追放された鉄道オタクの俺、悪役令嬢と辺境で蒸気機関車を作ったら王国最強になってた件。

黒崎隼人

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第9話:慧眼なる商人

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 辺境の地に「鉄の道」が生まれ、蒸気で走る馬車が物資を運んでいる。その突拍子もない噂は、瞬く間に近隣の町々を駆け巡り、やがて一人の男の耳に届いた。

 男の名は、ゲルト・シュタイン。王国全土にその名を知られる、大手商会「シュタイン商会」の会頭である。抜け目のない性格で、常に利益の匂いを嗅ぎつけては、莫大な富を築き上げてきた男だ。彼は、その噂がただの与太話ではないと直感し、自らの目で確かめるべく、護衛だけを連れて辺境の地グライフェン村へとやってきた。

 ゲルトが村に到着した時、ちょうど蒸気機関車が満載の鉄鉱石を積んで、ホルツブルクの町へ向けて出発するところだった。大地を揺るがす駆動音、天高く昇る煙、そして馬車の何十倍もの貨物を牽引して走り去っていくその姿を目の当たりにしたゲルトは、驚きのあまり言葉を失った。

 彼の商人としての本能が、警鐘のように鳴り響く。これは、ただの新しい輸送手段ではない。世界の物流を、経済のあり方を、根底から覆しかねない『革命』である、と。

「…この事業を率いているのは、誰だ」

 ゲルトは、僕、アスター・フォン・アイゼンローデの元へと案内された。村の片隅に建てた粗末な事務所で、僕とゲルトは初めて対面した。彼は僕のあまりの若さと、没落貴族という身分に一瞬驚いた顔をしたが、すぐに老獪な商人の顔つきに戻った。

「アスター・フォン・アイゼンローデ殿。素晴らしい。実に素晴らしいものを見せていただいた」
 ゲルトは単刀直入に切り出した。
「馬車の10倍以上の物資を、3倍以上の速さで運ぶ。輸送コストは、おそらく10分の1以下になるでしょうな。この『鉄道』とやらの潜在能力は計り知れない。私は、あなた様の事業に出資したい」

 僕は彼の申し出を待っていた。鉄道を王都まで伸ばすには、莫大な資金が必要だ。個人の力ではどうにもならない。そして、シュタイン商会ほどの規模と影響力を持つ協力者を得られれば、これほど心強いことはない。

「出資、ありがたいお話です。ですが、ただ資金を頂くだけでは、いずれ事業の主導権をあなたに奪われてしまうでしょう」
 僕は冷静に返した。僕は彼と対等なビジネスパートナーとしての関係を望んでいた。

 僕の言葉に、ゲルトは面白そうに口角を上げた。
「ほう。肝の据わった若者だ。では、ご望みは?」

「共同で新会社を設立しましょう。その名も『アステリア鉄道』。僕が会社の代表として経営の実権を握り、あなたは筆頭株主として利益の配当を得る。そして、シュタイン商会の持つ情報網や販売ルートを、我が社のために活用していただく。これが僕の条件です」

 僕の提案は、彼にとって大胆不敵に聞こえただろう。一介の没落貴族が、王国随一の大商人と対等な契約を結ぼうというのだから。

 しかし、ゲルトはしばらく黙考した後、大きく頷いた。
「…良いでしょう。その条件、飲みました。あなたはただの夢想家ではない。自分の発明の価値を正確に理解し、それをどう事業に繋げるかという現実的な視点も持っておられる。あなたという人物にこそ、投資する価値がある」

 彼は慧眼の持ち主だった。目の前の機械だけでなく、それを作った人間性までも見抜いていたのだ。

 交渉は成立した。ゲルト・シュタインは、僕が提示した額の、さらに倍近い莫大な資金を「アステリア鉄道」に投じることを約束した。それは、アイゼンローデ家が背負っていた借金を全て返済しても、まだ余りあるほどの金額だった。

「ただし」とゲルトは付け加えた。「この事業、必ずや多くの敵を作るでしょう。特に、既存の輸送ギルドや、変化を嫌う保守的な貴族たち…。そして、あなたを追放した第二王子も、黙ってはいないはずだ。その覚悟は?」

「無論です」
 僕は迷いなく答えた。「敵が多いということは、それだけこの事業に価値がある証拠。僕はこの鉄道で、王国を変えてみせます」

 僕の答えに、ゲルトは満足そうに笑った。
「気に入った。あなたとなら、面白い夢が見られそうだ」

 こうして、辺境の地で生まれた小さな鉄道事業は、「アステリア鉄道」という名の、王国全土を揺るがす巨大プロジェクトへと発展する第一歩を踏み出したのだった。
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