無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!

黒崎隼人

文字の大きさ
12 / 14

第11話「それぞれの終着点」

しおりを挟む
 セリアがエデンから追い返された後、元勇者パーティーのメンバーたちは、まさしく転落の人生を歩んでいた。
 勇者の称号を剥奪されたアルスは、完全に牙を抜かれた獣のようだった。プライドだけは異常に高いため、日雇いの仕事も長続きしない。酒場で「俺は元勇者だ」と吹聴しては、周りの客から笑われ、喧嘩騒ぎを起こしては衛兵に叩き出される毎日。かつての英雄の面影はなく、ただの哀れな酔っぱらいに成り下がっていた。彼は酒に溺れ、過去の栄光という幻影の中でしか生きられなくなってしまったのだ。
 セリアは、神殿からも追放された後、その美貌を武器に貴族の愛人になろうとした。だが、「勇者を捨て、今度は追放された鑑定士に媚を売った性悪聖女」という悪評が広まっており、誰も彼女を相手にしなかった。結局、彼女は安酒場で体を売ることでしか日銭を稼げなくなり、かつての輝きを失った瞳で、虚ろに日々を過ごしているという。
 他のメンバーも同様だった。リアムの重要性を理解せず、アルスに同調して彼を追い詰めた者たちは、その罰を受けるかのように、次々と落ちぶれていった。冒険者として再起しようにも、彼らの実力はリアムの【鑑定】に支えられていた部分が大きく、単独では低ランクの依頼すらまともにこなせなかった。彼らはやがて盗賊に身を落としたり、路地裏で無様に命を落としたりと、惨めな末路を辿っていった。
 自らがまいた種の結果とはいえ、その話を聞いた俺の心に浮かんだのは、憐憫でも嘲笑でもなく、ただ虚しさだけだった。彼らの物語は、もう終わったのだ。
 一方で、俺たちの物語は、まだ始まったばかりだった。
 エデンは、その後も驚異的な発展を遂げた。
 俺は【神の万年筆】の力を使い、新たな作物を次々と生み出した。一年中収穫できる米、どんな病気も治す薬草、暗闇で光るコケ。エデンの産物は大陸中の人々の生活を豊かにし、都市にはさらに多くの人が集まってきた。
 人間だけでなく、エルフやドワーフ、獣人といった亜人たちも、エデンの噂を聞きつけて移り住んでくるようになった。彼らは俺が築いた「種族による差別のない法」のもと、互いの文化を尊重し合い、助け合って暮らしている。多様な種族がもたらす知識や技術は、エデンをさらに活性化させた。
 俺は、もうただの領主ではなかった。様々な種族からなる連合国家「エデン連邦」の、初代国王として推戴されていた。
 そんなある晴れた日、俺はリーシャを連れて、エデンの街を見下ろせる丘の上にいた。
「綺麗…。リアムさんが創った街、本当に綺麗ね」
 眼下に広がる、活気に満ちた美しい街並みを見ながら、リーシャが幸せそうに微笑む。
 追放されてこの村に来た日、彼女の涙を見て、この村を救おうと決意した。あれから、ずいぶんと遠くまで来たものだ。
 俺は、隣に立つ彼女の手を、そっと握った。
「リーシャ」
「はい、リアムさん」
「いつも、そばにいてくれてありがとう。君がいなければ、今の俺はいない。今のエデンも、なかっただろう」
「そんなこと…。私は、何も…」
「ううん。君の笑顔が、俺の支えだったんだ」
 俺は彼女に向き直り、覚悟を決めて、言葉を続けた。
「リーシャ。俺と、結婚してくれないか。これからもずっと、俺の隣で笑っていてほしい」
 プロポーズの言葉に、リーシャは大きく目を見開いた。その大きな瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。それは、初めて会った日の絶望の涙ではなく、温かい、幸せの涙だった。
 彼女は、何度も何度も、力強くうなずいた。
「はい…! 喜んで…!」
 俺は彼女を強く抱きしめた。温かくて、柔らかい。俺が本当に手に入れたかった、かけがえのない宝物だ。
 俺たちの婚約は、エデンの民すべてから祝福された。かつて俺を追放した王国からも、今や対等な国家として、祝賀の使者が送られてきた。皮肉なものだ。
 過去との決着はついた。そして、俺の隣には、未来を共に歩むパートナーがいる。
 俺はもう、過去を振り返らない。この愛する国と、愛する人々のために、俺はこれからも世界を創り続けていく。
 創生王リアム。それが、今の俺の名前だ。この物語は、まだ始まったばかりなのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

公爵家を追い出された地味令嬢、辺境のドラゴンに嫁ぎます!

タマ マコト
ファンタジー
公爵家の三女ローザ・アーデルハイトは、華やかな姉たちの陰で「家の恥」と疎まれ、無垢な心のまま追放される。 縁談という名の追放先は――人が恐れる辺境、霧深き竜の領地。 絶望の果てで彼女は、冷たい銀の瞳を持つ竜の化身・カイゼルと出会う。 恐怖の代わりに、ローザの胸に芽生えたのは奇妙な安らぎだった。 それはまだ名もなき“始まり”の感情。 ――この出会いが、滅びか救いかも知らぬままに。

異世界カードSHOP『リアのカード工房』本日開店です 〜女神に貰ったカード化スキルは皆を笑顔にさせるギフトでした〜

夢幻の翼
ファンタジー
自分のお店を経営したい! そんな夢を持つアラサー女子・理愛(リア)はアルバイト中に気を失う。次に気がつけばそこでは平謝りする女神の姿。 死亡理由が故意か過失か分からないままに肉体が無い事を理由に異世界転生を薦められたリアは仕方なしに転生を選択する。 だが、その世界では悪事を働かなければ自由に暮らして良い世界。女神に貰ったスキルを駆使して生前の夢だった店舗経営に乗り出したリア。 少々チートなスキルだけれど皆を笑顔にさせる使い方でたちまち町の人気店に。 商業ギルドのマスターに気に入られていろんな依頼も引き受けながら今日も元気にお店を開く。 異世界カードSHOP『リアのカード工房』本日も開店しています。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

【完結】追放勇者は辺境でスローライフ〜気づいたら最強国の宰相になってました〜

シマセイ
ファンタジー
日本人高校生の佐藤健太は異世界ソレイユ王国に勇者として召喚されるが、騎士団長アルフレッドの陰謀により「無能」のレッテルを貼られ、わずか半年で王国から追放されてしまう。 辺境の村ベルクに逃れた健太は、そこで平和な農民生活を始める。 彼の「分析」スキルは農作業にも役立ち、村人たちから感謝される日々を送る。 しかし、王国の重税取り立てに抵抗した健太は、思わぬ形で隣国ガリア帝国の騎士団と遭遇。 帝国の王族イザベラに才能を認められ、ガリア帝国への亡命を決意する。

無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?

黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。 古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。 これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。 その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。 隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。 彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。 一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。 痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。

処理中です...