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第6話「フロンティア、結成」
バルガスが仲間に加わり、俺たちは鉱山から街へと戻った。
彼の寝床だという鉱山の隅には最低限の生活道具しかなく、改めて彼の荒んだ生活ぶりがうかがえた。
街に戻った俺たちは早速バルガスのための鍛冶場を探すことにした。
幸いこの街には使われずに廃墟となっていた鍛冶工房があり、ギルドを通して格安で借り受けることができた。
「ふん、埃っぽいな。だが炉はまだ使えそうだ」
バルガスは久しぶりの仕事場を前に腕を組みながら満足そうにうなずいている。
その目には失われていた職人の光が完全に戻っていた。
「よし、お前ら、手伝え!まずはここの大掃除だ!」
バルガスの号令のもと俺とリリアも掃除を手伝う。
埃を払い蜘蛛の巣を取り、錆びついた道具を磨く。
三人で汗を流していると、なんだか本当の家族になったような温かい気持ちになった。
掃除が終わり工房が見違えるように綺麗になった頃、バルガスは俺が渡した『星屑のオリハルコン』を手に取りじっと見つめていた。
「レイン。この鉱石で、何を作る?」
「え?俺は、バルガスさんにお任せしますけど……」
「バカ野郎。道具ってのは使う奴の目的や戦い方に合わせて作るもんだ。お前はこれからどうなりたい?何がしたい?」
バルガスの真剣な問いに俺は少し考え込んだ。
俺がしたいこと。
それはもう誰にも見捨てられず、誰にも馬鹿にされず、自分の力で生きていくこと。
そしてリリアやバルガスのような素晴らしい仲間たちと一緒に、まだ誰も見たことのない景色を見に行くことだ。
「俺は……冒険者としてもっと上を目指したいです。このスキルと仲間たちがいれば、どこまでだって行ける気がする」
「そうか。ならお前に必要なのは剣でも槍でもねえな」
バルガスはニヤリと笑うと設計図を描き始めた。
そして数日後。
彼は工房の炎の前で、真っ赤に焼けたオリハルコンをハンマーで打ち続けていた。
カーン、カーン、というリズミカルな音が工房に響き渡る。
その姿はまるで音楽を奏でる指揮者のように、力強くそして美しかった。
そしてついに武具が完成した。
バルガスが俺に差し出したのは盾だった。
いや、ただの盾ではない。中央に大きな魔石が埋め込まれた、特殊な形状の腕輪のような盾だ。
「『道標の守護印(ガーディアン・コンパス)』だ。オリハルコン製だから並大抵の攻撃は防げる。だがこいつの真価は防御力じゃねえ」
バルガスは説明を続ける。
中央の魔石には俺のスキル【絶対領域把握】の能力を拡張する機能が組み込まれているらしい。
「こいつを装備すればお前のマッピング範囲が数倍に広がる。さらにマーキングできる数も増えるし、テレポートの魔力消費も抑えられるはずだ。パーティーの司令塔であるお前にとっちゃ最高の武器になるだろうよ」
「すごい……こんなものを……」
俺は腕に守護印を装着した。
ずっしりとした重みがバルガスの想いのように感じられる。
スキルを発動してみると、確かに今まで見えなかった街の隅々まで詳細なマップが脳内に展開された。
「バルガスさん、ありがとう!」
「礼なら結果で示せ」
次にバルガスはリリアに杖を差し出した。
銀色に輝く美しい装飾が施された杖だ。
「嬢ちゃんには『天雷の紡ぎ手(ヘブンズ・スピンドル)』だ。そいつはお前の強すぎる魔力を最適化し、コントロールしやすくする。今までみてえな無駄撃ちはなくなるし、呪文の詠唱も短縮できる」
「わあ……綺麗……!」
リリアは新しい杖を愛おしそうに抱きしめる。
早速杖を構えてみると、以前よりもスムーズに魔力が流れていくのが分かるらしい。
「ありがとうございます、バルガスさん!大切にします!」
「おう」
バルガスは照れくさそうに頭を掻いた。
