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第6章:奇跡の道具屋と、聖女の復活
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「『光の魔石』か……。心当たりはあるのか、アル」
店の奥の作業場で、リナが真剣な顔で俺に尋ねる。
「ああ。町の東にある『月光の洞窟』。あそこは聖属性の魔力が強い場所だから、奥に行けば見つかるかもしれない。ただ……」
「危険なんだろ。知ってる。Aランク級の魔物が巣食っているという話だ」
月光の洞窟は、美しい鉱石が採れることで知られているが、その分、強力な魔物のテリトリーでもあった。普通の冒険者では生きて帰れない場所だ。
「だから、リナ。君の力が必要だ」
「当然だ。お前の行くところなら、どこへでもついて行く」
リナは背中の魔剣グラムの柄を握り、自信に満ちた笑みを浮かべた。彼女の呪いを抑制する鞘を作って以来、リナは魔剣の力を完全にコントロールできるようになっていた。今の彼女なら、Aランク級の魔物とも渡り合えるだろう。
「セラさんは、店で待っていてください。必ず、戻りますから」
「アルさん、リナさん……どうか、ご無事で」
不安そうに祈るセラに見送られ、俺とリナは月光の洞窟へと向かった。
洞窟の内部は、壁面が淡い光を放つ鉱石で覆われ、幻想的な光景が広がっていた。しかし、その美しさとは裏腹に、そこは死と隣り合わせの危険な場所だった。
「来るぞ、アル!」
リナの警告と同時に、洞窟の闇から鋭い爪を持つ獣型の魔物『シャドウパンサー』が複数、飛び出してきた。
「こいつら、闇に紛れて奇襲してくるタイプだ! リナ、俺が光で動きを封じる!」
俺は事前に用意していた『閃光石』を投げつける。強烈な光が弾け、魔物たちが一瞬怯んだ。
「もらった!」
その隙を、リナが見逃すはずがない。彼女は魔剣グラムを抜き放ち、閃光のような速さで駆け抜ける。一瞬の交差。リナが剣を鞘に納めると同時に、背後でシャドウパンサーたちが悲鳴もなく崩れ落ちた。
俺のサポートと、リナの圧倒的な剣技。二人いれば、どんな困難も乗り越えられる。そんな確信が、俺たちの間に生まれていた。
いくつもの罠を俺の『鑑定』で見抜き、魔物の群れをリナが薙ぎ払い、俺たちは洞窟の最深部へとたどり着いた。
そこは広大な空洞になっており、中央の祭壇のような岩の上に、拳ほどの大きさの水晶が鎮座していた。それは、自ら太陽のように眩い光を放っており、洞窟全体を昼間のように照らしていた。
「あれだ……『光の魔石』!」
俺が駆け寄ろうとした、その時。魔石を守るように、巨大な影が立ち塞がった。洞窟の主、『クリスタル・ゴーレム』だ。全身が硬い水晶でできたAランク級の魔物。物理攻撃はほとんど通じない。
「アル! 弱点はどこだ!」
「待ってろ、今鑑定する! ……よし、分かった! 心臓部にあるコアだ! でも、外殻が硬すぎる……!」
『解析結果:ゴーレムの水晶は特定の音波に弱く、共振させることで一時的に強度を低下させることが可能』
「リナ! 剣の柄で、あいつの胸の中心を強く、短い間隔で叩き続けてくれ!」
「叩く? 分かった!」
リナは俺の意図を正確に汲み取り、ゴーレムの懐に飛び込む。そして、硬い胸板を剣の柄でカン、カン、カン!とリズミカルに打ち鳴らし始めた。すると、ゴーレムの全身の水晶に、ピシリ、と微細なヒビが入った。
「今だ!」
「おおおおおっ!」
リナは大きく後ろに跳躍すると、魔剣グラムを構え、全魔力を剣先に集中させる。
