追放された【才能鑑定】スキル持ちの俺、Sランクの原石たちをプロデュースして最強へ

黒崎隼人

文字の大きさ
4 / 15

第3話「プロデューサーの腕の見せ所」

しおりを挟む
「で、プロデューサーさんよ。俺に相応しい舞台ってのは、一体どこにあるんだ?」
 ギルドへ戻る道すがら、リョウガが不遜な態度で尋ねてきた。司の後ろを腕を組んでついてくる姿は、どう見ても護衛というより借金取りだ。
「まあ、焦るな。まずは君の現状分析からだ」
 司はギルドの依頼掲示板の前に立つと、リョウガに向き直った。
「君の長所は、圧倒的な攻撃力と一対一での戦闘能力。短所は、協調性の欠如と、後先を考えない猪突猛進な戦い方。違うか?」
「……まあな」
 リョウガは悪びれる様子もなくうなずく。自覚はあるらしい。
「君のその戦い方では、単独で受けられる依頼には限界がある。パーティーを組んでもすぐに仲間割れを起こす。だから、いつまでたってもCランクから抜け出せずに燻っている」
「まさに、典型的な一匹狼タイプの社員だな。能力は高いが、チームプレーが苦手で組織に馴染めない。こういう人材をどう活かすかが、マネジメントの腕の見せ所だ」
 司は前世の経験を頭に思い浮かべながら、話を続けた。
「そこで、君への最初の課題だ。俺が君の能力を最大限に活かせる依頼を選んでやる。君は俺の指示にだけ従えばいい。それ以外のことは何も考えなくていい」
「てめえの指示、だと? 俺が、お前の命令を聞けってのか」
 リョウガの眉がぴくりと動く。早くも反抗的な態度だ。
「命令じゃない、提案だ。俺は君のトレーナーであり、マネージャーでもある。君を『剣聖』という高みへ導くための、最短ルートを示してやる。それに乗るか乗らないかは、君次第だ」
 司はあえて「剣聖」という言葉を使った。彼の才能限界値を口にすることで、その気にさせるための、ささやかな心理誘導だ。
「けんせい……」
 リョウガはその言葉を反芻し、ごくりと喉を鳴らす。やはり、彼自身も己の才能の底知れなさに気づいているのだろう。ただ、その伸ばし方が分からなかっただけなのだ。
「……わかったよ。そこまで言うなら、お前の言う通りにしてやる。で、どの依頼を受けるんだ?」
 リョウガがようやく折れたのを見て、司は掲示板に貼られた一枚の依頼書を指さした。
「これだ。『黒鉄の猪(アイアンボア)討伐依頼』。依頼主は近くの村の村長。ランクはC。君一人でも十分に達成可能な相手だ」
「はあ? アイアンボアだあ? そんなもん、俺一人で十分だろうが。もっと骨のあるやつはいねえのかよ」
 リョウガは不満を隠そうともしない。黒鉄の猪は、その名の通り鉄のように硬い皮を持つ猪の魔物だが、動きは鈍重で、リョウガほどの剣士なら苦戦する相手ではない。
「もちろん、ただ倒すだけじゃない。条件がある」
 司は人差し指を立てた。
「一つ、村の畑を一切荒らさせないこと。二つ、君自身も無傷で帰ってくること。そして三つ、できるだけ少ない手数で、最小限の動きで仕留めること」
「なんだそりゃ。面倒くせえな」
「これができないようでは、剣聖への道は程遠いぞ? ただ敵を力任せに斬り伏せるだけなら、ただの狂戦士だ。真の強者は、力と技を完璧にコントロールする」
 司の言葉に、リョウガはぐうの音も出ないようだった。彼は自分の戦い方がいかに荒削りで無駄が多いかを、本当は理解しているのだ。
「モチベーション管理の基本は、具体的な目標設定。漠然と『強くなれ』と言うのではなく、クリアすべき小さな課題を段階的に与えることで、成長を実感させ、意欲を引き出すんだ」
 人事コンサルタントとしての知識が、この世界でも見事に通用する手応えを感じていた。
 依頼書を剥がして受付に持って行くと、二人は早速、村へと向かった。
 村に着くと、村長が疲れきった顔で出迎えてくれた。話によると、夜な夜な黒鉄の猪が現れては、収穫間近の作物を食い荒らしていくらしい。
「あの魔物は全身が鎧のように硬くて、我々のクワやカマでは歯が立ちません。どうか、お願いいたします」
「任せてください」
 司は自信たっぷりにうなずいた。
 夜になり、月が空に昇る頃。畑に仕掛けた罠が、ガシャンと大きな音を立てた。
「来たな」
 物陰に潜んでいたリョウガが、大剣を握りしめる。見ると、体長三メートルはあろうかという巨大な猪が、罠にかかって暴れていた。その名の通り、全身が黒光りする金属質の皮で覆われている。
「よし、行くぜ!」
 リョウガが飛び出そうとするのを、司は手で制した。
「待て。課題を忘れたか? 最小限の動きで仕留めるんだ」
「ちっ、わーってるよ!」
 リョウガは悪態をつきながらも、はやる気持ちを抑えてゆっくりと猪に近づいていく。
 猪は罠にかかって動きが鈍っている。だが、その突進力は侮れない。リョウガは猪の動きを冷静に見極め、その周りを静かに旋回する。
「そうだ、リョウガ。力に頼るな。相手をよく観察しろ。どんな強固な鎧にも、必ず弱点はある」
 司は心の中で指示を送る。
 リョウガはまるで、司の声が聞こえているかのように、猪の弱点を探っていた。そして、一瞬の隙を見逃さなかった。猪が首を振った瞬間、わずかに剥き出しになった首の付け根。そこは、硬い皮で覆われていない、唯一の急所だ。
「そこだ!」
 司の叫びと、リョウガの動きはほぼ同時だった。
 踏み込みは一歩。剣閃は一筋。
 リョウガの大剣が月光を反射して煌めいたかと思うと、次の瞬間には猪の急所を正確に貫いていた。
 巨体が、悲鳴を上げる間もなく崩れ落ちる。
 それは、力任せの斬撃ではなく、一点にすべての力を集中させた、まさしく「技」と呼ぶにふさわしい一撃だった。
「……どうだ」
 リョウガが、少しだけ誇らしげに振り返る。その額には汗一つかいていない。
「ああ、見事だ。完璧だった」
 司は素直に賞賛の言葉を贈った。畑は全く荒れていない。リョウガも無傷。そして、たった一撃で仕留めてみせた。
「素晴らしい……! これほどの才能、やはり本物だ」
 リョウガは、与えられた課題を完璧にこなしただけでなく、その過程で自らの力の使い方を学び取ったのだ。
 村に戻ると、村長は涙を流して感謝し、約束の報酬に加えて、採れたての野菜まで持たせてくれた。
 帰り道、リョウガはいつになく無口だった。
「どうした? 何か不満でもあったか?」
 司が尋ねると、リョウガは少し照れくさそうに頭を掻いた。
「いや……なんつーか、初めてだ。こんな風に、誰かに感謝されたの」
 これまでは、魔物を倒しても街や物を壊して損害賠償を請求されることの方が多かったのだろう。
「それに、てめえの言う通りにしたら、なんだか、すげえ楽に勝てた」
「言っただろう? 俺は君を最強にすると」
 司は笑って答えた。
 これが、第一歩だ。彼に「成功体験」を積ませることで、司への信頼を勝ち取る。信頼関係こそが、育成の土台となる。
「開花条件は、信頼できる仲間のために剣を振るうこと……か」
 その相手が、いつか自分になればいい。司はそう願いながら、隣を歩く赤髪の剣士の横顔を見つめた。
 二人の奇妙な師弟関係、あるいはプロデューサーと所属タレントのような関係は、まだ始まったばかりだ。
 クロスロードの街の灯りが見えてきた頃、リョウガがぽつりとつぶやいた。
「なあ、次の依頼はなんだ?」
 その声には、もう以前のような苛立ちはなく、純粋な好奇心と期待が込められていた。司は、してやったりと口元を緩めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

