追放されたので、心置きなく発酵ライフ始めます〜外れスキル【万能発酵】で荒野を極上の美食国家に作り変えてたら、いつの間にか独立してました〜

黒崎隼人

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第08話「王国の凋落と、灰色の絶望」

 僕たちが穣りの郷で、穏やかで豊かな日々を築いている頃。
 遠く離れた王都、そして僕を追放したマクガバン男爵領では、静かな、しかし確実な破滅が進行していた。
 その年の王国を襲ったのは、未曾有の大干ばつだった。
 春から夏にかけて、まとまった雨がほとんど降らず、大地は乾ききってひび割れた。川の水位は下がり、井戸は次々と枯れていく。
 農民たちは、なすすべもなく枯れていく作物を前に、天を仰いで嘆くしかなかった。
 追い打ちをかけるように、王国全土の畑に、奇妙な病が蔓延し始めた。
 作物の葉が、まるで灰をかぶったかのように白く変色し、やがてパリパリに乾いて枯れてしまうのだ。その病は、空気感染するのかと思うほどの速度で広がり、わずかに残っていた畑さえも全滅させた。
 人々はそれを、絶望と畏怖を込めて「灰枯病(はいがれびょう)」と呼んだ。
 教会の神官たちが、聖なる力で回復魔法を試みたが、病に蝕まれた作物が元に戻ることはなかった。王宮の魔術師たちが、原因を調査したが、魔力的な要因は見つけられず、首をひねるばかり。
 食料の生産が、完全に止まった。
 備蓄されていた穀物は、瞬く間に底をついていく。市場からパンが消え、野菜の値段は日に日に高騰していった。いや、もはや金でさえ、食料を手に入れることが難しくなっていた。
 当然、僕の実家であるマクガバン男爵領も例外ではなかった。
「父上! 領内の食料庫が、今月で空になります!」
 謁見の間。長兄であるアルフレッドが、焦燥に駆られた声で父に報告する。
「なんだと! 商人たちから買い付けはできんのか!」
「無理です! どこの領地も、自分のところで手一杯。むしろ、我が領の備蓄を狙って、他領から盗賊まがいの連中まで現れる始末です!」
 次兄のベルトルトも、苦虫を噛み潰したような顔で続く。
 玉座に座る父、マクガバン男爵は、ギリ、と歯噛みした。
「くそっ……! あの忌々しい灰枯病め! なぜだ、なぜ神は我らをお見捨てになるのだ!」
 かつて、僕を追放した時の威厳は見る影もない。ただ苛立ち、責任を天に転嫁するしか能のない、哀れな老人だった。
「……そういえば、父上」
 ふと、アルフレッドが思い出したように言った。
「あの役立たずの三男……カイはどうしておりますか。確か、北の荒野に追いやったはずですが」
 その名を聞いて、父は不愉快そうに眉をひそめる。
「あの腐敗スキルの小僧のことなど知るか! 今頃、あの不毛の地で飢え死にでもしているのが関の山だろう。奴のことなど、どうでもよいわ!」
「それもそうですね。あんな役立たず、生きているだけ食料の無駄ですな」
 兄たちは、そう言って下卑た笑いを浮かべた。
 彼らは知らない。自分たちが見捨て、嘲笑した弟が、今や自分たちの領地とは比べ物にならないほどの豊かさを手に入れていることなど、夢にも思っていなかった。
 飢えは、人々の心を荒ませる。
 領民たちは、わずかな食料を奪い合って争い、治安は日に日に悪化していった。貴族たちは、己の食料を確保することに躍起になり、民のことなど顧みない。
 不満と絶望が、国中に充満していく。
 王宮では、連日、対策会議が開かれていたが、有効な手立ては何一つ見つからなかった。
「陛下! このままでは、民の暴動が起きますぞ!」
「分かっておる! だが、どうしろというのだ! 天候ばかりはどうにもならん!」
 大臣たちと国王が、怒鳴り声を上げている。
 そんな、八方ふさがりの状況の中。
 一人の大臣が、おそるおそる口を開いた。
「……陛下。一つ、奇妙な噂が耳に入っておりまして……」
「噂だと? この期に及んで、くだらん話はよせ!」
「いえ、あるいは、我らの救いとなるやもしれぬ話でございます」
 大臣は、ゴクリと唾を飲み込み、続けた。
「なんでも、マクガバン男爵領の北の果て……あの『嘆きの荒野』と呼ばれた土地が、今や緑あふれる豊穣の地と化している、と」
「……何?」
 国王が、訝しげに眉を寄せる。
「馬鹿な。あの土地は、草木一本育たぬ呪われた場所のはず。何かの間違いであろう」
 他の大臣たちも、鼻で笑う。
 だが、報告を上げた大臣は、真剣な表情で首を横に振った。
「それが、どうやら真実のようでございます。行商人たちの間では、もはや公然の秘密。そこでは、どんな病にもかからない作物が山のように採れ、人々は飢えを知らず、幸福に暮らしている、と。その地は、今や『穣りの郷』と呼ばれているそうで……」
 謁見の間が、しんと静まり返った。
 誰もが、その信じがたい話に言葉を失っている。
 やがて、重い沈黙を破ったのは、国王だった。
「……調査団を派遣しろ」
 その声は、かすかに震えていた。
「今すぐにだ。もし、その噂が真実であるならば……何としてでも、その奇跡の地の秘密を手に入れるのだ」
 それは、藁にもすがるような、最後の希望だった。
 王国が、そして僕を追放した家族が、僕の存在に気づくのは、もはや時間の問題となっていた。
 僕たちの穣りの郷に、静かに、しかし確実に、欲望と嫉妬に満ちた暗い影が迫っていた。

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