「――天穿(てんせん)!」
リナの絶叫と共に放たれた一閃は、光の槍となってゴーレムの胸を貫いた。コアを破壊されたゴーレムは、甲高い断末魔を上げて崩れ落ち、無数の光の粒子となって消えていった。
俺たちは無事に『光の魔石』を手に入れ、急いで店へと戻った。
そして、俺は持てる技術のすべてを注ぎ込み、『人工聖具』の作成に取り掛かった。『光の魔石』を核とし、森で採取した聖なる気を帯びた『銀霊樹』の枝を組み合わせ、俺の『合成』スキルで一つのペンダントへと作り上げる。
完成したのは、銀の台座に『光の魔石』が嵌め込まれた、神々しいまでに美しいペンダントだった。
「セラさん、これを」
俺がペンダントをセラに渡すと、彼女は震える手でそれを受け取った。そして、首にかけた瞬間――。
ペンダントから溢れ出した温かい光が、セラの全身を包み込んだ。彼女の体内に眠っていた聖なる力の回路が再起動し、失われた力が奔流となって彼女の元へと還っていく。
「あ……ああ……力が……戻ってきます……!」
セラの瞳から、喜びの涙が溢れる。彼女の体からは、清浄で神聖なオーラが放たれていた。紛れもない、聖女の復活だった。
セラはすぐさま町の診療所へ向かい、その両手をかざして祈りを捧げた。
「聖なる光よ、この地を蝕む病を浄めたまえ――ホーリー・キュア!」
彼女の手から放たれた柔らかな光が、患者たち一人一人に降り注ぐ。すると、あれほど人々を苦しめていた衰弱病が、まるで嘘のように癒えていったのだ。
町は、歓喜に包まれた。
この一件で、俺の道具屋『アルケミスト』の名は、もはやただの噂ではなくなった。「フロンティアの奇跡の道具屋」として、その名声は周辺の領地、そして遠く王都にまで届き始めることになる。
そして、聖女セラもまた、俺の大切な仲間として、店に残ってくれることになった。道具屋は、最強の女剣士と本物の聖女を擁する、とんでもない場所になっていた。
店の奥の作業場で、リナが真剣な顔で俺に尋ねる。
「ああ。町の東にある『月光の洞窟』。あそこは聖属性の魔力が強い場所だから、奥に行けば見つかるかもしれない。ただ……」
「危険なんだろ。知ってる。Aランク級の魔物が巣食っているという話だ」
月光の洞窟は、美しい鉱石が採れることで知られているが、その分、強力な魔物のテリトリーでもあった。普通の冒険者では生きて帰れない場所だ。
「だから、リナ。君の力が必要だ」
「当然だ。お前の行くところなら、どこへでもついて行く」
リナは背中の魔剣グラムの柄を握り、自信に満ちた笑みを浮かべた。彼女の呪いを抑制する鞘を作って以来、リナは魔剣の力を完全にコントロールできるようになっていた。今の彼女なら、Aランク級の魔物とも渡り合えるだろう。
「セラさんは、店で待っていてください。必ず、戻りますから」
「アルさん、リナさん……どうか、ご無事で」
不安そうに祈るセラに見送られ、俺とリナは月光の洞窟へと向かった。
洞窟の内部は、壁面が淡い光を放つ鉱石で覆われ、幻想的な光景が広がっていた。しかし、その美しさとは裏腹に、そこは死と隣り合わせの危険な場所だった。
「来るぞ、アル!」
リナの警告と同時に、洞窟の闇から鋭い爪を持つ獣型の魔物『シャドウパンサー』が複数、飛び出してきた。
「こいつら、闇に紛れて奇襲してくるタイプだ! リナ、俺が光で動きを封じる!」
俺は事前に用意していた『閃光石』を投げつける。強烈な光が弾け、魔物たちが一瞬怯んだ。
「もらった!」
その隙を、リナが見逃すはずがない。彼女は魔剣グラムを抜き放ち、閃光のような速さで駆け抜ける。一瞬の交差。リナが剣を鞘に納めると同時に、背後でシャドウパンサーたちが悲鳴もなく崩れ落ちた。
