異世界転生した元・天下人の豊臣秀吉、前世の農業知識をフル活用して、痩せた土地を黄金の穀倉地帯に変えてみせます

黒崎隼人

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第6話「魔物襲来、戦場と化した黄金の畑」

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「百姓市場」は順調に成長し、我が村は近隣でも有名な“豊かな村”として知られるようになった。黄金色に輝く広大な田んぼは、村の誇りそのものじゃった。収穫祭を間近に控え、誰もが幸福感に満ち溢れていた、そんな夜のことだった。

 ジリリリリッ!

 村に設置した警戒用の鐘が狂ったように鳴り響いた。

「敵襲だ! 魔物が来たぞー!」

 見張り台からの絶叫に、村は一瞬でパニックに陥った。窓から外を見ると松明の明かりの向こうに、おびただしい数の影がうごめいているのが見えた。ゴブリンじゃ。緑色の肌をした小柄で獰猛な魔物の群れじゃった。

「くそっ、なぜこの村に!?」

 ギードが青い顔で叫ぶ。おそらく村の豊かさが奴らを呼び寄せたのじゃろう。豊作米の匂いか、市場の活気か。いずれにせよ奴らの目的は食料と略奪じゃ。

「皆、落ち着け! 女子供はギード様の屋敷へ! 男衆はクワやスキを持って広場に集まれ!」

 ワシは腹の底から大声を張り上げた。その声にはかつて幾万の兵を指揮した天下人の覇気が、自然と宿っていた。恐怖に震えていた村人たちはワシの声にハッと我に返り、指示通りに動き始める。

 広場に集まった男衆はせいぜい30人ほど。対するゴブリンは目算で100は超えている。しかも奴らは生まれながらの戦士。こちらは昨日まで土いじりしかしてこなかった農民じゃ。まともにぶつかれば結果は火を見るより明らかじゃ。

「ヒヨシ、どうするんだ!? このままじゃ皆殺しにされちまう!」

 鍛冶師のボルツが自作の頑丈な鎚を握りしめて叫ぶ。皆の顔に絶望の色が浮かんでいる。

 だがワシの心は不思議と冷静じゃった。

(戦は数だけでは決まらん。地の利、そして策じゃ)

 ワシは村の地図を頭に思い浮かべた。畑、水路、納屋、市場……すべてが武器になり得る。

「皆の衆、よく聞け! 我々は戦うのではない。奴らを“狩る”のじゃ!」

 ワシは矢継ぎ早に指示を飛ばした。

「まず村の入り口にある納屋の干し草に火をつけろ! 炎の壁で奴らの侵入経路を一つに絞る!」

「ボルツ! お前たちは市場の荷車をひっくり返して即席のバリケードを作れ!」

「マゴじいさん! 若い衆を連れて畑の灌漑用水路の堰を壊せ! 畑を泥沼に変えるんじゃ!」

 ワシの具体的な指示に、戸惑っていた村人たちの目に光が戻る。何をすればいいのかが分かれば人は動けるものじゃ。

 ゴブリンの群れはギャアギャアと奇声を上げながら、燃え盛る干し草の壁を避けてワシらが望んだ一本道から村へなだれ込んできた。その先には荷車で作ったバリケードが待ち構えている。

「今じゃ! 石を投げつけろ!」

 バリケードの陰から村人たちが一斉に石を投げる。大した威力はないが、先頭のゴブリンたちの足を止め混乱させるには十分じゃった。

「奴らがひるんだ隙に、水路へ誘い込むぞ!」

 ワシは数人の村人と共にわざとゴブリンに姿を見せ、畑の方へとおびき寄せた。獲物を見つけたと興奮したゴブリンたちが我先にと追いかけてくる。

 そして奴らが田んぼに足を踏み入れた瞬間じゃった。

「やれええええ!」

 マゴじいさんたちの手で堰が切られ、大量の水が一気に田んぼへ流れ込む。乾いていたはずの田んぼは、あっという間にぬかるんだ泥沼と化した。

「ギャッ!?」

 勢いよく走ってきたゴブリンたちは足を取られて次々と転倒し、泥の中でもがく。その動きは驚くほど鈍重になっていた。

「好機ぞ! 囲んで叩け!」

 ワシの号令一下、泥に慣れた村人たちがクワやスキを手にゴブリンたちを取り囲む。普段、土を耕すための道具が今や強力な武器となっていた。深く振り下ろされるクワはゴブリンの頭蓋を砕き、スキは泥にまみれた体を打ち据える。

 それはもはや一方的な蹂躙じゃった。戦い方を知らない農民でも地の利と連携さえあれば、歴戦の魔物とも渡り合える。

「戦の本質は“地形と連携”じゃ。これはいくさが始まる前からのワシの持論じゃよ」

 ワシは自らも備中クワを槍のように構え、泥の中でもがくゴブリンのリーダー格と思しき一匹に狙いを定めた。

「我が田を荒らす無礼者め! この豊臣秀吉が……いや、百姓ヒヨシが成敗してくれるわ!」

 一閃。クワの先端がゴブリンの喉を正確に貫いた。

 リーダーを失ったゴブリンたちは完全に統率を失い、我先にと逃げ出していく。村人たちは勝利の雄叫びを上げた。

 夜が明ける頃には村は静けさを取り戻していた。畑の一部は荒らされ怪我人も出たが、死者は一人もいない。奇跡的な勝利じゃった。

 村人たちは泥だらけのワシを英雄として担ぎ上げた。

「ヒヨシがいなかったら、俺たち今頃……」

「あんたはただの農民じゃない! まるで伝説の将軍様だ!」

 ワシは照れくさそうに頭をかいた。

「皆の力じゃよ。皆がワシの言葉を信じて、己の役目を果たしてくれたからじゃ」

 この日を境に村人たちのワシへの信頼は絶対的なものになった。そしてこの一件は思わぬ形でワシの運命を動かすことになる。

 村を救った農民がいる――その噂は風に乗って、遠く王都にまで届くことになるのじゃった。
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