「洗い場のシミ落とし」と追放された元宮廷魔術師。辺境で洗濯屋を開いたら、聖なる浄化の力に目覚め、呪いも穢れも洗い流して成り上がる

黒崎隼人
ファンタジー
「銀閃」と謳われたエリート魔術師、アルク・レンフィールド。彼は五年前、国家の最重要儀式で犯した一つの失敗により、全てを失った。誇りを砕かれ、「洗い場のシミ落とし」と嘲笑された彼は、王都を追われ辺境の村でひっそりと洗濯屋を営む。 過去の「恥」に心を閉ざし、ひまわり畑を眺めるだけの日々。そんな彼の前に現れたのは、体に呪いの痣を持つ少女ヒマリ。彼女の「恥」に触れた時、アルクの中に眠る失われたはずの力が目覚める。それは、あらゆる汚れ、呪い、穢れさえも洗い流す奇跡の力――「聖濯術」。 これは、一度は全てを失った男が、一枚の洗濯物から人々の心に染みついた悲しみを洗い流し、自らの「恥」をも乗り越えていく、ささやかで温かい再生の物語。ひまわりの咲く丘で、世界で一番優しい洗濯が、今始まる。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される

黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」 無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!? 自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。 窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!

追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーで「荷物持ち」として蔑まれ、全ての責任を押し付けられて追放された青年レオ。彼が持つスキル【アイテムボックス】は、誰もが「ゴミスキル」と笑うものだった。 しかし、そのスキルには「容量無限」「時間停止」「解析・分解」「合成・創造」というとんでもない力が秘められていたのだ。 全てを失い、流れ着いた辺境の村。そこで彼は、自分を犠牲にする生き方をやめ、自らの力で幸せなスローライフを掴み取ることを決意する。 超高品質なポーション、快適な家具、美味しい料理、果ては巨大な井戸や城壁まで!? 万能すぎる生産スキルで、心優しい仲間たちと共に寂れた村を豊かに発展させていく。 一方、彼を追放した勇者パーティーは、荷物持ちを失ったことで急速に崩壊していく。 「今からでもレオを連れ戻すべきだ!」 ――もう遅い。彼はもう、君たちのための便利な道具じゃない。 これは、不遇だった青年が最高の仲間たちと出会い、世界一の生産職として成り上がり、幸せなスローライフを手に入れる物語。そして、傲慢な勇者たちが自業自得の末路を辿る、痛快な「ざまぁ」ストーリー!

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

処理中です...