俺のサポートと、リナの圧倒的な剣技。二人いれば、どんな困難も乗り越えられる。そんな確信が、俺たちの間に生まれていた。
いくつもの罠を俺の『鑑定』で見抜き、魔物の群れをリナが薙ぎ払い、俺たちは洞窟の最深部へとたどり着いた。
そこは広大な空洞になっており、中央の祭壇のような岩の上に、拳ほどの大きさの水晶が鎮座していた。それは、自ら太陽のように眩い光を放っており、洞窟全体を昼間のように照らしていた。
「あれだ……『光の魔石』!」
俺が駆け寄ろうとした、その時。魔石を守るように、巨大な影が立ち塞がった。洞窟の主、『クリスタル・ゴーレム』だ。全身が硬い水晶でできたAランク級の魔物。物理攻撃はほとんど通じない。
「アル! 弱点はどこだ!」
「待ってろ、今鑑定する! ……よし、分かった! 心臓部にあるコアだ! でも、外殻が硬すぎる……!」
『解析結果:ゴーレムの水晶は特定の音波に弱く、共振させることで一時的に強度を低下させることが可能』
「リナ! 剣の柄で、あいつの胸の中心を強く、短い間隔で叩き続けてくれ!」
「叩く? 分かった!」
リナは俺の意図を正確に汲み取り、ゴーレムの懐に飛び込む。そして、硬い胸板を剣の柄でカン、カン、カン!とリズミカルに打ち鳴らし始めた。すると、ゴーレムの全身の水晶に、ピシリ、と微細なヒビが入った。
「今だ!」
「おおおおおっ!」
リナは大きく後ろに跳躍すると、魔剣グラムを構え、全魔力を剣先に集中させる。
「――天穿(てんせん)!」
リナの絶叫と共に放たれた一閃は、光の槍となってゴーレムの胸を貫いた。コアを破壊されたゴーレムは、甲高い断末魔を上げて崩れ落ち、無数の光の粒子となって消えていった。
俺たちは無事に『光の魔石』を手に入れ、急いで店へと戻った。
そして、俺は持てる技術のすべてを注ぎ込み、『人工聖具』の作成に取り掛かった。『光の魔石』を核とし、森で採取した聖なる気を帯びた『銀霊樹』の枝を組み合わせ、俺の『合成』スキルで一つのペンダントへと作り上げる。
完成したのは、銀の台座に『光の魔石』が嵌め込まれた、神々しいまでに美しいペンダントだった。
「セラさん、これを」
俺がペンダントをセラに渡すと、彼女は震える手でそれを受け取った。そして、首にかけた瞬間――。
ペンダントから溢れ出した温かい光が、セラの全身を包み込んだ。彼女の体内に眠っていた聖なる力の回路が再起動し、失われた力が奔流となって彼女の元へと還っていく。
「あ……ああ……力が……戻ってきます……!」
セラの瞳から、喜びの涙が溢れる。彼女の体からは、清浄で神聖なオーラが放たれていた。紛れもない、聖女の復活だった。
セラはすぐさま町の診療所へ向かい、その両手をかざして祈りを捧げた。
「聖なる光よ、この地を蝕む病を浄めたまえ――ホーリー・キュア!」
彼女の手から放たれた柔らかな光が、患者たち一人一人に降り注ぐ。すると、あれほど人々を苦しめていた衰弱病が、まるで嘘のように癒えていったのだ。
町は、歓喜に包まれた。
この一件で、俺の道具屋『アルケミスト』の名は、もはやただの噂ではなくなった。「フロンティアの奇跡の道具屋」として、その名声は周辺の領地、そして遠く王都にまで届き始めることになる。
そして、聖女セラもまた、俺の大切な仲間として、店に残ってくれることになった。道具屋は、最強の女剣士と本物の聖女を擁する、とんでもない場所になっていた。
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