無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!

黒崎隼人

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第6話「置き去りにした歯車」

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 その頃、リアムを追放した勇者パーティーは、深刻なスランプに陥っていた。
「クソッ! またこっちの道も行き止まりかよ!」
 薄暗い迷宮の通路で、勇者アルスはいまいましげに壁を殴りつけた。リアムを追い出してもう一年近くになるが、迷宮の攻略は全く進んでいなかった。それどころか、以前は難なく進めていた階層でさえ、苦戦を強いられる始末だった。
「アルス様、落ち着いてください。焦りは禁物ですわ」
 聖女セリアが気遣うように声をかけるが、アルスのいら立ちは収まらない。
「うるさい! 落ち着いていられるか! あの役立たずがいなくなって、せいせいすると思っていたのによ! なぜこうも上手くいかねえんだ!」
 原因は、火を見るより明らかだった。リアムの不在だ。
 彼らは、リアムの【鑑定】スキルがいかに重要であったかを、失って初めて痛感していた。
「ちっ、この宝箱も罠かよ! さっきから罠ばっかりじゃねえか!」
 魔法使いが、宝箱に仕掛けられた毒矢の罠にかかって呻いている。リアムがいれば、一瞬で罠の有無を見抜き、安全な宝箱だけを選んで開けることができた。しかし、今は手当たり次第に開けては、罠にかかることの繰り返しだ。
「この剣もハズレだ…。鑑定してもらったら、ただのなまくらだったぜ」
 戦士が投げ捨てた剣は、見た目こそ立派な魔法の剣に見えたが、実態は粗悪な偽物だった。リアムがいれば、ドロップしたアイテムの真贋や性能を瞬時に見抜いてくれた。彼の鑑定眼は、パーティーの装備の質を最高レベルに保つための生命線だったのだ。
 だが、彼らはその重要性を理解していなかった。鑑定結果を報告するだけのリアムを、ただ乗りしているだけの「寄生虫」としか見ていなかったのだ。
「回復薬(ポーション)ももう尽きそうです…。これ以上は進めません」
 セリアが悲痛な声を上げる。リアムは、道端の薬草から高純度の回復薬を精製することもできた。材料の品質を【鑑定】で見極め、最適な調合を導き出していたからだ。彼がいなくなり、パーティーの消耗は以前の数倍にもなっていた。
「くそ、くそ、くそっ! なんでだよ! 俺は勇者だぞ! あんな無能がいなくたって、やれるはずだろうが!」
 アルスの叫びは、虚しく迷宮に響くだけだった。
 彼らは気づいていなかった。リアムという、最も重要な歯車を自ら取り外してしまったことに。パーティーという精密機械は、今やまともに動くことすらできなくなっていた。
 焦りと苛立ちは、パーティー内の不和を生んだ。
「おい、アルス! てめえのせいで、俺の愛剣がボロボロになっちまったじゃねえか! どうしてくれるんだ!」
「なんだと! てめえの立ち回りが悪いんだろうが!」
 些細なミスを互いになすりつけ、仲間同士でいがみ合う。かつての精鋭パーティーの面影は、もはやどこにもなかった。セリアも、成功から見放され、苛立ちを募らせるアルスの姿に、かつて抱いた憧れが薄れていくのを感じていた。
『こんなはずじゃなかった…。アルス様と一緒なら、もっと輝かしい未来が待っているはずだったのに…』
 彼女の脳裏に、ふと、追放した男の顔がよぎる。いつもおどおどしていて、頼りなかった元婚約者。
『リアム…あいつ、今頃どこで何をしているのかしら…』
 路地裏で飢え死にでもしているだろうか。そう思うと、ほんの少しだけ胸が痛んだ。だが、すぐにその感傷を振り払う。自分が選んだ道だ。アルスこそが、自分を栄光へと導いてくれる唯一の存在なのだから。
 そう信じたかった。
 そんなある日、攻略に行き詰まった彼らが王都に帰還すると、街が奇妙な噂で持ちきりになっていることに気づいた。
「おい、聞いたか? 辺境にできた『エデン』って都市国家の話」
「ああ! なんでも、そこの作物は食えば寿命が延びるだの、泉の水を飲めば万病が治るだのって話だぜ」
「そこで作られた武具は、国宝級の魔剣に匹敵する性能らしいじゃないか!」
「エデン」…聞いたこともない都市の名だ。しかし、その噂はあまりにも現実離れしており、アルスたちは一笑に付した。
「馬鹿馬鹿しい。辺境にそんな都合のいい場所があるわけないだろう」
「ええ、きっと尾ひれがついたただの噂ですわ」
 しかし、その噂は日を追うごとに真実味を帯びていく。貴族たちがこぞって「奇跡のカブ」を買い求め、騎士団が「エデン鋼」の武具の導入を検討し始めたのだ。
 そして、彼らの耳に、決定的な情報がもたらされた。
 その奇跡の都市国家「エデン」をゼロから創り上げ、統治している指導者の名。
 ――その名は、「創生王」リアム。
「…は?」
 アルスは、報告に来た騎士の言葉が理解できなかった。
「リアム…だと? どこのどいつだ、それは」
「はっ。それが、元々アルス様のパーティーに所属されていた、鑑定士のリアム様だそうで…」
 時が、止まった。
 アルスも、セリアも、パーティーの誰もが、凍りついたように動けない。
 あの無能。
 あの寄生虫。
 自分たちがゴミのように捨てた、あのお荷物が。
 辺境で、奇跡の都市を創り、王として君臨している…?
「…あり得ん」
 アルスの口から、絞り出すような声が漏れた。
「何かの間違いだ。あいつにそんなことができるはずがない…!」
 だが、彼の否定は、自らの焦りと動揺を隠すための虚勢でしかなかった。胸の奥で、嫌な予感が渦巻いていた。もし、あの噂が本当なら。もし、自分たちがとんでもない宝を、自らの手でドブに捨ててしまったのだとしたら…?
「…確かめに行くぞ」
 アルスは、血走った目で仲間たちに命じた。
「辺境のエデンとやらに、今すぐ向かう。そして、もしそいつが本当にあのリアムなら…力ずくで連れ戻してやる!」
 彼の傲慢な思考は、まだ自分たちが優位な立場にいると信じて疑わなかった。自分たちが犯した過ちの大きさに気づくのは、もう少し先のことである。
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