。
ゴッッ!!!
鈍い肉を叩き潰すような音が響く。
戦斧は岩でできたゴーレムの脚を、まるで豆腐のようにあっさりと断ち割った。
バランスを失い前のめりに倒れ込むゴーレム。
バルガスはその背中に飛び乗ると、返す刃で首のあたりにあるコア、魔石を狙って戦斧を振り下ろした。
キィィィン!
しかしコアを覆う装甲は他の部位よりも遥かに硬いらしく、甲高い音を立てて弾かれてしまう。
「ちっ、硬えな……!」
バルガスが悪態をつく。
その隙にゴーレムが腕を振り回し、バルガスを振り払おうとする。
危ない!
「リリア!援護を!」
「は、はい!」
俺は即座にゴーレムのコアの座標をリリアに伝える。
「右腕の付け根、関節部分!そこを狙え!」
リリアが放った雷撃が、正確にゴーレムの関節を撃ち抜く。
動きが一瞬止まったその隙を、バルガスは見逃さなかった。
「おう、嬢ちゃん、ナイスだ!」
彼は体勢を立て直すと、ありったけの力を込めて再びコアへと戦斧を叩きつけた。
ガッシャァァァン!
今度は装甲が砕け散る小気味よい音が響いた。
露出した魔石が砕け、ゴーレムは光の粒子となって崩れ落ちていく。
あっという間の出来事だった。
「……す、すごい」
俺とリリアは、その圧倒的な戦闘力を前にただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
バルガスは戦斧を肩に担ぎ直すと、ふうと一息ついた。
「これでまた静かに昼寝ができる」
「あの、助けてくれてありがとうございました。俺はレイン、こっちはリリアです」
俺が頭を下げると、バルガスは「別に、てめえらを助けたわけじゃねえ」とそっぽを向いた。
照れているのがなんとなく分かった。
「それより、お前さんが持ってるそいつ……」
バルガスの視線は俺が拾った錆びついたハンマーに注がれていた。
彼はゆっくりと俺に近づくと、そのハンマーをひったくるように手に取った。
「……こいつは」
その表情は先ほどまでの面倒くさそうなものではなかった。
まるで旧友に再会したかのような、懐かしむような、そして少しだけ悲しそうな複雑な色を浮かべていた。
「このハンマー、知ってるんですか?」
俺の問いにバルガスはしばらく黙っていたが、やがて重い口を開いた。
「ああ。俺が作った」
「ええっ!?」
俺とリリアは思わず声を上げた。
こんなただならぬオーラを放つ道具を作るなんて、この男は一体何者なんだ。
「俺は、昔……鍛冶師をやっていた」
バルガスはぽつりぽつりと語り始めた。
彼はかつて王都でも五指に入ると言われたほどの凄腕の鍛冶師だったこと。
しかしある時、生涯最高傑作と信じた聖剣の製作に失敗し、依頼主であった騎士団長に「お前の剣はただのナマクラだ」と罵られたこと。
その一件でプライドをズタズタにされ槌を握れなくなり、鍛冶師をやめて冒険者として流れ着いたのがこの街だったこと。
「このハンマーは、その聖剣を打った時の相棒だ。失敗作と共にここに捨ててきた……二度と見たくもなかったからな」
自嘲気味に笑う彼の横顔は、その屈強な身体に似合わずひどく寂しそうに見えた。
誇りを失った天才。彼の時間はあの日から止まってしまっているのかもしれない。
『この人を、このままにはしておけない』
直感的にそう思った。
この人の力はこんな場所で燻っていていいものではない。
俺はアイテムポーチから一つの石を取り出した。
ダンジョンの未踏破エリアで見つけた、虹色に輝く鉱石だ。
鑑定スキルはないので正体は不明だが、ただの石ではないことだけは確かだ。
「バルガスさん。この石、何だか分かりますか?」
俺がその鉱石を差し出すと、バルガスの目が大きく見開かれた。
「こ、これは……『星屑のオリハルコン』……!?バカな、数百年前に掘り尽くされたはずの伝説の金属……!」
彼は震える手で鉱石を受け取ると、食い入るように見つめている。
その瞳には先ほどまでの無気力な光ではなく、職人としての鋭い輝きが宿っていた。
「おい、小僧。これをどこで……?」
「俺のスキルで見つけました。バルガスさん、もしよかったらこの鉱石で何か武具を作ってもらえませんか?」
俺は真っ直ぐに彼の目を見て言った。
「あなたの本当の居場所はこんな薄暗い鉱山じゃない。炎が燃え盛る、鍛冶場のはずだ」
バルガスの身体がびくりと震えた。
「俺は、もう……」
「あなたの作ったあのハンマー、錆びついていてもまだ力を失っていなかった。あなた自身もまだ終わっちゃいないはずだ」
俺の言葉にリリアも力強くうなずく。
「お願いします、バルガスさん!私たち、あなたの力が必要です!」
俺とリリアの言葉に、バルガスは何も言えずただ俯いてしまった。
長い沈黙が鉱山に満ちる。
やがて彼は顔を上げると、決意を固めた目で俺たちを見た。
「……分かった。もう一度だけ、槌を握ってみる。だが期待はするなよ。今の俺にまともなもんが作れる保証はねえ」
その言葉とは裏腹に、彼の口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。
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だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。
カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。
些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。