追放されたので、心置きなく発酵ライフ始めます〜外れスキル【万能発酵】で荒野を極上の美食国家に作り変えてたら、いつの間にか独立してました〜

黒崎隼人

文字の大きさ
13 / 15

第12話「ファーメント公国、建国」

しおりを挟む
 国王との約束を果たし、僕は早速「灰枯病」の原因調査に取り掛かった。
 王都の郊外にある、病にやられた畑を訪れる。そこは、まるで生命の色を失ったかのような、灰色の世界が広がっていた。作物はすべて枯れ果て、地面には白い粉のようなものがびっしりと付着している。
 僕はその土を少し採取し、指先で感触を確かめた。そして、目を閉じ、意識を集中させる。
「――【万能発酵】」
 僕のスキルは、ミクロの世界を感知することができる。土の中に存在する、無数の微生物たちの声を聞くのだ。
『……いた』
 すぐに、原因は特定できた。
 これは、特殊なカビの一種だ。非常に繁殖力が強く、植物の養分を吸い尽くして枯死させてしまう。さらに、このカビは、土壌に存在する他の有益な微生物まで殺してしまい、土そのものを死んだ状態にしてしまうのだ。
 厄介なのは、このカビが非常に乾燥した環境を好むという点だ。今回の大干ばつが、このカビの爆発的な繁殖を後押ししたのだろう。
「原因は、強力な病原性を持つカビです。干ばつによって、土壌の微生物バランスが崩れ、このカビが異常繁殖したのが原因でしょう」
 僕がそう説明すると、同行していた王宮の魔術師たちは驚きの表情を浮かべた。
「カビだと? そんなもので、これほどの被害が……?」
「はい。ですが、原因が分かれば対策は立てられます」
 僕はニヤリと笑った。菌が相手なら、僕の独壇場だ。
 僕は穣りの郷から持ってきた、僕の畑の土を少量取り出した。この土の中には、僕のスキルによって活性化された、多種多様で非常に強力な微生物たちが生きている。
『さあ、君たちの出番だ。あの厄介者を、食べ尽くしてしまえ』
 僕は、郷の土に含まれる微生物の中から、特に例のカビに対して拮抗作用を持つ菌(トリコデルマ菌などに近い性質を持つ菌)を選び出し、【万能発酵】スキルで爆発的に増殖させる。
 そして、その菌を培養した液体を、灰色の畑に散布していった。
 すると、目に見える変化が起こり始めた。
 畑を覆っていた白いカビが、まるで雪が解けるように、端から少しずつ消えていくのだ。僕が散布した対抗菌たちが、病原菌を捕食し、分解しているのである。
「お、おお……! 枯れた畑が……!」
 魔術師たちが、信じられないものを見るように叫ぶ。
 数時間後には、畑を覆っていた灰色のカビは完全に消え失せ、代わりに黒々とした土の色が戻っていた。まだ作物は育たないが、大地は確かに、生命力を取り戻し始めていた。
「これで、この畑もいずれまた、作物を育てられるようになります。王国中の畑に、この対抗菌を散布すれば、灰枯病は収束するでしょう」
 僕の言葉に、魔術師たちはもはや尊敬の眼差しを向けていた。
 灰枯病の解決策が見つかったという知らせは、瞬く間に王国中に広まった。人々は歓喜し、僕の名前を「救世主」として讃えた。
 そして、約束通り、国王は正式な布告を出した。
 穣りの郷とその周辺地域を、王国の統治から完全に切り離し、カイ・マクガバンを君主とする独立国家として承認する、と。
 国号は、僕が名付けた。
 発酵を意味する「Fermentation」から取って、「ファーメント公国」。
 僕は、一夜にして、ただの追放された貴族の三男から、一国の主である公王となったのだ。
 建国を祝う式典が、僕たちの郷で盛大に開かれた。
 リシアやエルフたち、そして郷の住人たちが、僕を囲んで祝福してくれる。
「カイ様、おめでとうございます!」
「俺たちの国ができたんだ!」
 みんなの笑顔が、僕には何よりの宝物だった。
 式典には、国王からの祝賀使節団も訪れた。彼らは、僕たちの郷の豊かさと、そこに住む人々の幸福そうな表情を見て、改めて国王の決断が正しかったことを確信したようだった。
 その一方で、マクガバン家は悲惨な末路を辿っていた。
 僕という最大の切り札を失い、王国からの信用も失墜。灰枯病で荒れ果てた領地を立て直す力もなく、彼らの家は没落の一途を辿った。父と兄たちが、後悔と絶望の中でどう生きているのか、僕には知る由もなかったし、知りたいとも思わなかった。因果応報。ただ、それだけだ。
 式典の夜。僕は、月の光が降り注ぐ丘の上で、一人、建国されたばかりの自分の国を見下ろしていた。
「カイ様」
 優しい声に振り返ると、リシアが隣に立っていた。
「どうしたんだい? みんなと楽しまなくていいのか?」
「カイ様こそ。今日の主役ではありませんか」
 彼女はそう言って、僕の隣に静かに座った。
「なんだか、夢みたいでな。僕が、一国の主だなんて」
「夢などではありません。これは、カイ様がご自身の力で築き上げた、現実です」
 リシアの翠色の瞳が、まっすぐに僕を見つめる。
「私は、カイ様と出会えて、本当に幸せです。これからも、ずっと、あなたのおそばに……」
 そこまで言って、彼女は恥ずかしそうに顔を伏せた。その気持ちが、僕には痛いほど伝わってきた。
 僕は、彼女の細い手を、そっと握った。
「僕もだよ、リシア。君がいてくれて、本当に良かった。これからも、よろしく頼む」
 僕たちのファーメント公国は、まだ生まれたばかりの小さな国だ。
 でも、ここには最高の仲間たちがいる。最高の食材がある。そして、最高の笑顔がある。
 前世では、仕事に追われ、他者との温かい繋がりを知らずに死んでいった。
 でも、今生では違う。
 僕は、この大切な国を、愛する仲間たちと共に、平和で、豊かで、美味しいものにあふれた国にしていく。
 食卓にはいつも美味しい料理と笑顔があふれる、そんな幸福な未来を、僕はこの手で作り上げていくのだ。
 夜空に輝く満月が、僕たちの船出を、静かに祝福してくれているようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

