追放された鉄道オタクの俺、悪役令嬢と辺境で蒸気機関車を作ったら王国最強になってた件。

黒崎隼人

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第14話:公爵令嬢の覚悟

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 王都への路線計画が貴族たちの猛反発にあい、暗礁に乗り上げていた頃、セレスティーナは一人、静かに覚悟を決めていた。
「アスター、私に王都へ行く時間をください。私が、お父様を…リリーエングランツ公爵を説得してみせます」

 彼女の実家であるリリーエングランツ公爵家は、王国でも指折りの名門だ。もし公爵が計画の支持に回れば、反対派の貴族たちも、その動向を無視することはできない。風向きを変える、大きな一手になる可能性があった。

 しかし、それは同時に大きな危険を伴うことでもあった。追放された身である彼女が、王都へ戻る。しかも、自分を切り捨てた父親と対峙するのだ。精神的な負担は計り知れない。

「セレス、無理はしないでくれ。君が辛い思いをするくらいなら…」
 僕が案じると、彼女は穏やかに首を振った。
「ううん、行かせて。これは、私の戦いでもあるの。いつまでも、あなたに守られてばかりではいられないわ」

 その瞳には、かつての気高い公爵令嬢としての輝きと、辺境での経験で得たしなやかな強さが宿っていた。僕は、彼女の決意を信じることにした。

 数日後、セレスはたった一人で王都へと向かった。リリーエングランツ公爵家の壮麗な屋敷の扉は、しかし、彼女に固く閉ざされていた。
「お嬢様がお戻りになるなど、聞いておりません。お帰りください」
 門番は、冷たく言い放つ。

 それでも彼女は諦めなかった。何時間も、雨に打たれながら門の前に立ち続けた。その姿は、やがて屋敷中の使用人たちの知るところとなり、ついに父である公爵の耳にも届いた。

「…書斎へ通せ」
 不機嫌極まりない声だった。

 久しぶりに再会した父、リリーエングランツ公爵は、娘に労いの言葉一つかけることなく、冷たく言い放った。
「何の用だ、セレスティーナ。追放されたお前が、今更この家の敷居をまたぐとは。我が家の顔にこれ以上泥を塗るつもりか」

「お父様」
 セレスは、父の冷たい視線をまっすぐに受け止め、深く頭を下げた。
「本日は、アステリア鉄道の建設計画について、お父様にご支援を賜りたく参上いたしました」

 公爵は、鼻で笑った。
「鉄道だと? 聞いているぞ。あの没落貴族の男の、戯言だろう。そんなもののために、私がこのリリーエングランツ家を危険に晒すとでも思ったか。王子殿下や、多くの貴族が反対しているのだぞ」

「戯言ではございません!」
 セレスは、顔を上げ、強い口調で反論した。「それは、この国の未来を創る偉大な事業です。辺境の村が、どれほど豊かになったかご存知ですか? 人々の生活が、どれほど向上したかご存知ですか?」

 彼女は、辺境で見てきたこと、経験してきたことを、熱を込めて語った。アスターの夢、鉄道がもたらす革命、そしてそこに生きる人々の笑顔。

 しかし、公爵の心は動かない。
「それがどうした。しょせんは辺境での話。伝統と秩序こそが、この王国を支えてきたのだ。アイゼンローデの男は、それを破壊しようとしている」

「彼こそが、王国の未来を創る方です!」
 セレスの声が、書斎に響き渡った。
「お父様は、いつまで過去の栄光と、目先の利権に囚われているのですか! 時代は変わろうとしています! このままでは、リリーエングランツ家も、王国も、時代の流れに取り残されてしまいます!」

 娘の、魂からの叫びだった。それは、かつて父親の言うことをただ聞いていただけの、従順な人形ではなかった。自分の意志で立ち、未来を見据える一人の人間としての、力強い言葉だった。

 公爵は、娘のあまりの変貌ぶりに絶句していた。追放され、うちひしがれていると思っていた娘が、これほどまでに強く、そして鋭い慧眼を宿して帰ってくるとは、夢にも思わなかったのだ。

 長い、重い沈黙が流れた。やがて、公爵は深く長い溜め息をつくと、疲れたように椅子に身を沈めた。
「…お前は、変わったな」
 その声には、冷たさではなく、戸惑いと、ほんのわずかな賞賛の色が混じっていた。

「わかった。…考えておこう。だが、期待はするな」

 それが、その日の父の最後の言葉だった。
 部屋を後にしたセレスの頬を、一筋の涙が伝った。それは悔し涙ではなかった。自分の全てをぶつけ、父の心をわずかでも揺さぶることができた、確かな手応えを感じていた。
 公爵令嬢の覚悟は、凝り固まった貴族社会という名の巨大な岩に、小さく、しかし確実な楔(くさび)を打ち込んだのだった。
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