彼の作った武具は俺とリリアの能力を何倍にも引き上げてくれる、まさに至高の一品だった。
「さて、と。新しい装備も手に入ったことだし、俺たちもそろそろ正式なパーティーとして名前を決めないか?」
俺が提案するとリリアがぱっと顔を輝かせた。
「いいですね!パーティー名!」
「ふん、どうでもいいがな」
口ではそう言いながらもバルガスの口元は緩んでいる。
「何かいい案はあるか?」
「えーっと、そうですね……。『雷光の戦斧』とか?」
「リリア、それはバルガスさんだけが目立ってるだろ」
「じゃあ、『地図と雷とハンマー』!」
「そのまんますぎる!」
三人で笑い合う。
こんな風に仲間と馬鹿な言い合いができる日が来るなんて、追放された時には思いもしなかった。
「……『フロンティア』、なんてどうだろう」
俺はふと思いついた名前を口にした。
「フロンティア?」
「ああ。未開拓地とか最前線って意味だ。俺たちはこれから誰も見たことのない場所へ行く。誰も成し遂げたことのない依頼を達成する。そんな常に最前線を切り拓いていくパーティーになりたいんだ」
俺の言葉にリリアとバルガスは顔を見合わせ、そして力強くうなずいた。
「いい名前じゃないか」
「はい!私、気に入りました!」
こうして俺たちのパーティー『フロンティア』は正式に結成された。
役立たずの地図製作者。
歩く災厄。
誇りを失った鍛冶師。
寄せ集めの訳アリばかりの三人だ。
だけどなぜか負ける気がしなかった。
俺たちはギルドへ向かいパーティー『フロンティア』の結成を届け出た。
そして壁に張り出された依頼の中から一枚の羊皮紙を手に取った。
「よし、記念すべき初仕事だ。目的地は、大都市アークライト。護衛対象の商隊を無事に送り届けるぞ!」
俺の号令に二人が力強く応える。
俺たちの伝説はここから始まる。
未だ真っ白な地図に、俺たちの足跡を刻み込む旅が今、幕を開けた。
彼の寝床だという鉱山の隅には最低限の生活道具しかなく、改めて彼の荒んだ生活ぶりがうかがえた。
街に戻った俺たちは早速バルガスのための鍛冶場を探すことにした。
幸いこの街には使われずに廃墟となっていた鍛冶工房があり、ギルドを通して格安で借り受けることができた。
「ふん、埃っぽいな。だが炉はまだ使えそうだ」
バルガスは久しぶりの仕事場を前に腕を組みながら満足そうにうなずいている。
その目には失われていた職人の光が完全に戻っていた。
「よし、お前ら、手伝え!まずはここの大掃除だ!」
バルガスの号令のもと俺とリリアも掃除を手伝う。
埃を払い蜘蛛の巣を取り、錆びついた道具を磨く。
三人で汗を流していると、なんだか本当の家族になったような温かい気持ちになった。
掃除が終わり工房が見違えるように綺麗になった頃、バルガスは俺が渡した『星屑のオリハルコン』を手に取りじっと見つめていた。
「レイン。この鉱石で、何を作る?」
「え?俺は、バルガスさんにお任せしますけど……」
「バカ野郎。道具ってのは使う奴の目的や戦い方に合わせて作るもんだ。お前はこれからどうなりたい?何がしたい?」
バルガスの真剣な問いに俺は少し考え込んだ。
俺がしたいこと。
それはもう誰にも見捨てられず、誰にも馬鹿にされず、自分の力で生きていくこと。
そしてリリアやバルガスのような素晴らしい仲間たちと一緒に、まだ誰も見たことのない景色を見に行くことだ。
「俺は……冒険者としてもっと上を目指したいです。このスキルと仲間たちがいれば、どこまでだって行ける気がする」
「そうか。ならお前に必要なのは剣でも槍でもねえな」
バルガスはニヤリと笑うと設計図を描き始めた。
そして数日後。
彼は工房の炎の前で、真っ赤に焼けたオリハルコンをハンマーで打ち続けていた。
カーン、カーン、というリズミカルな音が工房に響き渡る。
その姿はまるで音楽を奏でる指揮者のように、力強くそして美しかった。