追放先の辺境で前世の農業知識を思い出した悪役令嬢、奇跡の果実で大逆転。いつの間にか世界経済の中心になっていました。

緋村ルナ
ファンタジー
「お前のような女は王妃にふさわしくない!」――才色兼備でありながら“冷酷な野心家”のレッテルを貼られ、無能な王太子から婚約破棄されたアメリア。国外追放の末にたどり着いたのは、痩せた土地が広がる辺境の村だった。しかし、そこで彼女が見つけた一つの奇妙な種が、運命を、そして世界を根底から覆す。 前世である農業研究員の知識を武器に、新種の果物「ヴェリーナ」を誕生させたアメリア。それは甘美な味だけでなく、世界経済を揺るがすほどの価値を秘めていた。 これは、一人の追放された令嬢が、たった一つの果実で自らの運命を切り開き、かつて自分を捨てた者たちに痛快なリベンジを果たし、やがて世界の覇権を握るまでの物語。「食」と「経済」で世界を変える、壮大な逆転ファンタジー、開幕!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、 騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。 だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、 騎士団の解体と婚約破棄。 理由はただ一つ―― 「武力を持つ者は危険だから」。 平和ボケした王子は、 非力で可愛い令嬢を侍らせ、 彼女を“国の火種”として国外追放する。 しかし王国が攻められなかった本当の理由は、 騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。 追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、 軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。 ――そして一週間後。 守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。 これは、 「守る力」を理解しなかった国の末路と、 追放された騎士団長令嬢のその後の物語。

処理中です...