『鑑定』がゴミだと勇者パーティを追放された俺、辺境で伝説の道具屋を開いたら、最強の女剣士と元聖女に懐かれて幸せなスローライフを満喫中

黒崎隼人

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第2章:辺境の町と、俺の新たな一歩

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 どれくらい路地裏で蹲っていたのだろうか。雨が止み、朝日が建物の隙間から差し込んできた頃、俺はふらふらと立ち上がった。全身ずぶ濡れで、寒さと空腹が限界だった。
 王都は、俺にとってあまりにも冷たい場所になってしまった。『太陽の剣』から追放された鑑定士、などという噂が広まれば、まともな仕事にありつけるはずもない。
(これから、どうすれば……)
 俺に残されたものは、着の身着のままの汚れた服と、俺自身の体だけ。そして、ガイが「ゴミスキル」と吐き捨てた、スキル『鑑定』。
 絶望的な状況だったが、不思議と涙は出なかった。それよりも、腹の底からじわじわと何かが湧き上がってくるのを感じた。それは、怒りというよりも、空虚な諦めに近い感情だったかもしれない。
(……死ぬわけにはいかない)
 こんなところで野垂れ死んで、ガイの嘲笑う顔を思い浮かべるのだけはごめんだった。
 俺は決意した。この王都を離れよう。そして、スキル『鑑定』を使って、なんとか日銭を稼いで生きていこう、と。幸い、鑑定士はどんな町でも需要がある。たとえ大金は稼げなくとも、糊口をしのぐことはできるはずだ。
 当てもなく歩き、乗り合い馬車に「どこでもいいから一番安い場所まで」と頼み込んで揺られること数日。俺が辿り着いたのは、王国のはずれにある辺境の町「フロンティア」だった。
 その名の通り、未開の森と荒野に囲まれた、開拓の最前線にある町だ。王都の洗練された街並みとは程遠く、土埃の舞う通りに、粗末な木造の建物が並んでいる。活気があるとはお世辞にも言えない、寂れた町だった。
 だが、俺にはこのくらいがちょうどよかった。ここに『太陽の剣』の名を知る者はおそらくいないだろう。
 町のギルドで日雇いの仕事を探しながら、俺は少しずつ町の様子を知っていった。フロンティアは寂れてはいるが、決して死んだ町ではなかった。荒くれ者の冒険者や、夢を追う商人、そして王都での暮らしに疲れた人々が、この町で新しい生活を築こうと懸命に生きていた。彼らの目には、どこか力強い光が宿っているように見えた。
 そんなある日、町の掲示板に一枚の貼り紙を見つけた。
『道具屋、店舗ごと格安で譲ります。町外れの廃屋ですが……』
 道具屋。その文字に、俺の心は微かに動いた。パーティ時代、俺は誰よりも道具の価値や重要性を知っていた。ポーション、装備、素材……それらが冒険者の生命線であることを、身をもって理解している。
(俺が、道具屋を……?)
 突拍子もない考えだとは思った。だが、何もない今の俺にとって、それは一条の光のように思えた。
 俺はなけなしの金をかき集め、貼り紙の主である人の良さそうなお爺さんから、その店を譲り受けた。
「本当にいいのかい、兄ちゃん。ここはもう何年も使われてなくて、ボロボロだよ」
 お爺さんの言う通り、その店は廃屋同然だった。屋根には穴が開き、棚は埃をかぶって傾いている。しかし、俺の目には、ここが新たな出発点になる輝かしい城のように見えた。
「はい。ここで、俺の店を開きます」
 力強く頷く俺に、お爺さんは目を細めた。
「そうかい。頑張りなよ。何か困ったことがあったら、いつでも言いな」
 温かい言葉に、胸がじんわりと熱くなる。王都で浴びせられた罵声とはまるで違う、人の温もり。
 こうして、俺の新しい人生が始まった。店を修理し、商品を仕入れるための素材を集める。全てがゼロからのスタートだ。だが、不思議と心は晴れやかだった。
 誰かに評価されるためじゃない。自分のために、自分の力で生きていく。その確かな手応えが、俺の心を奮い立たせていた。
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