そしてついに武具が完成した。
バルガスが俺に差し出したのは盾だった。
いや、ただの盾ではない。中央に大きな魔石が埋め込まれた、特殊な形状の腕輪のような盾だ。
「『道標の守護印(ガーディアン・コンパス)』だ。オリハルコン製だから並大抵の攻撃は防げる。だがこいつの真価は防御力じゃねえ」
バルガスは説明を続ける。
中央の魔石には俺のスキル【絶対領域把握】の能力を拡張する機能が組み込まれているらしい。
「こいつを装備すればお前のマッピング範囲が数倍に広がる。さらにマーキングできる数も増えるし、テレポートの魔力消費も抑えられるはずだ。パーティーの司令塔であるお前にとっちゃ最高の武器になるだろうよ」
「すごい……こんなものを……」
俺は腕に守護印を装着した。
ずっしりとした重みがバルガスの想いのように感じられる。
スキルを発動してみると、確かに今まで見えなかった街の隅々まで詳細なマップが脳内に展開された。
「バルガスさん、ありがとう!」
「礼なら結果で示せ」
次にバルガスはリリアに杖を差し出した。
銀色に輝く美しい装飾が施された杖だ。
「嬢ちゃんには『天雷の紡ぎ手(ヘブンズ・スピンドル)』だ。そいつはお前の強すぎる魔力を最適化し、コントロールしやすくする。今までみてえな無駄撃ちはなくなるし、呪文の詠唱も短縮できる」
「わあ……綺麗……!」
リリアは新しい杖を愛おしそうに抱きしめる。
早速杖を構えてみると、以前よりもスムーズに魔力が流れていくのが分かるらしい。
「ありがとうございます、バルガスさん!大切にします!」
「おう」
バルガスは照れくさそうに頭を掻いた。
彼の作った武具は俺とリリアの能力を何倍にも引き上げてくれる、まさに至高の一品だった。
「さて、と。新しい装備も手に入ったことだし、俺たちもそろそろ正式なパーティーとして名前を決めないか?」
俺が提案するとリリアがぱっと顔を輝かせた。
「いいですね!パーティー名!」
「ふん、どうでもいいがな」
口ではそう言いながらもバルガスの口元は緩んでいる。
「何かいい案はあるか?」
「えーっと、そうですね……。『雷光の戦斧』とか?」
「リリア、それはバルガスさんだけが目立ってるだろ」
「じゃあ、『地図と雷とハンマー』!」
「そのまんますぎる!」
三人で笑い合う。
こんな風に仲間と馬鹿な言い合いができる日が来るなんて、追放された時には思いもしなかった。
「……『フロンティア』、なんてどうだろう」
俺はふと思いついた名前を口にした。
「フロンティア?」
「ああ。未開拓地とか最前線って意味だ。俺たちはこれから誰も見たことのない場所へ行く。誰も成し遂げたことのない依頼を達成する。そんな常に最前線を切り拓いていくパーティーになりたいんだ」
俺の言葉にリリアとバルガスは顔を見合わせ、そして力強くうなずいた。
「いい名前じゃないか」
「はい!私、気に入りました!」
こうして俺たちのパーティー『フロンティア』は正式に結成された。
役立たずの地図製作者。
歩く災厄。
誇りを失った鍛冶師。
寄せ集めの訳アリばかりの三人だ。
だけどなぜか負ける気がしなかった。
俺たちはギルドへ向かいパーティー『フロンティア』の結成を届け出た。
そして壁に張り出された依頼の中から一枚の羊皮紙を手に取った。
「よし、記念すべき初仕事だ。目的地は、大都市アークライト。護衛対象の商隊を無事に送り届けるぞ!」
俺の号令に二人が力強く応える。
俺たちの伝説はここから始まる。
未だ真っ白な地図に、俺たちの足跡を刻み込む旅が今、幕を開けた。
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些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。